「親の介護は施設で」と考えている人も少なくないでしょう。実は今、都内の有料老人ホームは入居時費用の中央値が1000万円を突破し、「5年で約2800万円」もかかる過酷な現実が待ち受けています。

安易に親を入所させれば、子ども世代の老後まで破綻しかねません。この絶望的な事態を回避する「現実的な選択肢」と、50代から始めるべき不可欠な備えとは?(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博



有料老人ホームの
衝撃費用



 日本経済新聞とLIFULL介護の調査によると、今年1月時点で東京都内の有料老人ホームの入居時費用の中央値が1000万円を突破したそうです。東京都内の月額費用の中央値も月29.7万円で、8年間で4万円も増加しました。



 世の中の不動産価格の上昇や、インフレによる食料品価格の上昇を考えると、残念ながら受け入れるしかない変化のように感じます。上記前提で5年間で計算すると2782万円になります。親を持つ世代としてはこれはたいへんな負担です。



 結果的に有料老人ホームは、一部の余裕のある高齢者だけの選択肢にならざるをえません。厚生労働省の令和5年調査によると有料老人ホームの在所者数は約57万人(75歳未満を含む)。後期高齢者の人口比で約3%です。



 イメージとしては昭和の時代に大企業の正社員として働き、老後資金をある程度貯めてあった一部の高齢者が終のすみかとして有料老人ホームに入れているという感覚でしょうか。



 とはいえ、その選択肢を選ぶことができるボーダーラインの家計とはどのような状況なのか?親の老後資産とその子ども世代の家計をベースに考えてみたいと思います。



 私と同世代の60代の読者の方は似たような家族環境の方も多いかもしれませんので、私の状況を前提にお話しします。両親と義両親4人のうち2人はすでに鬼籍に入り、80代の親世代2人の日常的な補助を家族で対応しています。



 私の場合、運がいい面としては幸いにして2人とも不自由ながら一人暮らしができており、介護保険のサービスの範囲内で、あとは私たち家族が週1~2回顔を出すことで老後の生活は回っています。



 家族内の話し合いで歩けなくなった場合や認知症が進行した場合は、終のすみかは施設にする方向で一応の合意はできています。そのうちひとりは数年前には転倒して骨折もしたのですが、運よく回復することができました。ただ今後も、いつそうなるかはわからない。



 そうなったときに有料老人ホームを見つけること自体が難しさと労苦を伴う話なのですが、仮に半年かけて上記中央値の条件で有料老人ホームへ入居することになるとしましょう。それで親と私たち60代の息子娘世代の生活はどうなるのでしょうか?そのことを3つの視点から考えてみたいと思います。



【視点1】
親の蓄えはどれくらいあるのか?



 私の場合、親の老後生活に寄り添うようになって15年近くになりますので、それなりに家族間の情報は共有できています。ざっくり言えば、万が一の場合、有料老人ホームの入居時一時金がそのレベルならば親の預金から取り崩せますが、毎月の入居費については親の預金は早々に底をつきそうです。年金を差し引いて一定額は私たち息子家族が負担することになるかなと考えています。



 読者のみなさんの状況はおそらくまちまちではないでしょうか。私の場合、幸いにして親との関係性がよいためこういった細かいところまで情報を共有させてもらっていますが、そもそも親がいくら持っているのかをきちんと把握できているケースの方が少ないのではないでしょうか。



 私の場合、さらにもう一つ問題があります。仮に老人ホームを選ぶ理由が認知症になった場合です。

進行度合いによっては親の銀行預金がおろせなくなる可能性が出てきます。本人の意思がなければ動かすことは難しくなるのです。



「だったら1000万円、タンス預金にすればいいじゃないか」という方もいらっしゃるかもしれませんね。今流行のトクリュウ型の強盗などが恐ろしいので、うちはその選択はしていません。



 振り込め詐欺も日常的に危険があるので、親の口座は月額の引き落としができる金額は生活費の範囲内で設定しています。こういった生活防衛をしている前提で、ある日突然その日がやってくると、親の預金があってもそれを親の老後に使えなくなる危険性は存在しています。



「そのために後見人制度があるのでは」という意見もあるでしょう。しかし弁護士など資格のある方にすべて口座を管理されるうえに、老後の蓄えの中から月額数万円の費用が引かれてしまうというのは、私はあまりよい制度だとは思えません。



 ようするに十分な蓄えがあってもなくても、親の老後資産を子どもが親の老後のあてにするのには、制約があるということです。



【視点2】
「5年で2782万円」以外の選択肢は存在するか?



 さて、東京都在住で中央値であれば有料老人ホームに「5年で2788万円」の老後資金が必要になるという話をしたのですが、それ以外の選択肢はあるのでしょうか?もちろん入居一時金1億円の施設で悠々と老後を過ごしている知人も知っていますが、ここで扱うのは逆の、より少ない老後資金でもはいれる施設です。



 複数の経験者に訊ねたところ、現実的には地方の有料老人ホームを巡るというのがその解決策だったそうです。都内のお手頃な施設を見学した際に、親がどうしてもその施設には入りたくないと言い、息子本人も確かに自分だったら嫌だなと思ったそうです。それで静岡県まで範囲を広げたうえで、最終的に入居する施設を選ぶことができたといいます。



 同じLIFULLの調査によると東京、京都、兵庫といった大都市圏では入居時一時費用の中央値が1000万円前後と歴史的な高さになってきているのですが、それに比べて入居時費用の中央値が300万円未満の都道府県もその近郊になら存在します。



 具体的には首都圏なら群馬、栃木、山梨、静岡、名古屋圏なら岐阜も候補に入ります。近畿圏なら滋賀、岡山、香川といったエリアです。人気の沖縄も同じく300万円未満ですが、現住所からあまり離れ過ぎると、親に会いにいける頻度が極端に下がりそうです。



 首都圏在住の60代にとって残念なことは、この「5年で2788万円」という条件は今後、さらにインフレに向かいそうだということです。首都圏で生活していると不動産価格の上昇、人件費の上昇、食料品価格や光熱費の上昇、いずれもひしひしと負担が増えていくことを感じています。それが同様に有料老人ホームにものしかかってくるわけです。



 それらの要素を考えると、現実的な選択肢として親の終のすみかをどの都道府県にするかも今のうちに話し合っておいたほうがいいかもしれません。



【視点3】
月20万円を仮に負担することになったとしたら?



 最後の視点を見てみましょう。仮に親を有料老人ホームに入れるにあたり、月額費用は自分が負担しなければいけなくなったとしたら、自分の定年後の生活はどうなるのでしょうか?



 仮にモデルとして50代までは年収700万円、60歳を過ぎて再雇用で年収は半減、70歳手前で引退しようと考えていたとしましょう。親の老後資金を取り崩してなんとか近県の有料老人ホームに入居まではできたとします。



 一時金は不動産価格の違いで地方では安くなりますが、毎月の費用も地方の施設のほうが安くなります。

家賃以外にも人件費、食費、光熱費がその内訳ですから、そこは仕方ないでしょう。



 今回は、都内の中央値29.7万円を前提に、入居できた施設はそれよりも若干安い月額26万円だったとします。



 その費用の一部を親の国民年金6万円をあてたとして、残り月20万円を自分が負担することに決めたとします。そのタイミングが上記モデルとして60代、嘱託として年収350万円のタイミングで決断を迫られたとしたら、自分の生活はどうなるのでしょうか?



 普通に考えると生活が成り立たないことがすぐにわかります。現実には、施設に入れられないから家族で介護をするという選択をする人がたくさん存在するわけです。ただこの記事ではあくまでモデルとして、親を有料老人ホームにいれた場合を考えていきます。



 これもモデルとしての考え方ですが、一番わかりやすい改善策は共働きでしょう。夫婦で手取りの月収が50万円なら20万円を親に出したとしても数字上は生活費は回るかもしれません。ちなみに親の介護費用には贈与税は発生しませんので、その点はご安心ください。



 ただここはあくまで思考実験として記事を書いているのですが、自分事として考えれば夫婦で月収50万円のところから親に20万円出して、自分たちは月30万円で生活するというのは精神的にかなりきつい状況でしょう。



 こうして思考実験してみるとわかるのですが、親を含めた老後生活を成立させるには、50代のうちから思っていたよりも多くの老後資金を蓄えておくことが必要なことがわかります。



 おそらく親の世代の大半は老後資金を銀行預金で蓄えてきたはずですから、それほどアップサイドは期待できません。



 ですからその息子世代は、新NISAなどを積極的に活用し、投資信託を中心に「増えていく老後資金を計画的に蓄える」備えが必要です。



 老後資金の半分を50代までに蓄え、残り半分は退職金で積み増します。そのうえで住宅ローンも払い終えて、十分な金融資産が残された状態に計画的に持っていくのです。



 それで投資信託の運用益が年額300万円ぐらい期待できる状況になれば、ようやく自分の老後生活と、親の終のすみかでの生活が安定する。厳しいですが計算上はそのような結果になるのです。



 最後にもうひとつ重要なことをお話しします。これだけ苦労して親を介護するのですから、そのプロセスにはぜひ孫を参加させてください。一緒に老人ホームの見学に言くのです。



「おとうさんはスマホ苦手だから、検索するのを手伝って」といえば孫の世代も老人ホーム選びが大変なことに気づいていくでしょう。



「新NISAの蓄え、こんなポートフォリオで大丈夫だと思う?」とアドバイスを求めることで、孫も自分の親が祖父母を大切にしていることを理解するでしょう。



 逆に決して子どもの前で、「もう嫌だ。親の面倒などみたくない」と言ってはいけません。

次はあなたの番なのですから。



 こうした最後の努力で、あなたの息子さん、娘さんも「親の介護は自分の責任だ」と思ってくれるかもしれません。ワンチャン、それに賭けてみませんか?

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