吉本新喜劇座長・アキの念願が叶った舞台『時が来た』
「新喜劇の感じは出したくなかった」。吉本新喜劇座長・アキがそう語るのは、舞台「吉本新喜劇アキプロジェクト『時が来た』~生き様を貫いた男たち~」(7月25日・26日に東京・YOSHIMOTO ROPPONGI THEATER、8月1日・2日に名古屋・メニコン シアターAoiで上演)だ。吉本に入る前、東映京都撮影所でスタントマンをしていたアキ。○東映でスタントマンだったアキが練っていた構想
――「吉本新喜劇アキプロジェクト『時が来た』~生き様を貫いた男たち~」は、幕末の土佐藩が物語の舞台となる時代劇です。普段は新喜劇の座長を務めているアキさんが、こうした演劇に取り組もうと思った経緯から教えていただけますか。
僕は元々、吉本に入る前に、東映京都撮影所でスタントマンをやっていたんです。18歳、19歳のときに飛び込んで、そこから時代劇というものを、ドラマや映画の現場で見させてもらって、学ばせていただきました。
その頃から、こんな舞台をやりたいなというのは、うっすら構想を練っていたというか、想像していたというか。それがだんだん目標になっていったんです。ただ、東映は2年でやめて、そのままお笑いの世界に入ったので、そのとき思っていたものとは全然違う活動になっていきました。
でも、活動拠点を東京に移して、外部の劇団の方にゲストで呼んでいただいて、ガチのお芝居をいくつかやらせてもらったり、演劇の舞台を観に行ったりしているうちに、また自分の中に、こういう舞台を本気でやりたいという思いが出てきたんです。自分のまとめというか、どうしてもやっておきたいという気持ちがずっとありました。
そして、新喜劇の座長にならせていただいて、いろいろとやるべきことを固めつつ、準備をしていたんですけど、自分が構想を練っていた舞台は、叫ぶシーンも多いですし、声が飛んでしまう。そうなると、(新喜劇の)前後の公演に迷惑がかかってしまうんじゃないかという心配があって。
なので、最初は1回で終わりだと思っていたんですけど、すごく好評をいただいて、すぐに再演の話になって。再演したら次は「大阪だけで終わらせるのはもったいない」というふうに言っていただいて、名古屋と東京で上演することが決まりました。
――関西では、新喜劇が毎週テレビで放送されていることもあり、アキさんにとってもホームの環境だと思います。一方、名古屋や東京では、舞台の観られ方に違いがあるのかなというふうに思ったのですが、そのあたりの捉え方はいかがでしょうか。
内容的なことで言うと、実際にお墓参りにも行きましたし、その時代に20代半ばで亡くなっていった人たちが本当にいたわけですよね。長州、薩摩、土佐などいろいろな藩があって、上の政治絡みで、そこに歯向かった人は殺されたりもした。でも、その人たちは時代を変えよう、いい方向にしていこうとしていた。
それは今の社会にも通じるところがあると思いますし、時代や内容は違っても、「いい日本にしていこう」「いい環境にしていこう」という志は変わらないと思うんです。だから、東京だから、大阪だからということではなくて。この芝居は、新喜劇のアキだと知らなくても、北海道でも沖縄でも伝わると思います。字幕をつけて中国やアメリカの方に観ていただいても伝わるものがあるはずです。
そういうことをメインでやっているので、僕自身も、時代劇に詳しい人やマニアックなところに向けたものにはしたくありませんでした。演出家の方とも「この言葉は難しいです」「これは分かりにくいです」と細かく話し合い、難しい言葉はできるだけ噛み砕いて、なくしていきました。
観に来てくださるのは新喜劇のファンの方がほとんどだと思うので、時代劇を全く知らない人にも伝わるようにしたかったんです。ややこしい言葉はできるだけなくして、熱く生きたという魂だけを今の人に見てもらう。おこがましいですけど、学生さんや仕事をしている人が観て、明日も頑張ろう、活力や希望をもらえたと思ってくれたらいいなと思っています。
○笑いを入れるべきか…アキの葛藤「めちゃくちゃ悩みました」
――アキさんが手がける演劇ということで、笑えるシーンを期待する方もいるかと思われます。ただ、『時が来た』を始めたきっかけを伺うと、相容れない部分もあるのかなと。
そこはめちゃくちゃ悩みました。新喜劇のファンの方が観に来てくださるので、お客さんのことを考えたら、少し笑いがあったほうがいいのかなと。ただ、僕としては、本名の荒木良明で活動していた、東映にいた頃の自分が役者として舞台に立って、千屋虎之助を演じる。完全に別人でありたいというのが理想というか。
今、新喜劇では「アキ助」というスパッツのおっさん、「アキコ」というおばさん、黄色いスーツのチンピラなど、いろいろなキャラクターをやらせてもらっていますが、僕が出演している新喜劇の舞台を何気なく観に来た方が、「今日、黄色の人出てなかったよね」と言うことがあるんです。
でも、僕にとっては、そう思ってもらえることがものすごく理想なんです。だから今回も、新喜劇の感じは出したくなかったですし、(ギャグの)「いぃよぉ~」も、エンディングのフリートークでは言うかもしれませんが、芝居中は全く言いません。ただ、蓋を開けてみると、「ここは笑いにしましょうか」というシーンが出てきて、やっていくうちに「これぐらいならありかな」と思えるところがあって、少し笑える部分も入れました。
ただ、それは新喜劇的な要素を取り入れたり、「いぃよぉ~」を引用したりするというわけではなくて、芝居の流れの中で笑える、という形にしています。
アキやケンをはじめとする芸人と役者が生む相乗効果
――出演者の一覧を見ると、相方のケンさんをはじめとする吉本新喜劇の座員の方も出演されていますが、普段はほかの劇団に所属している方が多くを占めている印象です。キャスティングについても、芝居を軸に考えられたのでしょうか。ケンは、東京で何年もお芝居をやっていましたし、小山ゆう先生の漫画が原作の『お~い!竜馬』という舞台でも岡田以蔵をやっていて、「ケンさんの以蔵はすごいよね」と高く評価された実績があります。新喜劇で一緒にやっていても、締めるところを締める力があるなと、目の前で見させてもらっていたので、(岡田以蔵役をケンにするキャスティングは)自信満々でした。
ほかのキャストに関しても、吉本のタレントさんや新喜劇のメンバーに出演してもらうこともできたのですが、役として別人になれる人たちで行きたかった。殺陣(たて)も「練習を頑張ってください」ではなくて、「最初からうまい人だけを集めてください」とお願いして、劇団のトップの方や、大衆演劇の方など、別の事務所からも呼んでいます。
お芝居もそうですけど、稽古のときから役者さんたちは「芸人さん、ここまでやるんや」という思いもあるでしょうし、僕らも毎日舞台に立っているので、「いやいや、そこで役者さんには負けへんで」という芸人根性でやっています。
○20年以上のキャリアを持つ役者が涙「この作品は毎年やってほしい」
――ケンさんはほかの舞台にも出演されていますし、アキさんは東映京都撮影所での経験もある。そうしたキャリアを知らずに、お二人の芝居を見て、驚く人も多いのではないでしょうか。
そうですね。東京で外部の劇団に出させていただいていたときも、周りは役者さんばかりでした。僕は東映にいたことを最初は言っていなかったんですけど、現場に行って、いきなり殺陣をした。東映の厳しい世界でやってきた根性があるから、そこは出してやろうと思っていたら、「え、アキさん、殺陣やってはったんですか?」と驚かれて。そこで初めて「実は、太秦で揉まれてまして」と言いました。
今回の舞台でも、僕や相方をはじめとする芸人たちが、本気モードのスイッチを入れてやっていますし、周りの方々もそこには負けていられないという気持ちでやってる。劇団のトップの方も、大衆演劇のトップの方もいますし、刺激し合う関係を作ることができています。
――そんな布陣で、アキさんの長年の構想を形にする。どんな舞台かますます気になります。
『時が来た』を始めて、感動したことがあって。前回公演で、打ち上げで初めてちゃんと話した役者さんが何人かいたんです。僕らは劇場の合間に稽古へ行って、夜のスケジュールも調整してもらって、めちゃくちゃ迷惑をかけていたので、みんなとゆっくり話す時間が全然なくて。
それで、打ち上げのときに「アキさんとしゃべりたくてしゃべりたくて」「僕もしゃべりたかったです」と言い合いながら話したんですけど、役者を20年以上やっている方から、「これって本当にアキさんが考えたんですか?」と聞かれて、「実は、30年前からずっとやりたくて」と話したら、「台本を読んだときから涙が止まらなくて。稽古場に行ったら、さらに皆さんのポテンシャルがすごくて、ずっと涙が出そうになっていました。この作品は毎年やってほしいです」と言ってくださったんです。
僕は1回の公演で終わりだと思っていたのですが、その方から「これは毎年、今年は誰がこの役をやるんやろう、今年は誰が主役をやるんやろう、となるくらいの作品ですよ」と言われたときに、(自分の中に長年構想としてあったものが)そんな作品になっていたんだ、と思いました。僕自身はそういう角度で見たことがなかったので、20年以上やっている役者さんにそう言っていただいて、そんなふうに捉えられていたんだという新しい発見がありました。
■プロフィール
アキ
1969年8月22日生まれ。大阪府岸和田市出身。1992年、ケンとお笑いコンビ・水玉れっぷう隊を結成。2014年、吉本新喜劇に入団。











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