イギリス中部ノッティンガムシャーのシャーウッドの森で、日本だと平安時代初期にあたる頃から存在し続けてきた伝説のオークの木が、長い生涯を終えた。
その名は「メジャーオーク」。
ロビンフッドの伝説と共に、長い年月を生き続けてきたこの木の物語は、ここで幕を閉じるわけではない。
青々とした葉を茂らすことはもうないが、多様な生き物たちを支えるため、その身が朽ち果てるまで、森を見守り続けていくのである。
シャーウッドの森の伝説の古木がその生涯を閉じる
2026年6月18日、シャーウッドの森自然保護区を管理する英国鳥類保護協会(RSPB)は、メジャーオークが今年ついに葉をつけなかったことから、「枯死した」とみられると発表した。
この木が今年葉をつけなかったことは、長年にわたりこの壮大な木を世話してきた人々、この木を見るためにここを訪れた何百万人もの人々、すべての人にとって悲しいことです
RSPBの上級管理責任者、ホリー・ドレイク氏は、メジャーオーク枯死を発表した声明[https://www.rspb.org.uk/whats-happening/news/the-major-oak]の中でこう述べている。
シャーウッドの森といえば、「ロビン・フッド」の伝説で知られる森である。日本でも名前だけは聞いたことがある人も多いと思う。
ロビン・フッドは中世イングランドを舞台とする伝説上の弓の名手で、裕福な貴族などから奪った富を、貧しい人々に分け与えた義賊とされている。
シャーウッドの森は、そんな彼が仲間たちとともに隠れ潜み、権力者に立ち向かった場所として語り継がれているのだ。
森を象徴していた古木「メジャーオーク」
この木は幹の周りが約10m、樹冠の広がりが約28mにもなる巨大なイングリッシュオーク(ヨーロッパナラ/学名Quercus robur)で、少なくとも18世紀末にはすでに名木として知られていた。
現在の「メジャーオーク」という名前は、1790年にこの木を記録した古物研究家ヘイマン・ルーク少佐(Major Hayman Rooke)にちなんだもので、「メジャー(Major)」は人名ではなく彼の階級「少佐」を指している。
それ以前は、この木の下で闘鶏が行われていたことから、「コックペン(鶏小屋)・ツリー」と呼ばれていたのだそうだ。
おそらく世界で最も有名な木だと言っても過言ではないでしょう。ルーク少佐はこの機について記録し、絵も描きました。
それによって人々の注目を集めるようになったのです
RSPBの運営管理責任者、クロエ・ライダー氏はこのように語っている。
その人気が木の寿命を縮めた可能性も
長年にわたって、ロビンフッドの伝説と共に親しまれてきたメジャーオークだが、その長寿を支えてきた環境は少しずつ変化していった。
1896年ごろにこの地に鉄道が開通し、アクセスが良くなると観光客が急増し、多くの人々が木の周囲を歩くようになった。
さらに、かつては車両がすぐ近くまで乗り入れられるようになっていた時期もあり、第二次世界大戦中には周辺が弾薬集積地として利用されていたという。
2021年から行われた調査の際、土壌が深さ約1.2mまで圧縮され、根が深刻な影響を受けていることが判明した。
こうした人や車両による圧力は前例のないものでした。木が寿命の最後の10%ほどの段階に入り、活力が大きく低下していた時期に、それらの影響を受けることになったのです
これにより、雨水や空気が十分に根の部分に届かなくなり、メジャーオークは長年にわたって大きな負担を抱え続けてきたのである。
木の周りに柵が設置されたのは、1970年代になってからのことだった。また、初期の保全の取り組みには、太い枝を支える支柱の設置が含まれていた。
だが、この支柱も結果的に、枯死の一因となった可能性が高いと、RSPBは付け加えている。
さらに近年は異常気象も追い打ちをかけた。2022年には現地で40℃を記録する熱波が発生。その後も干ばつの傾向が続き、衰えつつあった古木に大きな負荷を与えたとみられている。
ただし専門家たちは、原因をひとつに絞ることはできないと強調する。長年にわたる土壌圧縮、根系の衰弱、過去の保全処置、近年の気候変動。
そして1000年以上という途方もない年月といったすべての要因が、複雑に絡み合った結果だというのである。
枯れた後も森のいのちを支え続けるオーク
オークは特に多くの生物を支える樹木として知られており、研究者によれば2000種以上の生物が、何らかの形でオークの恩恵にあずかっている考えられている。
オークは生物多様性という点でまさにスターです。鳥やコウモリ、哺乳類だけでなく、地衣類や菌類、枯死木を利用する無脊椎動物なども支えています。ハエやハチなども含まれます。
そしてメジャーオークが枯れた今も、そうした生物たちは今後何年も、何十年もこの木を利用し続けるでしょう
樹木の管理管理を請け負っているアーバン・フォレストリー社の樹木医であり、ディレクターでもあるレグ・ハリス氏はこう説明する。
こういった生き物たちにとって、立ち枯れた古木という存在は、貴重な住みかとなり得るのだ。
木は枯れると新しい生命段階へ移行します。枯死木も、生きている古木とはまったく異なる価値を持っています。そこには別の生物群集が生息します。
メジャーオークが再び青々とした葉をつけることはないが、それでも今後何十年にもわたり、生き物たちを支える存在であり続けるのだという。
イギリスの自然保護団体ウッドランド・トラストの「シャーウッド・トリースケープ・プロジェクト」責任者、ルイーズ・ハケット氏は、次のように語っている。
伝説というものは変化し、進化していくものです。ロビン・フッドの物語と同じように、この木も今、新たな時代へ入ろうとしています。
人々の記憶にある姿とは変わるかもしれません。しかし思い出は残りますし、この木は今後もロビン・フッド伝説の一部であり続けます。
そしてこれからも、長い年月ここに存在し続けるでしょう。それは祝福されるべきことです
現在、シャーウッドの森には500年以上の樹齢を持つオークが1000本近く残されており、その数はヨーロッパ有数とされる。
この森には996本の古代オークがあります。メジャーオークが最も有名な存在であることは確かですが、ほかのオークたちにも名前があり、それぞれに物語があります
関係者はメジャーオークから得られた知見を今後の古木保全に生かしたいとしており、種や苗木から後継となる樹を育てる計画も進めているそうだ。
メジャーオークの長かった生涯を惜しむ声が殺到
美しい伝説の木が、その生涯を静かに閉じたことを知った人々からは、追悼のメッセージが寄せられている。
- 私はこの木の近くで育ち、遠足で何度もこの森を訪れた。昔は保全について知られていなかったから、実際に触れてしまったこともある。青々と葉を茂らせた姿を何度も見られたのは光栄だったけど、自分も少なからずこの木の枯死に関わっていたのかもしれないと思うと悲しい
- この木は、これまでに残したたくさんの実生や、多くの生き物たちの中で生き続ける。
オークの木は、生きている時よりも、死後に多くの命を支えるんだよ- 僕の家系では20世代以上、この木が存在しない世界を生きた人はいない。最も古い祖先はノルマン征服以前、現在の王家が成立する前の時代に生きていたんだ。それなのに僕と両親は、900年代の名も知らぬ祖先以来初めて、この木が枯れてしまった世界を生きることになる
- みんな悲しまないでほしい。木は動物のように死ぬわけじゃない。木にとっての「死」は連続的な過程なんだ。今も地下では、他の植物や菌類と栄養をやり取りしているし、これからもたくさんの動物たちに食べ物やすみかを提供し続ける。これから長い「死後の人生」が待っているんだから
- 長年にわたる場当たり的な保全措置がなかったら、あと何年生きられたのかな。2000年代以降は、あまり状態が良くなさそうだった
- たとえあと数年長生きできたとしても、この木が寿命の終わりに近づいていたという事実は変わらないよ
- 人間がこの木に自然な「老い方」を許さなかったことの方が悲しい。見た目を保とうとして、限界を超えるまで手を加え続けたんだから。その結果、木はついていけなくなり、完全に機能を停止してしまったんだ
- 悲しい知らせだけど、この木はこれからも私の心の中で生き続ける。私は何年もこの木を訪れてきて、昨年の夏が最後だった。いつも魔法のような場所だったし、これからもきっとそうあり続けると信じている
- メジャーオークの近くに住んでいるよ。
子供の頃は木に登ったり、中に入ったりして遊んでいた。僕たちにとっては要塞みたいなものだった。当時は今のような柵もなかったしね- 父が話してくれたんだけど、僕がまだ幼なかった頃、家族でシャーウッドの森を訪れたらしい。父は僕を抱き上げて、この木の枝にぶら下がらせてくれた。もう60年以上前の話で、今のように柵で囲われたり支柱で支えられたりするずっと前のことだ。古い写真を探してみようと思う。たぶん、どこかに残っているといいな
世界中でメジャーオークの子孫が育っている
メジャーオークのいのちは尽きたが、その幹や枝はこれからもずっと同じ場所に立ち続け、シャーウッドの森のシンボルとして、また多様な生き物たちの生息場所として、存在し続けることだろう。
樹木医のハリス氏は、メジャーオークから得た学びを、今後に生かしていきたいと語っている。
メジャーオークは生きた博物館です。今もなお私たちに多くのことを教えてくれています。
私はこの木を失うことに深い悲しみを感じていますが、同時にここから得られた知識や科学的知見を、ほかの古木や老齢木の保全に生かしていきたいと思っています
また、RSPBは声明の中で、次のようなメッセージを発信している。
この木から採取された実生や挿し木は、すでに苗木として育てられており、今後についてはパートナーとともにさまざまな計画を検討しています。
メジャーオークの子孫となる苗木は、すでに世界各地に植えられています。私たちは今後、それらの子孫が成長し、実を実らせ、そして新たな伝説を生み出していけるよう取り組んでいく予定です。
その物語はこれから何世紀にもわたって受け継がれていくことでしょう
メジャーオークの生木としての生涯は終わりを迎えたが、その物語はまだまだ続いて行く。
森の保全にあたる専門家たちは、引き続きメジャーオークとその周辺の生態系、そして古木の構造的な安全性を監視していくとのことだ。
シャーウッドの森とロビン・フッドの伝説は、これからも永遠に語り継がれていくことだろう。
なお、タイミングがいいのか悪いのか、2026年6月、ヒュー・ジャックマン主演の映画『The Death of Robin Hood(ロビンフッドの死)』が全米で劇場公開された。
英雄としてのロビンフッドではなく、晩年の後悔に苛まれる彼を描いたちょっとダークな作品らしい。
日本公開の日程はまだ未定だが、美しいシャーウッドの森の風景も登場するかもしれないので、興味のある人は公開を待ってみてもいいかも。
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追記(2026/06/23) メジャーオークの木の由来を変更して再送します。
References: Robin Hood's Oak Tree Hideout Dies After 1,200 Years in Sherwood Forest[https://people.com/ancient-oak-tree-robin-hood-dies-1-200-years-12001579]











