レビュー

「器」という、経営書には珍しい言葉を軸に据えた一冊が登場した。著者は、組織運営における施策や制度を「水」、それを受け止める組織や個人の土台を「器」になぞらえる。

多くの組織は、器の状態を確かめずに水を注ぎ続けてはいないか。1on1や心理的安全性といった施策も、受け皿となる器が育っていなければうまく機能せず、むしろ現場を溺れさせてしまう。そんな鋭い問いを、本書は投げかける。
ここでいう器とは、「組織の器」と「個人(従業員)の器」の両方を指す。組織の器が満杯になり余裕を失えば、個人の器も同時にあふれかえり、閉塞感が生まれてしまう。両者は常に相互作用しているというのが著者の見立てだ。
本書の構成は、器の正体、器が育つメカニズム、職場での器づくりの実践、人事のリデザイン、そして器の思想の未来という流れで展開される。
著者は人事専門誌の編集者を経て大学院に進み、「人としての器」研究チームを結成した。2024年には株式会社人としての器を設立し、研究と実践の両面から探究を続けている。骨太な理論書でありながら事例やコラムが随所に配置され、自社の器の状態を点検できるワークも用意されている。それでいて、実務にすぐ活かせる読みやすさも兼ね備えているのが本書の魅力だ。
変革を志す経営者・人事責任者の方々は、本書を手に取り、「器」という新たな視点から自社の人と組織を見つめ直してみてはいかがだろうか。

本書の要点

・器という概念は、感情、他者への態度、自我統合、世界の認知という4つの要素から構成される。
・器の成長プロセスは「ARCT(アルクト)モデル」で表現できる。ARCTとは、「Accumulation(蓄積)」「Recognition(認識)」「Conception(構想)」「Transformation(変容)」を指す。
・器は他者との関係性の中で育つ。「傾聴」「問答」「対峙」「協働」という4つのアプローチがある。



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