レビュー

「推し」「推す」という言葉はすっかり定着し、「推しはいる?」「私が推しているのは……」という会話は、さまざまな場で交わされるようになった。しかし、なぜ私たちは誰かを「推す」のか、その熱狂はどこから生まれるのかと問われると、明快に説明できる人は少ないのではないだろうか。

本書は、そんな身近でありながら不思議な現象に注目しながら、「推しも自分もより幸福に生きるにはどうすればいいのか」という問いを提示してくれる一冊だ。
著者の三宅香帆氏は、数々の話題作を世に送り出してきた文芸評論家だ。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』では、読書と働くことを切り口に現代社会を鮮やかに分析し、多くの読者の共感を集めた。本書でも、歴史や社会学など、幅広い知見を横断しながら、推し文化を丁寧に読み解いている。
とりわけ興味深いのは、「父」と「母」という視点で推し文化を整理し、SNS時代の共同性や推しとの距離感まで考察を深めている点だ。そして最後には、「推したちとどう生きるか」という問いに対する、2つの提案が示される。
推し活をしている人が読めば、ドキリとさせられること間違いなしの一冊である。それだけではなく、「推し活」という文化から距離を置いてきた人にもぜひ読んでほしい。本書を読めば、「推し活」の見え方が変わるだけでなく、人との心地よい距離感や、誰かを応援することの意味についても、新たな視点が得られるはずだ。

本書の要点

・「推し」とは、自分の理想やアイデンティティの一部を託し、その成功を願って応援する存在である。
・ファンは推しの成長を願い、「母」のようなまなざしを向ける。
・母性を暴走させない鍵は、「相手には自分の知らない部分がある」と認めることだ。

互いに秘密を抱えたまま関係を築くことが、「推したちとどう生きるか」のひとつの答えである。



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