ハイセンスグループは1969年に十数人の小さなラジオ工場として出発した。以来57年の歴史を誇る総合家電メーカーの老舗だ。現在では世界41の生産拠点、65の海外現地法人や事務所、31の研究開発拠点を有し、160以上の国・地域で製品を販売する。2025年のグループ売上高は2244億元(約5兆円)に達する見込みだ。うち中国以外の海外市場の売上高は1107億元と、海外での売り上げが約半分を占める。名実ともにグローバル企業に成長した。
このグローバル化について、ハイセンスグローバルマーケティングセンターの方雪玉 社長は「06年に打ち出した『成長の主軸を海外に』という戦略から始まった。現在は世界『1+7(中国+海外7地域)』の地域運営体制を構築する段階」と話す。さらに「真のグローバルブランドになるには、ブランドへの要求が厳しい日本や欧州、米国での成功が不可欠」(方 社長)。
ハイセンスアジア太平洋地域センター社長 兼 ハイセンスジャパンの張喜峰 社長は日本での展開について「日本市場における徹底したローカライズ戦略『Local for Local』を続けてきた」と話す。「10年のハイセンスジャパン設立以来、11年にテレビ、13年に冷蔵庫、16年に洗濯機と販売を拡大。18年には買収したTVS REGZAと共同でテレビ画質チップを開発、21年には日本にR&D研究センターを設立した。テレビ事業は、25年通年でテレビの国内シェア3位を達成した」とする。日本市場における基本戦略は「『世界の最先端技術+日本の品質+現地化の運営・マーケティング』で、日本の消費者に信頼されるローカルブランド化を目指す」と話した。
ハイセンスはスポーツマーケティングへの取り組みも熱心だ。ハイセンスグローバルマーケティングセンター ブランド&マーケティング本部 海外統合マーケティング部の顧星宇 部長は、スポーツマーケティングは言葉の壁を越える共通言語が強味であり、同社のグローバル戦略の中核施策と位置づける。16年以降、UEFA欧州選手権やFIFAワールドカップなど、世界最高峰の大会に協賛を続けてきた。効果について方 社長は「協賛前の47年間で、売り上げは約1000億元だった。スポーツマーケティングを活用し始めた後の約10年間では、売り上げは倍の2000億元を突破した」と語る。今回のFIFAワールドカップでは、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)用ディスプレイの公式パートナーとして大会運営を支援し、自社の最先端技術を世界に発信している。
ハイセンスのテレビで特筆すべきは、同社が開発した「RGB Mini LED」テレビだ。各バックライトユニットに赤・緑・青(RGB)のLEDチップを搭載したのが特徴。バックライト自体の色が映像に伴って変化するため、よりリアルな発色を実現する。構造上ブルーライトの発生も少ない。省エネ性能に優れ、従来のMini LEDテレビに比べ、エネルギー効率が約40%向上するという。RGB Mini LEDテレビが初めてお目見えしたのは25年1月。
有機ELテレビは、映像は美しいものの、大型化やコストダウンが難しい。一方、RGB Mini LEDテレビはその課題を克服する新しい技術として期待が集まっている。ハイセンスが、LEDチップ製造会社「チェンジライト」を買収したことも、世界で初めて製品投入を可能にした一因だ。色づくりの考え方について、ハイセンスグローバルマーケティングセンター ディスプレイ製品プロモーション部の明兆亮 部長は「ハイセンスは、RGB Mini LED技術で過度に『鮮やかさ』をアピールすることはしない。より自然でリアルな色彩が表現できる製品づくりを目指している」と話す。
ハイセンスR&Dセンターで、従来の「直下型バックライト」タイプのテレビ、「Mini LEDバックライト」を備えるテレビ、そして、「RGB Mini LED バックライト」を備えるテレビを並べて、映像を比べてみた。明らかにRGB Mini LEDの映像が鮮やかだった。映像の色に沿ってバックライトの色そのものを制御するため、この手法は非常に効果的だと感じた。ディスプレイ全面にちりばめられたRGB Mini LEDを制御するため、フラッグシップモデルなどには「AI画質エンジン」と「RGB専用エンジン」のダブルエンジンを搭載。
音にもこだわっている。仏「デビアレ(Devialet)」との協業で、無振動ウーファーを搭載したモデルも投入し始めている。薄型の筐体でもリッチな音響を実現するため、デビアレの「対向式ウーファー」技術を採用した。ユニットを向かい合わせに配置して物理的に振動を相殺。極めて振動が少ないながらも強烈な重低音を響かせることができる。AIを用いて音響チューニングも施し、1kHz付近の人の声がクリアに聞こえるよう調整。壁掛け設置時に重低音が遅れてぼやけるのを防ぐ専用の「壁掛け設置モード」も備えている。
こうした製品を製造しているのが、ハイセンス黄島テレビ工場。テレビ業界で初めて「ライトハウス工場(Lighthouse Factory)」に認定された工場だ。ライトハウス工場とは、いわば「世界の製造業の『灯台(手本)』になる、最先端のスマート工場」。世界経済フォーラムがマッキンゼー・アンド・カンパニーと共同で選出・認定するもので、26年1月のダボス会議で発表された。
例えば、液晶パネルを筐体に接着する際、接着剤を塗布する工程でもAIが活用されている。1台あたり400~500カ所もある塗布個所をAIカメラが監視。接着ポイントの座標や大きさを調整しながら、リアルタイムで自律的に制御する。工場内を見た感じでは、所々に作業員が配置されていて、100%完全自動化された工場、という感じはしなかった。ハイセンスによると、自動化の目的は人件費削減ではなく「不良品を減らし、究極の品質をユーザーに届けること」だという。ライトハウス工場の認定を獲得したのは、単なる自動化によるものではなく、ユーザーのニーズ収集から製品定義、開発、製造、納品に至るまで、全プロセスでの品質管理が認められた、ということのようだ。
青島では、ハイセンスはどのように受け止められているのか。市内にある京東モールに出店しているハイセンスショップで販売員に聞いてみた。「青島市内ではハイセンス製テレビのシェアは、60%を超えている」という。消費者の評判としては「価格は決して安くはないが品質が非常に高い」「サムスンやソニーと同等のハイエンドブランド」と認識されているようだ。さすが本社のお膝元だ。
テレビの価値は、映像と音の美しさというのがまず基本。ハイセンスは、RGB Mini LEDテレビやデビアレとの協業で、その基本をしっかりと押さえている。とはいえ、他社のテレビもそれなりにきれいだ。美しさという基準で戦っても僅差の争いになりつつある。そこでテレビに必要なのは、機能と操作性の高さだ。AIも取り入れつつ日常に溶け込んだ頼れる相棒……。次世代のテレビはそんな方向に進んで行きそうな予感がある。もちろん、高機能なだけではダメだ。安定した生産体制による高い品質を実現してこそ、ユーザーに信頼され選ばれる存在になる。そうした次世代を担うテレビの、近いところに位置するメーカーの一つがハイセンスではないかと感じた。
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