シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』といえば、すれ違いの果てに二人が命を落とす、世界一有名な悲恋の物語だ。だがトルコでは悲劇が喜劇に変わることがある。
2026年6月、トルコ西部の街イズミルで上演されたバレエ版のクライマックス、毒をあおって息絶えたロミオのそばに、1匹の茶トラ猫がしれっと歩み出てきた。
観客が涙をこらえるはずだったその瞬間、猫は横たわって動かないロミオの髪にじゃれつき始めたのだ。
スポットライトを浴びにきた、もう一人の主役
世界各地を巡業するインペリアル・ロシア・バレエ団はトルコ、ズミルにある野外劇場の舞台で、バレエ版『ロミオとジュリエット』を演じていた。
2時間におよぶ公演がいよいよ感情の頂点を迎えようとしていた。
ロミオ役を演じていたのは、ブラジル出身のダンサー、ペドロ・セアラさん。
毒をあおって倒れ完全に動きを止めていた。
ジュリエット役のロシア人バレリーナ、タチアナ・ボルガーさんは、これから愛する人の亡骸に取りすがって嘆き悲しむという、物語でもっとも切ないクライマックスに差しかったちょうどその時!
明るいスポットライトに誘われるように、ゆっくりと舞台中央に歩いてきたのが茶トラ猫である。
猫はまず、横たわるロミオの隣にぴたりと寝そべった。
横たわるロミオの髪の毛でじゃれ始める
それから起き上がって彼の頭の匂いをかぎ、の髪をちょいちょいと前足でつつき始めた。
観客から笑いが起こり、悲劇は一瞬にして喜劇へと様変わりした。
それでもセアラさんは微動だにせず、死んだロミオを演じきろうとする。
猫のいちずなアプローチにちょっと口元がほころびかけたところで、目を覚ましたジュリエット役のボルガーさんが、ロミオの体をひきづり、ちょっとだけ猫から引き離した。
すると猫はあっさり興味を移し、近くのテーブルにぴょんと飛び乗り、のんびりと毛づくろいを始めた。
このあまりに堂々とした「友情出演」がSNSに投稿されると、ロミオを「ロミャオ(Ro-MEOW)」ともじったり、猫はモンタギュー家かそれともキャピュレット家ならぬ「キャットピュレット家」の出身かと議論したり、コメント欄は大喜利状態となった。
トルコではよくあること
なぜ劇場のステージに猫がいるのか。答えはシンプルで、ここがトルコだからだ。
トルコは、世界でも類を見ないほど猫を大切にする国として知られている。
街の猫は地域全体で世話をする「みんなの猫」として暮らしている。
だから猫たちは人間を怖がらず、堂々とどこへでも入っていく。
今回の劇場関係者も、屋外のリハーサルや本番に近所の猫がふらりと現れるのは珍しいことではない、とまるで動じていなかった。
実際、トルコの猫が舞台を盛り上げる出来事は、これが初めてではない。
過去にはイスタンブールで、クラシックの演奏会のステージに野良猫が迷い込み、奏者になでられながら最前列の特等席で演奏に聴き入ったことがあった。
ファッションショーのランウェイを、モデルにじゃれつきながら颯爽と歩いてみせた猫もいた。
人と猫の暮らしの境界線がこれほど低い国だからこそ、悲劇のクライマックスに猫が友情出演することは、割とありがちなのだ。
観客が誰一人として猫を追い払おうとせず、むしろ笑顔で見守っていたこと。それこそが、トルコという国の猫との距離感をいちばんよく物語っている。
涙を誘うはずだった『ロミオとジュリエット』の幕切れは、1匹の猫のおかげで、その夜の観客の記憶に一生残る幸せな喜劇に変わった。
まああれだ。ハッピーエンドのほうが後味は良さそうじゃない?
ちなみに、シェイクスピア自身が動物を飼っていたかどうかは定かでないが、作品の中には猫が30回以上も登場している[https://www.historyhit.com/the-bizarre-life-of-cats-in-shakespeares-england/]。
猫に縁の深かった劇作家の悲劇に猫が出演したのは、案外、運命のいたずらだったのかもしれない。
インペリアル・ロシア・バレエ団の人たちも、この猫に魅了されたようだ。











