7月2日より配信開始となったNetflixドラマ『ガス人間』。主演の小栗旬蒼井優を軸に描かれ、シリーズ国内トップ10で1位を獲得している話題作だ。
中でも、物語の大きな鍵となる兄妹役の広瀬すず林遣都の動画配信者としての「底辺」ぶりが凄い。全8話の途中で突如現れる彼らの存在に賛否あるものの、2人なくしては物語が成立しなかったのではないかと思う(以下、ネタバレを含む)。

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東宝の映画『ガス人間第1号』をリブートした今作は、テレビの生放送中に起こったガス人間が起こしたとされる惨劇から始まる。それを契機に日本全体が恐怖に陥れられる中、刑事・岡本賢治(小栗)と報道記者・甲野京子(蒼井)はそれぞれの正義に従い、真実を追う。

体を人間の姿からガスに変え変幻自在に人を殺めていくガス人間役には、今作が俳優デビューとなった本木雅弘の息子・UTAを迎え、190㎝近い長身も相まって規格外のインパクトを放っている。演技からモッくんと樹木希林の面影もありありと映し出されており、今後あらゆる映像作品でオファーが殺到しそうだ。

本筋のサスペンスはこの3者により骨太で重厚な展開を見せるが、中盤に入り唐突に視点が変わり、広瀬と林が扮する藤川華歩と藤川富士太による兄妹底辺動画配信者が物語の中心に配置される。

動画配信サービスでオカルト・都市伝説系チャンネル「フジタとカホの恐怖地帯」を運営する2人。広瀬はこれまで、瑞々しい可愛らしさを武器にするだけでなく、映画『流浪の月』やドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)などで、心に闇を抱えた人物をリアルに体現してきた。林は影があったり情緒深い役どころも多いが、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)では、コミカルかつ愛らしいキャラで演技の幅を広げてきた。

広瀬演じる華歩は左目周辺に大きなあざがあり、それを引け目に感じ兄の富士太以外と接点を持とうとしていない。動画にも声のみの出演だ。
日常の人の視線、ガス人間、そして兄が自分から離れていくかもしれない恐怖。常に何かに怯えているその姿は、普段の凛とした強さを持つ広瀬とは別人のようだ。

林演じる富士太は、現状維持を望む華歩と違い、何者かになるべく、動画再生数稼ぎのためにガス人間の真相にどんどん近づこうとする。動画出演時には、妹とお揃いかのような長髪にゴス系メイクを施し、舌足らずな活舌と鼻息の粗さ、過剰な演出と誇張表現を用いており、精悍な二枚目である林の姿はどこにもない。

広瀬と林は彼らだけでも大型映画が制作出来るほどの役者で、「底辺」をそんな「大物」が演じているという非日常がワクワクさせてくれる。資金力豊富なNetflix作品の強みだろう。

そして刑事や記者という立場から事件を追う小栗、蒼井と違い、広瀬と林がコミカルに演じる兄妹は、視聴者の多くが目にしたことのある、必死になりあがろうとする動画配信者だ。自身の外見と兄に対しコンプレックスを抱く華歩、日々の鬱憤を積もらせながら妹思いで必死にもがく富士太。今作が一気に現実感を増し、視聴者の目線に降りてくる。情報を追って、拡散し、怖いもの見たさに次をクリックし真実を見定めようとする現代人の縮図でもある。

また、実生活で兄を持つ末っ子で「妹感」を全開に出している広瀬と、妹を持つ兄である林のテンポ良い掛け合いも微笑ましい。やたら距離感の近い兄妹という現代らしい愛の形を提示し、『ガス人間』の無機質さに人間らしい体温を与えている。


今作では、眉毛無しオールバックで元ヤクザを演じ、誰だか分からない竹野内豊も強烈だが、映像会社社長・ゴロ監督演じる髙嶋政宏も相当衝撃的だ。ハットに眼鏡、ジャケットにミニスカートの鬼才を演じながら、富士太を面接するシーンでは10分の長回しで、質問の8割をアドリブで下ネタにしてぶつけたという。それに自然に食らいついていった林の役者魂に感服すると同時に、「一旦、笑っていいんだ」という符号にもなり、緊張から緩和、そしてまた緊張と、物語に緩急を生んでいる。

特撮ものとして王道だった序盤から、突如差し込まれた2人を中心とするエピソードに賛否もある。それでも、定石通りサスペンスが進み、リブート作品だけに既視感がないわけではない展開から、鋭利な角度で現れた兄妹が、この大作を真面目一辺倒にせず、可能性を広げ、多層的な魅力を与えている。

主人公とヒロインがほとんど出てこない回は、1週空いて放送される連続ドラマでは難しく、「一気見」することが前提の配信ドラマならではの強みだ。

小栗、蒼井、UTAが絡むヒューマンサスペンスにトンチキパートを差し込みつつ、兄妹愛を爆発させドラマティックな展開に寄与した主演クラスの2人の快演。視聴者に一段上の感情移入を促し、「この先」を見たいと思わせるドラマに仕立て上げた。もし序盤のシリアスさが合わないと感じた視聴者がいたら、ぜひ広瀬&林メイン回までは視聴して欲しい。

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