2026年、プロ野球の二軍は約70年続いたイースタン・リーグとウエスタン・リーグの2リーグ制を解体し、1リーグ3地区制へ移行しました。一見すると唐突にも思える大改革ですが、その背景には、球団数の不均衡や試合日程の組みにくさ、選手を疲弊させる長距離移動など、長年積み残されてきた問題がありました。
○必要に迫られた「3地区制」
2025年7月のオーナー会議で、2026年シーズンから二軍戦に1リーグ3地区制を導入すると正式に承認され、発表されました。1955年から続くウエスタン・リーグとイースタン・リーグの2リーグは解体、1リーグに統合されて、新生「ファーム・リーグ」が誕生しました。
ファーム・リーグは、東地区(楽天、オイシックス、ヤクルト、ロッテ、日本ハムの5球団)、中地区(西武、巨人、DeNA、ハヤテ、中日の5球団)、そして西地区(オリックス、阪神、広島、ソフトバンクの4球団)の3地区に再編されました。
何か唐突な変更だったという印象を持たれた方も多いでしょうが、1リーグ3地区制は、長い間二軍に横たわっていた課題を根本的に解決する試みです。
2004年の近鉄とオリックスの合併、そして楽天の新加盟により、二軍戦はイースタン・リーグ7球団、ウエスタン・リーグ5球団といずれも加盟球団数が奇数になり、両リーグの数に不均衡が生じました。
特に奇数問題はやっかいでした。イースタンからウエスタンへ1チーム移ればいいのですが、地理的にちょうどいい球団がありません。
球団数が奇数だと、常に試合がないチームが生じて非効率ですし、試合日程が組みにくいという状態が続いていました。
2024年にくふうハヤテ(現・ハヤテ)とオイシックスが、一軍を持たない「二軍だけ球団」として加盟したのは、その「奇数問題」を解決するのが大きな目的でした。
ただ、奇数問題は解決しても、両リーグの不均衡はそのまま。
たとえば、静岡を本拠地とするハヤテは、ウエスタン・リーグに振り分けられましたが、静岡からソフトバンクの本拠である福岡まで、休憩込みで12時間以上のバス移動を強いられます。「これでは育成の前に疲弊する」と現場から悲鳴が上がりました。
3地区制にすることで、移動の距離はある程度短くでき、移動時間と費用を抑えることができます。ハヤテとオイシックスの参加が、3地区制へのトリガーとなったのは間違いありません。
○14球団で「遠征費プール制」を導入
移動コストと言えば、今回の1リーグ化に伴って、二軍14球団で「遠征費プール制」が導入されます。これも画期的なことと言っていいでしょう。
遠征費プール制とは、「リーグに加盟する全球団の遠征費を一括管理(プール)し、配分する」仕組みのこと。一軍ではセ・リーグ、パ・リーグとも、それぞれのリーグで導入しています。
たとえば巨人は、神宮球場でのヤクルト戦や横浜スタジアムでのDeNA戦ではチーム全体での移動や宿泊はなく、いわゆる「現地集合・現地解散」です。一方、日本ハムであればすべてのビジター戦で飛行機移動となり、宿泊も必要です。
私がざっと試算しますと、セ・リーグ首都圏のチームであれば遠征費は年間約5億円、パの札幌、福岡拠点の両チームだと約8億円になります。
プロ野球の興行は、あちこちの商圏にチームがあることで魅力的なものとして成り立っています。遠征費プール制には、立地によって生じる遠征費(移動費と宿泊費)の差を、加盟球団の協力によって平準化しようという狙いがあります。
1955年に二軍戦がイ・ウ2リーグ制でスタートした頃、イースタン・リーグは大半が首都圏のチーム、ウエスタン・リーグは大半が関西圏のチームでした。
新たな3地区制によってある程度のコストカットは実現できましたが、今後は日本ハム二軍が首都圏の千葉県鎌ケ谷市から北海道へ移転する計画が公表されています。当然、遠征費は跳ね上がります。今後もまた地理的に不利な場所に新たな「二軍だけ球団」が誕生する可能性もあります。
NPB全体で二軍戦を盛り上げていこうという方向性の中で、ファーム・リーグにも遠征費プール制が導入されるのは画期的ですが、自然なことでもありました。
ところで、私が「画期的」と言ったのにはもうひとつ理由があります。それは全14球団で協力しあう制度ができたという点です。
これまで一軍はもちろんのこと、二軍であってもセ・パ両リーグによる違いがあったり、イースタン・ウエスタン両リーグによる違いがあったりで、全球団で協力して利害を調整するという動きは極めて限定的でした。これもまた「二軍だからできた」ことなのかもしれませんが、「二軍でできたのだから」という実績が増えていくのは、NPBにとって大変けっこうなことだと私は思います。
必然に迫られた3地区制により、二軍は一つのリーグになりました。それまでイースタン・リーグ8球団、ウエスタン・リーグ6球団と不均衡。1リーグ制であれば地区をまたいだ「交流戦」を行うことで、試合数や対戦相手のバリエーションが不均衡という問題は解決します。
○ポストシーズンがさらなる拡張のきっかけに
ファーム・リーグでは、新たにポストシーズンが導入されます。
3地区それぞれで地区優勝を争います。そして優勝した3チームに加え、各地区2位のうち最も勝率が高かったチームがワイルドカードとしてプレーオフに進出。そして4チームによるトーナメント方式で「ファーム日本一」を争うというスキームです。
地区優勝&ワイルドカードでプレーオフを争うのは、MLBやNFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)などでもおなじみのスタイル。初戦の組み合わせでは、勝率上位のチームが優遇されて勝率下位のチームと当たるようにするなど合理的で「納得感の高いシステム」です。
一方、現在一軍で採用されているクライマックスシリーズは、勝率5割を下回ったリーグ3位のチームにも参加資格があることや、リーグ優勝チームが長く待たされる日程などにより、不合理と指摘されることも多く、「納得感の低いシステム」と言えるでしょう。
ただし、制度的に優れていても、二軍の新プレーオフがどれほど盛り上がるかは未知数……というより、一般的にはさほど話題になることはないでしょう。これまでもファーム日本一決定戦は行われてきましたが、ほとんど注目されることはありませんでした。
これは、プレーオフのシステムの話ではなく、二軍の存在感がまだまだ大きくないということでしょう。
さて、チーム数が不均衡だった2リーグ制から1リーグ制になりましたが、地区ごとの球団数は東5・中5・西4と不均衡のままです。
そうなると、もう1球団増やして3地区すべて5球団ずつの15球団にしたほうがいいという「力」がかかりやすくなるような気がします。さらにもう1球団増やせば、4球団×4地区となりますので、また違ったシステムが考案されそうです。ひょっとしたら、イースタン・リーグとウエスタン・リーグが復活して2リーグ2地区制になるかもしれません。いずれにせよ、3地区制を導入したことにより、二軍球団の拡張がさらに進んでいきそうな予感があります。
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二軍だけの「新球団」オイシックスとハヤテの明暗を分けたものとは――2024年から「二軍球団」として新規参入したオイシックスとくふうハヤテが、2年目を終え早くも明暗が分かれ始めています。また、既存の12球団でも二軍戦でイベントを充実させたり、ヤクルトやロッテなど複数の球団で二軍本拠地移転やリニューアルの動きがあるなど、プロ野球の「二軍」はひとつのコンテンツとなりつつあります。こうした近年の流れについて、東大出身の元プロ野球選手であり、ソフトバンクホークスの経営にも携わった桜美林大学教授が、ビジネスとしての「プロ野球の二軍」について、二軍14球団すべての最新事情を交えて解説する一冊です。
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