【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#106


『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』(1968年11月22日発売)⑥


  ◇  ◇  ◇


■『オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ』


 ジョンが『レボリューション1』『レボリューション9』で「一か八か」ではなく「1か9か」の攻めた曲を作ったのに対し、ポールは、まさにバランスを取るかのように、イノセントなポップソングを聴かせる。


 私が初めて聴いたビートルズソングである。


 小学校時代、確かNHK『みんなのうた』で、フォーリーブスによる日本語カバーを聴いたのだ。


 いい曲だとは思ったものの、同時期に聴いたカーペンターズ『シング』(1973年)をより気に入り「『シング』の方が上やな」と思っていた。さすが、のちに評論家になる小学生である。【オリジナル記事で試聴する


 楽しい曲。これに尽きる。また「ンチャッ・ンチャッ」というスカのリズムが、その楽しさに拍車をかける。


 ただこの曲、完成版よりも、完成版に至る試行錯誤の中で残された別バージョンがあって、それもいい、いや、それの方がいいのだ。
『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』(96年)に収録されている「テイク5」を、ぜひ聴いていただきたい。よりグルーヴィで楽しい。これを聴けば、小学生時代の私もこういうのではないか──「『シング』と同じくらいやな」。


■『マーサ・マイ・ディア』


 こちらもポールによる実にイノセントなポップソング。何といっても「マーサ」はポールの愛犬なのだから。

LPのB面トップを飾る曲である。


 まずは、ホーンやストリングスが目いっぱい、それもいい音で入っていることに注目していただきたい。これぞ8トラック録音の恩恵である。


 犬がヨチヨチと歩くようなチャーミングなピアノのイントロもポールによる演奏だ。若い頃にコピーしたが、なかなかに難しかった。ロックンロールから始まって、このイントロまでたどり着いた。ポールがいよいよ「総合音楽家」になってきたことが分かる。


 ただ、「で、それで?」と言いたくなる。このアルバムに収録されたポールの他の曲もそうなのだが、「よく出来たポップソングだ。以上」という感じで、これまでのビートルズ作品が持っていた「いろんな角度からいろいろと語りたくなる要素」に決定的に乏しいのだ。


 8トラック録音によってセッションが減り、個人作業が増えたことで、メンバー同士の相互作用が生んでいた「語りがいのある要素」が失われていったのだと思う。機材の進化も痛しかゆしといったところか。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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