誰もが見て見ぬふりをするような状況下で、時に、ためらいなく“踏み込む”人がいますよね。あなたなら、その一歩を出せますか?

 今回は、電車内でそんな光景を目撃した女性のエピソードをご紹介します。


優先席でスマホをいじる若い男性

 浅田小百合さん(仮名・35歳)は、帰宅ラッシュの電車でつり革を握り揺られていました。

 仕事終わりの車内は、どこかどんよりした空気に包まれていて、誰もが静かに過ごそうとしている時間帯。そんな中で、ふと視線の先に引っかかるものがあったそう。

「ふと前を見ると、優先席に座る若い男性が目に入ったんですよね」

 その男性は、まるで周囲が見えていないかのようにだらしなく深く腰掛け、足を大きく広げていました。膝は前方に突き出し、肘も外に張ってスマホを操作し、身体全体で席を占領しているような状態。イヤホンもせず、指を動かすたびに小さな操作音が漏れています。

優先席で、高齢者に舌打ちする若者。誰も注意できずにいたら…近...の画像はこちら >>
 しかも目の前には、大きなバッグを抱えた高齢女性が立っており、フラつきながらも一生懸命に立っているような状態でした。それでも男性は一度も顔を上げることなく、画面に視線を落としたままだったそう。

見過ごせない一言と、広がる不快感

「それどころか、そのバッグが男性の膝に軽く当たった瞬間『チッ、ちゃんとよけろよ』と、低く吐き捨てたんですよ! 最低すぎますよね? 信じられないと思いました」

 ほんのわずかな接触、それも不可抗力でしかない出来事への乱暴な発言に、周囲の空気がピリつきます。誰もが「今のはひどい」と感じているのに、視線を逸らし、関わらないようにするしかない……そんな重たい沈黙が流れました。

ためらいゼロで踏み出した一歩

 その瞬間、後ろにいた40代ぐらいの女性が、ためらいもなく「今の、もう一回言ってみなさい」と一歩前に出たそう。

優先席で、高齢者に舌打ちする若者。誰も注意できずにいたら…近くにいた女性の「説教」が痛快すぎた
画像はイメージです(以下同)
 低く、しかしはっきりと通る声。迷いのないその一言に車内の空気が一気に凍りつきました。


「車内は静まり返り、男性が顔を上げ『は?』と反抗的な表情をしていましたが、女性は断固として譲らない様子で『ここ、あんたの家じゃないんだけど?』とさらに強い口調で返したんですよ」

逃げ場を奪う、まっすぐな問いかけ

 男性は一瞬たじろぎながらも、舌打ちをして再びスマホに視線を落とそうとします。しかし「逃げないでよ」その一言で、動きが止まりました。

 女性は落ち着いた口調のまま「今、自分が何したか分かっている? どうしようもない理由でぶつかっただけの人に、避けろって言ったのよ、あんた」と続けたそう。

「顔を上げた男性の『ウザいんだけど』に、間髪入れず『ウザいで済ませるな! やったことの中身で話しなさい!』という女性の言葉に、私は激しく同意してしまいましたね」

 女性はさらに間を置いて「さっき言ったことを、自分の家族に向かって言える?」と静かに問いかけます。男性は「は?」と返したものの、その後は黙り込みます。

「お母さんでもいい。おばあちゃんでもいい。邪魔だから避けろって言えるの?」

 それでも男性は何も答えられません。

「言えないでしょ? じゃあなんで、ここでは言えるの?」

 男性は何も言い返せません。

「答えられないなら、それが答え」

 車内は、息を呑むほど静まり返っていました。やがて男性はゆっくりとスマホを下ろし、小さく舌打ちすると、無言で足を閉じました。

行動を変えさせた一言と、その余韻

 それでも女性は視線を外さず「それだけ?」と、短く言い放ちます。

優先席で、高齢者に舌打ちする若者。誰も注意できずにいたら…近くにいた女性の「説教」が痛快すぎた
電車 優先席
「男性は耐えるように黙っていましたが、やがて観念したように立ち上がって、高齢女性に席を譲ったんですよ」

 すると高齢女性は、何度も頭を下げながら「どうもありがとう」と席に腰掛けたそう。


「女性はそれを確認すると『やればできるじゃない』とだけ言って軽く微笑むと、元の位置へ戻ったのですが……こんなに真っ直ぐに叱ってくれるきっぷのいい女性は久しぶりに見ました。彼女の行動と言動になんだか元気をもらったんですよね」

 強くまっすぐで、それでいて後味のいいやり取り。その光景は、小百合さんの心にしっかりと残り続けているのでした。

<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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