【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#80


 アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(1967年5月26日発売)③


  ◇  ◇  ◇


■『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』②


 前回、本連載のトーンとしては、少々熱を込めて、真面目に述べてみたように、この曲は、ビートルズ全作品を代表する傑作であり、問題作だと思う。


「ポップ音楽がアートに昇華された」。

そう説明をされることが多い曲だ。でも私は今回、この曲とアートとの関係性について、こだわってみたい。


 この曲、このアルバムを契機として、ポップ音楽がアートに急接近していく。さらには「プログレッシブ・ロック」(プログレ)という、オーケストラやクラシック音楽の要素も取り込んだ複雑怪奇なジャンルも生まれる(また日本人はそんな複雑怪奇音楽をとても好んだ)。


 でも、それらと『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』が一線を画すのは、『ア・デイ~』がポップでありロックだからだと私は考える。【オリジナル記事で試聴する


 まず、複雑怪奇なことをやっているとはいえ、ジョンとポールが歌うメロディーは、さすがビートルズ、とてもポップ。カラオケでも歌えるものだ。というか、私は何度か歌った。


 逆に、プログレの雄であるピンク・フロイドなんて、歌ったことはもちろん、カラオケで聴いたことすらない。


 そして、特に注目したいのが、この曲におけるリンゴのドラムスである。実にスウィングしているではないか。


 細かな話になるが、試聴リンク再生時間「0:47」、ドラムスの短いフレーズを聴いてほしい。

ゆるゆるにチューニングしたドラムスによる叩きっぷりが、めちゃくちゃスウィングしていて気持ちいい。


 そして「2:21」のポールのパートからは、ポールが弾くベースとみっちり絡み合いながら、ドラムスが全体をぐんぐん引っ張って行く。


 要するに、(大衆的でベタな)ポップやロックと断絶して(知的で高尚な)アートに踏み出していい気になっているのではなく、ちゃんとポップしている、しっかりロックしているということなのである。


 つまりは「ポップアート」「アートロック」としての『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』──。


 この曲以後、ビートルズはさらに複雑な方向に、難解な方向に、またある意味では適当な方向に舵を切っていくが、どれを取っても結局のところ、ポップでロックなのだ。ビートルズはそこがいいのである。


 今回の結論。『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』はドラムスを聴け。


 さて来週は、ビートルズの来日期間からピッタリ60年後となるのを記念して「ビートルズ来日スペシャル」を5回連続でお届けします。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。

半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


編集部おすすめ