お笑いコンビオードリー若林正恭(47)の小説「青天」(文藝春秋)が第175回直木賞にノミネートされ、7月15日の選考会が迫っている。


 若林は2017年に「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」で「斎藤茂太 旅の文学賞」を受賞するなど、エッセイでは高い評価を受けてきたが、今回のノミネート作は初の小説作品。

他の候補作には、朝倉かすみ「けんぐゎい」(光文社)、蟬谷めぐ実「見えるか保己一」(KADOKAWA)、凪良ゆう「多類婚姻譚」(講談社)、原田ひ香「#台所のあるところ」(文藝春秋)がノミネートされている。


「直木賞は大衆小説が対象で、純文学を対象とした芥川賞と並ぶ日本文学界最高峰の賞です。『青天』は、若林が高校時代に打ち込んだアメリカンフットボールがテーマ。弱小アメフト部に所属する主人公が、高校最後の大会で敗れて悶々とした日々を過ごすなかで、再びアメフトと向き合う姿を描く青春小説です。青天は試合中に選手が仰向けに倒されるプレーを表すアメフト用語で、“あおてん”と読みます」(大手出版社文芸編集部社員)


 処女作が直木賞にノミネートされるのは大変な快挙だが、作者がお笑い界の超売れっ子で話題性はいよいよ抜群。果たして若林に受賞の可能性はあるのか。大手書店幹部はこう語る。


「若林さんにはぜひ直木賞を取ってほしい。というか、取ってもらわないと困ります。昨年7月、直木賞も芥川賞も“該当者なし”という極めて異例の事態が発生し、書店業界に衝撃が走りました。


 書店では例年、賞の発表に合わせてポップや平積みする棚を用意しますが、該当者なしでは何もできません。書店の売り上げは年末年始が一番大きく、次が新年度の4月ですが、夏休みも売り上げが期待できる時期ですが、昨年は両賞とも該当者なしで、現場の社員は『夏の売り上げが吹っ飛んだ』と嘆いていました。


 書店業界は明るいニュースがなく、昨年末にはついに全国の書店が1万店を割りました。ピーク時の1990年代から6割減った計算です。読書家でも『Amazonで十分』という人は多いですし、『紙の本はもういらない』という声も多く、いわゆる斜陽産業です。



「直木賞は遅れてやって来る」というジンクスが

 若林さんのノミネートで思い出されるのは、お笑いコンビ・ピースの又吉直樹さん(46)の『火花』が2015年に芥川賞を受賞した時の熱狂です。純文学はなかなかヒット作が生まれませんが、『火花』はメディアで大々的に取り上げられ、普段は本屋に足を運ばない人まで巻き込んで最終的に200万部以上売れました。文学賞で最も大事なのは文学的な価値ですが、書店員にとっては販促のツール。話題性ありきでも『青天』に取ってほしいのです」


 しかし、現実はなかなか厳しい。前出の大手出版社文芸編集部社員は、こう語る。


「直木賞は過去にNEWSの加藤シゲアキやSEKAI NO OWARIのSaori(藤崎彩織)がノミネートされましたが、受賞には至りませんでした。若林もそのパターンの可能性は高いでしょう。


 直木賞は、何度もノミネートされながら受賞に手が届かない作家が多いことで知られており、馳星周は7回目、東野圭吾宮部みゆきは6回目でようやく受賞しました。それゆえ文学界では、名声が確立してから賞が与えられることを皮肉り、『直木賞は遅れてやって来る』とも言われています。


『BUTTER』が海外で高く評価されている柚木麻子は6回ノミネートされながら、いまだに受賞していません。伊坂幸太郎は5回落選を繰り返した末、『静かになりたい』と直木賞レースを降りました。受賞を拒否したのではなく、選考自体を拒否したのです。


 その理由として推測されるのが、著名作家による選評の厳しさです。ノミネート時点で超売れっ子だった伊坂に対し、選評委員は『底が浅い』『がっかりした』『失敗作』など、言いたい放題。『半落ち』『クライマーズ・ハイ』で知られる横山秀夫は、物語のカギとなる場面にケチを付けられて強く反発し、訣別宣言しています。そんな歴史がある直木賞の選評委員が、若林に簡単に賞をあげるとは思えません」


 ただ、別の見方をする関係者もいる。エンタメ誌記者は言う。


「芥川賞と直木賞が最も大きな話題になったのは、2003年に綿矢りさと金原ひとみが芥川賞をW受賞した時で、両作が掲載された『文藝春秋』は100万部以上売れて、社会現象になりました。今回、芥川賞では元AV女優の鈴木涼美がノミネートされており、若林と鈴木が受賞すればインパクトは絶大。まさに千載一遇のチャンスです。


 出版社はどこも青息吐息で、市場はどんどん縮小。

もう、なりふり構っている場合ではありません。権威ある賞を若林にあげて批判の声が上がっても、それが取り上げられれば出版業界としては願ったり叶ったり。関係者は若林が取ったという前提で、すでに受賞後の販売戦略に頭を巡らせているのかもしれません」


 発表日の7月15日。若林の笑顔が見られるか。


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