スペインで、長らく激しい頭痛に悩まされていた60歳の男性が病院で検査をした。
医師は当初がんの脳転移(転移性脳腫瘍)を疑ったが、精密な画像検査を行った結果、実際には脳内にたくさんサナダムシの幼虫が寄生していることが判明した。
男性は、海外への渡航歴はなく、かつて建設現場で働いていた時に、同僚から感染したという珍しいケースだという。
的確な診断により不必要な手術が回避され、男性は投薬治療によって無事に回復を遂げた。
この症例はアメリカ疾病予防管理センターの医学誌『Emerging Infectious Diseases[https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/32/7/26-0587_article]』(2026年7月号)に掲載された。
脳腫瘍の疑いから一転、脳内にサナダムシを発見
この60歳男性のレントゲン画像を確認した医師たちは、、体の別の場所から脳へがんが転移した「転移性脳腫瘍」を最も強く疑った。
男性は免疫の病気を持っておらず、海外への渡航歴もなかったからだ。
頭痛を和らげるために炎症を抑えるデキサメタゾンというステロイド薬を処方したところ、男性の症状は少し落ち着いた。
その後、がんの場所を探すために全身の造影CTスキャンや大腸カメラ、がん細胞を見つけ出すPET/CTスキャンなど、徹底的な検査が行われた。
ところが、どれだけ検査をしても男性の体内からがんは見つからなかった。
そこで医師たちは、脳の病変をさらに詳しく調べるため、高解像度のMRI(磁気共鳴画像)スキャンを実施した。
するとその画像には、腫瘍ではなく、被膜に包まれたヒトに感染するサナダムシの一種、有鉤条虫の幼虫が入った嚢胞(のうほう)であることが判明した。
その後の血液検査で男性がサナダムシに感染していることが正式に確認された。
男性が処方されていたデキサメタゾンは、寄生虫が引き起こす脳の炎症を抑える効果もあったため、一時的に症状が和らいでいたのである。
男性はすぐに抗寄生虫薬の投与を受け、後遺症もなく無事に回復した。
渡航歴のない男性がなぜ感染したのか?
サナダムシの卵が口から入り、幼虫が血流に乗って脳に定着する病気は「神経嚢虫症」と呼ばれる。
通常、この病気は衛生状態が悪い地域で多く見られるが、男性はスペインから海外へ渡航した経験がなかった。
男性は長年建設現場で働いており、寄生虫の感染が日常的に起きている地域からの労働者たちと一緒に仕事をしていた。
医師は、寄生虫が流行している地域から来た同僚と男性が一緒に食事をしたり、同じトイレを使ったりした際に、手に付着した微小な卵を誤って口にしてしまったことが原因だと推測している。
本来その病気がない国において、海外へ行ったことのない人が地域内で感染してしまう土着感染は、ヨーロッパでは極めてまれな現象である。
思い込みによる誤診を防ぐ徹底した検査の重要性
脳内に寄生虫が這いまわっていると想像するだけで恐ろしいが、この病気は適切な薬を使用すれば治療が可能だ。
一方で、当初疑われていた転移性脳腫瘍であれば、命に関わるはるかに深刻な事態となっていた。
アメリカやスペインのような先進国では、神経嚢虫症の発症は非常に少ない。
しかし医師は、たとえがんの確率が統計的に高い地域であっても、似たような症状が出た場合は常に寄生虫感染の可能性を考慮すべきだと警告している。
思い込みによる不必要な開頭手術を防ぐためには、あらゆる可能性を探る徹底した画像検査が不可欠なのだ。
References: Autochthonous Neurocysticercosis Brain Lesions Mimicking Metastatic Disease, Spain - Volume 32, Number 7—July 2026 - Emerging Infectious Diseases journal - CDC[https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/32/7/26-0587_article]











