レビュー

人材不足が深刻化するなか、多くの企業が離職率を下げることに力を注いでいる。しかし、その一方で、「辞めずに働き続けている人」に目を向ける企業は少ないだろう。

本書は、その見落とされがちな視点に光を当てた一冊である。
著者の古屋星斗氏は、経済産業省で産業人材政策に携わった後、リクルートワークス研究所主任研究員として若者の働き方やキャリアを研究している。著書に『ゆるい職場』『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』などがあり、説得力と取り入れやすさを兼ね備えた提案が魅力だ。
本書の中心となるのは、「辞めない理由」という考え方だ。給与や福利厚生だけでなく、仕事内容、人間関係、成長機会、生活との両立など、人が会社に残る理由を12種類に整理し、それぞれを積極的・消極的、経済的・非経済的という軸で分析している。このフレームワークはシンプルながら本質的で、自社の状況を整理する際にも役立つだろう。
さらに、本書は理論だけで終わらない。12種類の「辞めない理由」それぞれについて、若手に対する具体的な問いかけ例まで紹介されている。「知って終わり」ではなく、今日から使える内容だ。
部下とのコミュニケーションに悩む上司、人事制度を見直したい担当者、離職防止を重要課題としている経営者にぜひ読んでほしい。本書を読めば、「辞めさせない方法」を探す発想から、「働き続けたい理由」を組織とともに育てる発想に変わり、新たなアプローチができるだろう。

本書の要点

・組織が目を向けるべきなのは、「辞める理由」だけではない。

社員一人ひとりの「辞めない理由」に注目することが、人材定着につながる。
・「辞めない理由」は12種類に分類できる。給与などの経済的理由は土台にすぎず、仕事のやりがいや成長、人間関係などの非経済的理由が定着を後押しする。
・「辞めない理由」は聞き出すものではなく、対話を通じて育てるものだ。上司の自己開示を起点に、仕事の意味や働く理由を一緒に言葉にしていくことが重要である。



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