わずか半年前、Z世代で巻き起こっていた「高市ブーム」。SNSには称賛の声があふれ、若年層から圧倒的な支持を集めていたが、現在その熱狂は急速に冷え込んでいる。

かつては同情を集めた伝家の宝刀「寝てないアピール」すら大炎上する事態となり、コアな支持層だった若者の「高市離れ」に歯止めがかからない。(ノンフィクションライター 窪田順生



熱狂から一転「冷めた」若者たち
半年で崩壊した高市ブームの謎



 もう忘れている人も多いだろうが、今から半年ほど前の日本では、Z世代を中心にある「ブーム」でわいていた。



「まるで少女のような微笑み」「完全に妖精」などと紹介された切り抜き動画がSNSにあふれて「いいね」が無数に押された(AERA DEGITAL 2月8日)。「どうせ誰かが裏で仕掛けているだけだろ」という懐疑的な見方をする人もいたが、ブームの主がやってくるとなると、会場には大量の若者が殺到した。これが「やらせ」とは思えないのは、若者たちが口々にこんな賞賛をしていたことだ。



「これまでの人とは違って実行力がありそう」「なんかやってくれそう」「ズバズバともの言う姿勢が最高」



 ここまで言えば、もうおわかりだろう。いわゆる「高市ブーム」のことだ。昨年12月に産経新聞とFNNが調査したところ、18~29歳の高市内閣支持率が92.4%という衝撃の結果がでた。これを受けて、動画で高市首相のほのぼのとした素顔を視聴する「サナエ推し」のZ世代の存在がクローズアップされ、高市首相とお揃いのカバンや歯ブラシを買い揃える「サナ活」なるものまで注目されたのは記憶に新しい。



 しかし、やはり「人の心は移ろいやすい」ということか、あの熱狂からわずか5カ月ほどで「高市ブーム」に対して「なんか冷めたわ」と感じる若者が増えているようだ。



 これまで報道各社の世論調査で高支持率をキープしてきた高市首相だが、ここにきてガクンと落ちてきたということは既に周知の事実だが、その中でも激減しているのが実は「若者」だ。



支持率激減を象徴する大炎上
限界を迎えた「寝てないアピール」



 例えば、毎日新聞の5月の調査では、18~29歳の支持がはじめて50%を割って45%になった。選挙ドットコムとJX通信社の5月の調査でも10代、20代で「高市離れ」が進んでいた。25年11月に20代は「支持」「どちらかと支持」を合わせると80%を超えていたのだが、今年5月にはその半分の40%強まで下落している。



 そんな「コアな支持層の離反」を象徴するのが、最近の高市首相への風当たりの強さだ。



 就任直後から高市首相は国会やSNSで忙しくて睡眠時間が取れないという「寝てないアピール」を繰り返しては、支持者やファンから「かわいそう」「応援しています!」などと同情の声を集めてきた。中傷動画疑惑の際などは、これで答弁を逃れることもできた、高市首相の「伝家の宝刀」的なブランディングだったのだが、ここにきて潮目が変わってボロカスに叩かれている。



 7月20日、高市首相はいつものように、国会答弁の準備やメールの処理に追われて「0~3時間睡眠」になっているという投稿をした。それに対して「いったい何のアピール?」「だったらさっさと辞任してゆっくり休んでください」「そんな状態では政策判断を誤るのでは」などと炎上してしまったのである。



 また、7月27日の衆院予算委員会で、国会で支持率が低下していることを問われて「私自身が分析することは困難」「原因に関してはわかりません」と答えた。同日夕方の会見では、今国会の反省点を問われ、「反省点は特にない」と答弁したことも「謙虚さのかけらもない」などと批判されている。



 数カ月前にこんな「高市批判」をしたら、SNSで高市支持者が「日本のために頑張っている早苗ちゃんをいじめるな」「これから日本を変えていく首相の足を引っ張るな」などと袋叩きにされた。そのため、なかなか盛り上がることもなかった。



 この当時、全国紙の幹部と話をしたときも「今は首相に批判的な記事はまったく読まれず、クレームや批判だけが多いので、そういう論調を避けてしまう傾向がある」と言っていた。しかし、ブームを牽引してきたZ世代が激減したことで、だいぶ風向きが変わってきたようだ。



 では、「ふとした仕草がかわいい」「早苗ちゃんしか、勝たん」などと心酔してきたZ世代はなぜここにきて、高市首相に冷めてしまったのか。



根拠のない期待が
「失望」に変わった



 いろいろな分析があるだろうが、筆者としてはもともと「なんかこれまでの首相と違うことをやってくれそう」という“根拠のない期待感”だけで生まれたブームなので、その“根拠のない期待感”が虚構だったことに気づいたZ世代たちが、波が引くように去ってしまったからではないかと思っている。中でもZ世代の「失望」が大きかったと考えられるのは以下の3つだ。



1.円安・物価高を加速させたことによる失望
2.ステマ疑惑が持ち上がったことによる失望
3.男尊女卑・時代錯誤イメージによる失望



 1に関しては、今更説明の必要もないが、日本では高市政権になって円安が加速して今や40年ぶりの水準になっている。為替介入も焼け石に水だったところ、高市首相の「悲願」だという消費減税も財源なく強行されるとなれば、「円」という通貨に対する市場の信用はさらに落ちていくだろう。



 これは我々庶民の生活をさらに苦しめることは言うまでもない。それはZ世代も同様で、例えば多くの若者が憧れる「海外旅行」の夢も円安が奪っている現実がある。



 GMOインターネットグループのGMO NIKKO株式会社が「Z世代の2026年夏休み旅行」に関する調査を実施したところ、夏休みに国内旅行のみを予定している回答者の53.7%が、当初は海外旅行も選択肢に入れていたにもかかわらず、円安・物価高や世界情勢への不安を受けて国内旅行へとシフトしていることがわかったという。



 高市首相は「円安ホクホク」とポジティブに捉え、首相の経済ブレーンの中には「円安上等」と威勢のいいことをおっしゃっていた人もいたが、Z世代にとってはシンプルに「円安ガッカリ」だったというワケだ。



 また、円安が引き起こす物価上昇は、Z世代にもっとシビアな苦境をもたらせている。こども家庭庁の2025年度「こども・若者総合調査」によれば、「自分の収入が少なく生活が苦しい」と答えたのが24.7%。高市首相がなかなか成果をあげられない「物価上昇」によって、若者の4人に1人が「生活苦」に陥っている現実があるのだ。



 そこに加えて2の「ステマ疑惑による失望」というのは、いわゆる「中傷動画問題」のことである。



 奈良の高市早苗事務所の事務所長が、「サナエトークン」の発行に関わっていた松井健氏らに、高市首相を自画自賛する動画や、野党議員を誹謗中傷する動画の作成を依頼していたのではないか報じられている一件だ。



 週刊文春や共同通信が記事の一部を訂正したことで、告発者の信憑性に疑問符をつける声もあるが、仮にこうした構図が事実であれば、ステルスマーケティングを想起させるものと言える。



Z世代が嫌悪する「嘘」
中傷動画疑惑で露呈した闇



 Z世代向けクリエイティブカンパニーFiom合同会社の「Z世代の情報信頼度についての実態調査」によれば、Z世代の81%が「#PR・広告」表記に警戒感を抱いており、SNSの「企業案件」に対して非常にシビアな目を向けている。一方で、情報に求めるのは「嘘や誇張のない、客観的な事実」(35%)がトップになっている。



 自民党総裁選や衆院選の時に大量にあふれていた「高市称賛動画」や「立憲民主議員ディスり動画」の中に、もしかしたら「企業案件」ならぬ「高市事務所案件」が含まれていたかもしれない――。情報リテラシーの高いZ世代がそんな疑惑を耳にしたら、どう感じるだろうか。



「嘘や誇張のない、客観的な事実」を求めているZ世代からすれば、かなりガッカリするのではないか。そして、大量のTikTokによって後押しされていた「高市ブーム」自体を懐疑的に見るようになるのではないか。



 そのようにZ世代が高市首相に対して「あれ? なんか思っていた人と違うかも」と不信感を募らせていたところに、トドメを刺したのが3の「男尊女卑・時代錯誤イメージによる失望」だ。



 カンのいい方はお気づきだろうが、旧宮家の男系男子を皇族にする皇室典範改正のことだ。



 今回の改正のベースとなった「男系天皇」という考え方については賛否両論あり、各社の世論調査でもその評価は拮抗している。



 一方で、国民が圧倒的に理解を示しているのは「女性天皇」だ。例えば、日本経済新聞社とテレビ東京が7月24~26日に実施した世論調査でも「女性天皇を認めるべきだ」との回答は84%で、「女系天皇」を含めた容認派も59%を超えた。



「そんなことでは2600年続く世界最古の皇統を守れない」とか「初代天皇から引き継いでいるY染色体が途絶えてしまう」という保守派の皆さんの怒りの声が聞こえてきそうだが、残念ながら「象徴天皇」なのだから、公務を頑張ってくださっている愛子さまや佳子さまのような女性皇族が「国民統合のシンボル」でもいいのではないかという国民が多数派なのだ。



「女性天皇」黙殺という時代錯誤
ちらつく大物政治家の陰にガッカリ



 こういう社会ムードを醸成しているのが、実はZ世代だ。幼い頃からジェンダー教育を施されてきたので、上の世代に比べて「男女平等」への理解があるとされている。



 そのようなZ世代から見て、国民の多くが支持する「女性天皇」を議論することもなく男系天皇をゴリ押しする高市政権には男尊女卑感を覚えた人も多いはずだ。実際、世界では「女王」は当たり前で、愛子さまと同い年で、親交の深いベルギーのエリザベート王女は「王位継承権第一位」なのでいずれ女王となる。Y染色体がどうこうという理由で女性が排除される「日本の伝統」に釈然としないZ世代は少なくない。



 しかも、それを主導しているのが「リーダーシップがありそう」と半年前にチヤホヤされていた高市首相本人ではなく、キングメーカー・麻生太郎自民党副総裁となれば、その失望はさらに大きくなる。



 御年85歳の政界のドンが国民が望む「女性天皇」を握りつぶし、物価高騰や円安の問題を後回しにしても皇室典範改正へと突き進む構図というのは、Z世代にはかなり「時代錯誤」に映ったはずだ。



 しかも、そこで半年前は「早苗ちゃんならきっとやってくれる」と持ち上げていた高市早苗首相にはほとんど発言権がなく、すべては最高実力者の麻生氏が主導しているのだ。



 これは例えるのなら、推しのアイドルの「現実」をファンが知ってしまったようなものだ。



 作詞作曲や小説も書いてマルチに活躍してファンの間で「才能すごい!」「天才だ」と褒めたたえられていたのに、実は裏では手練れのオッサン作家やプロデューサーがすべてお膳立てをしていて、そのアイドルは「忠実な操り人形」だった――。なんてことがあの世界ではよくある。



 派閥の後ろ盾を持たない高市首相は、巨大派閥の力を借りなくては何もできないという、なんとも皮肉な現実があるのだ。

皇室典範改正によって、そんなグロテスクな構図に気づいてしまったZ世代が多かったのではないか。



 熱狂の「高市ブーム」から半年、Z世代のガッカリ感ばかりが増えてしまった内閣支持率の「復活」はあるのか。伝家の宝刀「寝てないアピール」も封印されてしまった今、高市首相の次の一手に注目したい。

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