二軍の本拠地といえば、選手育成のための施設を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、巨人が開業した「ジャイアンツタウンスタジアム」は、その常識を大きく変えようとしています。
『プロ野球 二軍の経済学 - 「育てる」から「稼ぐ」時代へ -』(小林至/ワニブックス【PLUS】新書)から抜粋してご紹介します。
○巨人――国内初水族館併設スタジアム
2025年3月1日、巨人の新たな二軍本拠地「TOKYOGIANTSTOWN」の中核施設となる「ジャイアンツタウンスタジアム」が、東京都稲城市のよみうりランド隣接地に開業しました。これは従来のファーム施設の延長線上にあるというより、育成拠点に観戦機能や周辺回遊機能を重ね合わせた、新しいタイプのファーム施設として位置づけるべき事例です。
スタジアムは約2900席規模で、中堅122メートル、両翼100メートルの人工芝仕様、LEDナイター照明、サブグラウンドを備えています。
この施設の特徴は、単に二軍の試合を行う球場ではなく、球場そのものを「日常的に人が集まる場所」として設計している点にあります。公式サイトでも、試合やイベントのない日にはコンコースやスタンドを開放し、公園のように誰もが立ち寄れる「開かれたスタジアム」を目指すことが明示されています。また、イースタン・リーグだけでなく、女子チーム、U15、アマチュア野球、さらにはマルシェや地域イベント、ライブなど多目的利用も想定されています。つまり、ファーム球場を単なる練習場や試合会場ではなく、地域の回遊拠点として再定義しようとしているのです。
育成環境として見ても、一定の工夫が施されています。
さらに、巨人の新施設を他球団のファームと差別化しているのが、水族館を組み込んだ全体構想です。TOKYOGIANTSTOWNは、読売新聞東京本社、読売巨人軍、よみうりランドの3社による共同開発で進められており、2027年中のグランドオープンに向けて、球場に隣接する国内初の「水族館一体型球場」としての整備が進んでいます。水族館は地下1階地上3階建て、施設面積9874平方メートルの本格的なもので、スタジアムの芝生外野席からコンコースを通ってアクセスできる設計です。
現時点ではスタジアムが先行開業し、水族館と飲食施設は引き続き建設・整備中という段階です。
このため、2025年時点のジャイアンツタウンは「完成形」ではありません。ただし、先行開業したスタジアム単体でも一定の集客と利用実績を示しています。公式発表によれば、開業から4カ月後の2025年7月1日に来場者10万人を突破し、同年10月31日には20万人に達しました。もっとも、この数字はイースタン・リーグ公式戦の観客だけでなく、各種イベントの入場者と、球場公開時間内の一般来訪者を含む延べ人数です。したがって、これをそのまま二軍戦の観客動員とみなすことはできませんが、少なくとも球場が「試合のある日だけ使われる施設」ではなく、イベントや一般開放を通じて継続的に人を呼び込む拠点として機能し始めていることは確認できます。
実際、2025年にはスポーツ体験イベント「ドリームコーチングフェスティバル」や、サブグラウンドの一般開放企画「DormyPARK」、スタジアムツアー、地域向けイベントなどが行われています。
こうした運用を見ると、巨人が目指しているのは、二軍の試合を見せることだけではなく、球場を核にスポーツ・教育・レジャーを重ね合わせることだとわかります。これは、筑後や尼崎のように「地域密着型の二軍興行」を強く前面に出すモデルとはやや異なり、都市近郊のレジャー資源と結びつけながら、ファーム施設そのものをエンターテインメント拠点として育てていく構想と言えるでしょう。
また、この事例の重要な点は、行政依存型ではなく、読売グループ内の事業資源を組み合わせた民間主導の開発だということです。よみうりランドという既存のレジャーインフラに隣接し、読売グループ各社の顧客基盤や発信力も活用できるため、球場単独では実現しにくい回遊性や複合消費を取り込みやすい構造になっています。ファーム施設を「育成コストの受け皿」としてではなく、グループ全体のレジャー・不動産・メディア戦略の一部として組み込んでいる点に、このプロジェクトの本質があります。
総じて言えば、巨人のジャイアンツタウンスタジアムは、2025年の時点でスタジアム部分の先行開業を終え、二軍戦、イベント、一般開放を通じて一定の利用実績を積み上げました。
そして現在は、その上に水族館や飲食施設を加えた「テーマパーク型ファーム拠点」の完成形へ向かう過程にあります。日本のファーム改革の中でも、育成拠点を単独で強化するのではなく、都市近郊型の複合レジャー拠点へと拡張しようとしている点で、極めてユニークな事例と言ってよいでしょう。
○『プロ野球 二軍の経済学 - 「育てる」から「稼ぐ」時代へ -』(小林至/ワニブックス【PLUS】新書)
二軍だけの「新球団」オイシックスとハヤテの明暗を分けたものとは――2024年から「二軍球団」として新規参入したオイシックスとくふうハヤテが、2年目を終え早くも明暗が分かれ始めています。また、既存の12球団でも二軍戦でイベントを充実させたり、ヤクルトやロッテなど複数の球団で二軍本拠地移転やリニューアルの動きがあるなど、プロ野球の「二軍」はひとつのコンテンツとなりつつあります。こうした近年の流れについて、東大出身の元プロ野球選手であり、ソフトバンクホークスの経営にも携わった桜美林大学教授が、ビジネスとしての「プロ野球の二軍」について、二軍14球団すべての最新事情を交えて解説する一冊です。
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