【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#82
ビートルズ来日スペシャル②
◇ ◇ ◇
ビートルズ来日公演が行われたのは、到着翌日の1966年6月30日から7月2日までの3日間。3日間だから3公演か。
視聴率56.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録したというテレビ中継は、公演2日目=7月1日の昼公演を、その日の夜、9時から録画中継したもの。
そんな中継番組を、多くの日本人が凝視したのだが、その後話題になったのは、演奏そのものというより、番組のオープニングだった。
ビートルズの4人を乗せたクルマが羽田空港から赤坂の東京ヒルトンホテル(現:ザ・キャピトルホテル東急)に向かうシーン。4人の乗るピンクのキャデラックを前方から撮影。サイレンの音量がどんどん上がる。そしてサイレンが突如鳴りやみ、ビートルズの『ミスター・ムーンライト』が鳴り響く! あの伝説のシーンである。
映像を手掛けたのは、当時日本テレビのディレクターだった佐藤孝。先月、刊行された宮永正隆『ビートルズ来日学1』(リットーミュージック)に、佐藤へのインタビューが載っているのだが、これが実に面白い。
動画サイトに残っている映像で見ると、とにかくサイレンがけたたましい。佐藤孝によれば、あの映像はまず「サイレンの交響曲」にしようと思ったという。
しかし、やはりビートルズの音楽が必要だと思い直し、『ミスター・ムーンライト』を選曲する。そのプロセスがおかしい。何でも、『抱きしめたい』や『ミッシェル』を次々と聴いたというのだが……
──でも全部「違う」
「違う」と思って。ずーっとやってたら「ああ、これだな」って。僕がそれまでドラマで鍛えてきた直感です。(中略)選んだ理由は、なんかこう「フィーリング」としか言えないですよね。決して歌の文句で選んだわけじゃありません。
それから21年後の87年。佐藤孝は、今度はマイケル・ジャクソンの来日ドキュメント映像の担当に指名される。理由は、マイケル本人が、このときの『ミスター・ムーンライト』の映像を見るのが大好きで、何度も繰り返し見ていたからだという。
そう、見たのだ、マイケル・ジャクソンも。
▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。

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