小さな電子装置で操られ、瓦礫の隙間に入り込んで生存者を捜すサイボーグ昆虫が、すでに実際の災害現場に投入されている。
だが生きた昆虫(主にマダガスカルオオゴキブリ)なので、水中では活動できないのが難点だった。
シンガポールの南洋理工大学と日本の早稲田大学の研究チームはこの弱点を克服するため、酸素を送り込む潜水服が開発した。
装着すると水中で最大3時間動けるようになり、浸水した被災地での探査活動の幅が広がると期待される。
この研究成果は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-026-74235-1]』誌(2026年6月29日付)に掲載された。
サイボーグ昆虫とは
サイボーグ昆虫は、生きた昆虫に小型の電子装置を取り付け、進む向きを人が操れるようにしたものだ。
昆虫の感覚器官に弱い電気信号を送ると、昆虫は反射で向きを変えたり前へ進むため、進路を操ることができる。
昆虫自身の筋肉と代謝でエネルギーをまかなうため、小型ロボットよりはるかに少ない電力ですみ、狭い隙間にも入り込める。
背中に載せたカメラや赤外線などのセンサーで、動きや体温、二酸化炭素といった人の気配を捉えると、無線で地上の装置に知らせる。
災害救助への応用は10年以上前から研究されてきた。
今回の潜水服を開発した南洋理工大学の研究チームが手がけたサイボーグ昆虫も、2025年3月のミャンマー地震で現地に派遣され、生存者の捜索に使用された。
水中では呼吸できないのが弱点
サイボーグ昆虫は生きているため、呼吸も昆虫自身の体に頼っている。
マダガスカルオオゴキブリは体の側面にある気門(きもん)という小さな穴から空気を取り込み、全身に張り巡らされた「気管」を通して細胞に酸素を届けている。
水中に沈むと気門から水が入ってしまうため、酸素を取り込めなくなる。
実験では、通常のゴキブリを水に入れたところ約2分で動かなくなった。
大雨や洪水の後の被災地では、瓦礫の隙間や排水路、半分水没した空間など、水に浸かった場所が多く生まれる。
浸水した場所では、陸上でしか動けないサイボーグ昆虫は活動できない。
そこで今回開発されたのが、水中でも呼吸を保つことができるミニ潜水服だ。
化学反応で酸素を作る3Dプリント製の潜水服を開発
シンガポールの南洋理工大学と日本の早稲田大学の研究チームが開発した潜水服は、酸素を発生させるタンク、体を覆う柔らかい防水シェル、気門へ酸素を届ける4本のシリコーン製チューブからなる。
タンクには過酸化水素と二酸化マンガンを入れておく。二酸化マンガンが過酸化水素の分解を助ける触媒として働き、過酸化水素が水と酸素に分かれる。
こうしたできた酸素がチューブを通って気門へ送られる。
加圧した酸素ボンベを積む人間のダイビングとは違い、必要な酸素をその場の化学反応で作り出す仕組みだ。
タンクは透明な樹脂を3Dプリントで成形した小型のもので、チューブは胸部の気門につなぎ、後から痛みや害を与えずに外せる。
今回の実験には、アフリカに生息するマダガスカルオオゴキブリが使用されることが多い。
マダガスカルオオゴキブリは体長は7cm程度と大きく、寿命は5年程度と長い。
日本の家庭に出るゴキブリとは違い、羽がなく飛ばず、動きもゆっくりしており、ペットで飼う人もいるほど丈夫で扱いやすい。
そのため、サイボーグ昆虫の研究ではよく使用されている。
潜水服を着けたゴキブリは、深さ50cmまでの水中で最大3時間活動できた。
陸上での移動速度は毎秒87.5mmで、水中でも毎秒78.4mmと、ほとんど落ちなかった。観察した5匹は3日後も健康だった。
水陸両用のサイボーグ昆虫が探査の幅を広げる
潜水服によって、陸上だけで動いていたサイボーグ昆虫が、陸と水の両方で動ける水陸両用へと変わった。
浸水した瓦礫や排水管、トンネルなど、人や従来のロボットが入りにくい場所での生存者の捜索やインフラ点検への応用が期待される。
研究チームは、他の種類のゴキブリやバッタ、甲虫にも同じ仕組みを応用できる可能性があるとしている。
多くの昆虫が気門から酸素を取り込む共通の呼吸の仕組みを持つためだ。
研究を主導したシンガポール、南洋理工大学の佐藤裕崇教授は、この技術を宇宙にも役立てたいと語っている。
火星のような環境の探査も、酸素をタンクで生成して吸引することができれば、人間も活動できるようになるかもしれない。
佐藤教授の個人的展望だそうだが、これは是非とも実現できるよう応援したい。
References: DOI.10.1038/s41467-026-74235-1[https://www.nature.com/articles/s41467-026-74235-1] / NTU Singapore and Waseda University scientists develop a diving suit for cyborg cockroaches | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1133983] / 酸素供給スーツで3時間潜水するサイボーグ昆虫を実現 – Global Research Center (GRC) 早稲田大学 研究活動[https://www.waseda.jp/inst/research/news/84905]











