ハンガリー、ブダペストの地下には、全長32kmに及ぶ巨大な迷路が広がっている。
800年以上前に石灰岩の採掘場として掘られたこのトンネルは、採掘終了後はワイナリーやビール醸造所として使われてきた。
第二次世界大戦が始まると、連合軍の爆撃を逃れるために秘密の航空機エンジン工場へと転用された。
地上に爆弾が降り注ぐなか、労働者たちは地下で200基以上のエンジンを作り続けたのだ。
ブタペストの地下に眠る800年前のハンガリー最大の空間
ハンガリーの首都、ブダペストの地下には、巨大な空間がある。
ハンガリー語で「採石場」を意味するコーバーニャ地区(Kőbánya)の地下に広がるトンネル網は、全長32~35km、床面積は最大22万平方mに達する。
幅3~6m、高さ最大10mの回廊が迷路のように連なり、最深部は地表から約30mに達する。
石灰岩の性質上、壁は常に湿気を帯び、地下水が流れ込んで水没した区画も多い。その規模はハンガリー最大の地下空間と評される。
このトンネル網は13世紀、石灰岩の採掘場として掘られた。
採掘された石灰岩はハンガリー国会議事堂や国立オペラ座、セーチェーニ鎖橋(Széchenyi Chain Bridge)など、ブダペストを代表する建造物の建設に使われた。採掘は1890年に禁止され、広大な地下空間だけが残された。
地下空間はワイナリーとビール醸造所に転用される
採掘業者が去った後、地下空間に目をつけたのはワイナリーとビール醸造所だった。
石灰岩が保つ安定した低温と湿度は、ワインやビールの熟成に理想的な環境だった。
1844年にペーテル・シュミットがコバーニャ醸造所を設立し、トンネル網をビールの醸造用保管庫として活用した。
1862年にはオーストリアの実業家アントン・ドレハー・シニアが買収し、ドレハー醸造所の礎を築いた。
第二次世界大戦中は、秘密の航空機エンジン工場に転用
第二次世界大戦中、この地下空間は全く別のものに生まれ変わった。
1944年、アメリカ陸軍航空軍第15航空軍のB-17やB-24爆撃機による連合軍の空爆がハンガリーの工業施設を次々と壊滅させていた。
地上の航空機工場を稼働させ続けることは不可能に近かった。
そこでドナウ航空機工場はトンネルに生産設備をこのトンネル網に移転したとされ、地下でおそらくは、メッサーシュミットMe210、もしくはメッサーシュミット Bf109の戦闘機のエンジンを極秘に組み立て始めたという。
地下工場の存在は徹底的に秘匿された。
地上では爆弾が降り注いでいたが、地表から10~15m下に位置する工場内では爆発音がかすかにしか聞こえなかったという。
工場の存在は長い間、噂でしか伝わっていない。
歴史家たちが確認できた文書記録はわずかしか残っていない。写真は1枚も発見されていない。
それでも労働者たちは200基以上のエンジンを作り続けたと言われている。
ソ連赤軍がブダペストに迫る1944年末、生産設備はドイツ本国へと移送され、地下工場は静かに幕を閉じた。
今も地下に広がる、巨大迷路
戦後、トンネル網の一部はゴミや建設廃材で埋め立てられた。キノコの栽培に使われた時期もあった。
現在はドレハー醸造所が引き続き一部を使用しており、観光客がトンネル内を見ることができるガイドツアーやダイビング、自転車競技のコースとしても活用されている。
しかし全長32kmのトンネル網は、洪水や崩落の記録が乏しいこともあり、いまだ全容が解明されていない。
地下で何が起きていたかを完全に知る者は少ないのだ。
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References: Kőbánya cellar system - From quarry to wine cellars to beer brewing - Abandoned Spaces[https://www.abandonedspaces.com/industry/cellar-system.html] / Kőbánya cellar system[https://en.wikipedia.org/wiki/K%C5%91b%C3%A1nya_cellar_system]











