【再発見 ちょうど10年前のテレビ】#11


 先日、放送批評懇談会が主催する第63回「ギャラクシー賞」の贈賞式が開催された。注目のテレビ部門で大賞を受けたのは、戦後80年ドラマと銘打った「八月の声を運ぶ男」(NHK)だ。


 本木雅弘演じる辻原保は、被爆者の証言を録音し続けた実在のジャーナリスト・伊藤明彦がモデルとなっている。ひとりで全国を歩き、1000人以上の声を集めた執念が胸を打つ。被爆者・九野和平(阿部サダヲ)の証言が事実と夢想のあいだで揺らぐ展開は、記憶を語ること・聞くことの重みを突きつけた。脚本はベテランの池端俊策である。


 そして、今からちょうど10年前の2016年6月、第53回ギャラクシー賞の贈賞式が行われた。テレビ部門大賞に輝いたのは、「報道ステーション」(テレビ朝日系)の2本の“特集”だった。大賞をドキュメンタリーやドラマではなく、報道番組の特集が獲得するのは極めて珍しいことだ。


 1本目の特集は同年3月17日放送の「特集 ノーベル賞経済学者が見た日本」だ。主役は経済学の世界的権威、コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授。政府会合の場で安倍首相(当時)に消費増税延期を進言したことが報じられた直後に、教授への単独インタビューを放送したのだ。


 しかもその内容は、日本国内の格差問題、法人税減税の効果への疑問、さらに新たな税制改革の検討など、安倍政権の経済政策が抱える問題点の指摘や提言となっていた。ともすれば増税先送りにばかり目が向く中で、有効な判断材料となる専門家の知見を伝えたことの意義は大きかった。


 もう1本は翌18日の「特集 独ワイマール憲法の“教訓”」である。1919年に制定されたドイツのワイマール憲法は、国民主権や生存権の保障などを盛り込み、世界で最も民主的と称えられていた。しかし、その民主主義憲法の下で、ヒトラーが独裁政権をつくり上げていったことも事実だ。


 この特集では古舘伊知郎キャスター(当時)が現地に赴き、ヒトラー政権の成立過程を探っていった。中でも、ワイマール憲法の研究者が自民党の憲法改正草案について語る場面が圧巻だった。草案に書かれた「緊急事態条項」について、ワイマール憲法の「国家緊急権」と重なると警告したのだ。時代も状況も異なるが、痛恨の歴史から学べることは多い。


 どちらの特集も、そのテーマ設定、取材の密度、さらに問題点の整理と提示などにおいて高く評価できるものだ。一見地味だが、まさにギャラクシー賞に値する取り組みであり、選考した方々の見識に驚かされた。


 当時、2本の特集が放送された3月をもって古舘キャスターは降板した。現在の「報道ステーション」だけでなく、各局の報道番組もまた、この10年の間にどれだけ挑戦的な“調査報道”を行ってきたのか。自問してみる価値はあるはずだ。


(碓井広義/メディア文化評論家)


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