インドネシア東ジャワ州マドゥラ島沖で発生した「KMムティアラ・セントサII」火災は、竣工から34年を経た日本の中古船が再び悲劇の舞台となった事件だった。1992年に佐伯重工業で建造され「フェリーおおさか」として大阪-北九州航路に投入されたこの船は、日本国内で23年間運航された後、2015年に退役し「ゴールデンバード5」と改名。
翌年、インドネシアの民間会社PT Atosim Lampung Pelayaranに売却され「KM Mutiara Sentosa II」として再就航した。全長160メートル、幅25メートル、総トン数9479トン、旅客定員689人、乗員49人、車両181台を積載可能な大型フェリーである。日本での運航時代には重大事故の記録はなく、厳格な検査体制の下で安全性が維持されていたが、インドネシア移籍後の整備体制には疑問が残る。火災は車両デッキからの出火が疑われ、乗客乗員271人のうち225人が救助されたものの、5人が死亡し41人が行方不明となった。船体はほぼ全焼し、海上交通の安全性に深刻な疑問を投げかけている。

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 インドネシアの現地メディア「Kompas.com」や「Detik.com」は、火災原因について「車両デッキに積載されたトラックから火が出た可能性がある」と報じている。乗客の証言によれば「30分もしないうちに船首へ避難するよう指示が出た」という。炎は瞬く間に船体を包み込み、逃げ場を失った人々が海へ飛び込む姿が目撃されている。国家捜索救助庁(Basarnas)は「火災原因は不明で、調査を継続中」と発表した。救助活動にはインドネシア海軍艦艇や民間船が参加し、必死の救助が続けられている。

 この事故は、インドネシアにおける中古船導入のリスクを改めて示すものとなった。日本で安全に運航されていた船が、インドネシアでは老朽化や整備体制の違いから悲劇を招いた可能性がある。
インドネシアは17000以上の島々から成り、フェリーは生活の基盤を支える重要な交通手段だが、船齢の古さや安全基準の不徹底が事故の要因とされる。国家交通安全委員会(KNKT)の統計によれば、2025年には8件の海難事故が発生し、死傷者は69人(死者54人)。2024年は6件で26人の死傷者だった。2018年には41件と過去最多を記録しており、事故件数は年ごとに大きく変動している。2024年には128件の船舶事故が発生し、前年より37.6%増加。要因は技術的問題が60件、自然要因が59件、人的要因が9件とされる。沈没事故が最も多いが、火災は毎年数件程度でありながら被害規模が大きくなる傾向がある。

 インドネシアだけではない。フィリピンでも日本や韓国から退役船を購入し、国内航路に投入するケースが多い。特にフェリーや小型貨物船は中古市場に依存しており、船齢30年以上の船が現役で使われている。2019年以降も複数の沈没事故が報告されており、老朽船の安全性が問題視されている。ベトナムも同様で、日本海事検定協会の調査によれば、老朽船が多数導入されていることが確認されている。
新造船は高額で、東南アジアの民間フェリー会社には負担が大きい。中古船は日本で退役したものを安価で購入できるため導入が進むが、メンテナンスコストは年々増加し、特に消防設備やエンジン部品の更新が遅れると事故リスクが急増する。

 日本国内では船齢20~30年を超えると検査基準の厳格さから運航継続は困難となり、老朽船は退役・解体されるのが通常だ。しかし東南アジアでは検査体制が緩く、船齢30年以上でも再塗装や簡易修理で再就航する例が多い。特に消防設備や配管の更新が不十分なまま運航されるケースがあり、火災や沈没事故につながる。中古船導入は東南アジアの海上交通の現実だが、老朽船の安全投資不足が悲劇を繰り返す構造的要因となっている。

 「KMムティアラ・セントサII」火災は、老朽船を運航する際の「安全投資の不足」がどれほど致命的な結果を招くかを示す典型例となった。日本から移籍した中古船が悲劇の舞台となった事実は、インドネシア、フィリピン、ベトナムに共通する海上交通の脆弱性を象徴する事件として長く記憶されるだろう。行方不明者の捜索は続いており、東南アジアの海難事故史に新たな痛ましい記録が刻まれた。

【編集:af】
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