北朝鮮北東部の咸興市で、窃盗や詐欺、家庭内トラブルなどを巡る被害相談が急増する一方、住民の間で司法機関への不信感が急速に広がっていることが分かった。自力で解決した方が早いとして、「法よりも拳だ」との言葉まで広がっているという。

3日、デイリーNKの現地消息筋が伝えた。

報道によると、咸興市では住民が留守中に現金や食糧、生活必需品を盗まれる空き巣被害や、市場での商売を巡る詐欺事件が相次いでいる。被害者は地方党の申告課に救済を求めるケースが増えているが、相談件数の急増で担当者の処理能力を超え、十分な調査や被害回復に至らない事例が目立っているという。

北朝鮮では従来、地方党の申告課は住民が不当な扱いを受けた際の「最後の駆け込み寺」と位置付けられてきた。被害内容を書面で提出すると担当者が事情を聞き、関係機関に調査を指示するなど一定の対応が行われていたため、住民の間では一定の信頼を集めていた。

しかし最近では、担当者が事件を詳細に調べる余裕を失い、当事者双方を呼んで形式的な事情聴取を行うだけで「当事者同士の問題」として片付けるケースが少なくないという。

実際、空き巣被害に遭った住民は、まず安全部(警察)へ届け出たものの解決せず、党申告課にも訴えたが、関係者への聞き取り調査だけで事件は終わり、盗まれた財産は戻らなかったとされる。

注目されるのは、国家機関への期待が薄れる一方で、自力救済の風潮が広がっている点だ。消息筋は「最近は『法律より拳の方が頼りになる』という言葉まで出ている」とし、役所へ訴えるより、自ら相手と対峙したり、力のある知人や周囲の人間の助けを借りたりして問題を解決しようとする住民が増えていると証言した。

このような場合、被害者から「取り立て」や「用心棒」のような仕事を請け負うアウトローたちがいたことを、筆者は2人の脱北者から聞いている。

ひとりは、大阪生まれで1970年代に北朝鮮へ帰国したものの同国の現実に絶望し、2008年に脱出した男性。もうひとりは、1995年に文藝春秋から発刊された『北朝鮮不良日記』の著者で元北朝鮮ヤクザの白栄吉(ペク・ヨンギル)氏だ。

いずれもかなり古い証言だが、北朝鮮には今でもそうした面々がいるのかもしれない。

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