かつてニューギニア島の山には、現代のカンガルーとは違うカンガルーが生息していた。
後ろ足でピョンピョンと跳びはねることはなく、長く頑丈な前足を使って四足で歩いていた。
このカンガルーはプロテムノドン・トゥンブナ(Protemnodon tumbuna)と呼ばれ、約2万年前までに絶滅したと考えられてきた。
ところが西オーストラリア大学などの研究チームが、ニューギニア島北岸の遺跡で見つかった骨の化石を調べたところ、約6,500年前まで生き延びていたことが明らかになった。
この研究成果は『npj Biodiversity[https://www.nature.com/articles/s44185-026-00146-5]』誌(2026年6月30日付)に掲載された。
かつてニューギニアに存在した四足歩行のカンガルー
今からおよそ5万年前、太平洋西部にあるニューギニア島の山地林に、プロテムノドン・トゥンブナ(Protemnodon tumbuna)が生息していた。
西洋の科学者がこの種を最初に記録したのは1983年のことだ。
カンガルーやコアラと同じ有袋類で、すでに絶滅したプロテムノドン属の1種にあたる。
プロテムノドン属は、かつてオーストラリアに6種、ニューギニア島に1種が分布していた。
約7万年前から1万年前まで続いた氷期に、海面が現在より最大120m低くなり、ニューギニア島とオーストラリアは陸続きになって、サフル大陸を作っていた。
プロテムノドン・トゥンブナが生息していた約5万年前も、ニューギニア島はサフル大陸の一部だった。
陸続きだった時代も、乾燥した土地に適応した種と、山地林に適応した種は、それぞれ違う場所に生息していた。
プロテムノドン・トゥンブナは、ニューギニア島の山地林にのみ生息する種だ。
体の大きさは現代のアカカンガルーほどだが、体つきははるかにがっしりして筋肉質だった。
特に変わっていたのが移動の方法で、跳びはねることはほとんどなかった。
長く頑丈な前足が体を支え、四足で歩きながら、急な斜面や入り組んだ地形を素早く移動していた。
絶滅の時期をめぐる論争
プロテムノドン属がいつ、なぜ絶滅したのかは、長く議論が続いてきた。
オーストラリアでは、6種すべてが約4万1千年前までに姿を消したとされる。
この絶滅が人類の狩りによるものだったのか、気候変動によるものだったのかで、研究者の意見は今も分かれている。
ニューギニア島では、島の東部高地にあるノンベ岩陰遺跡で発見された化石から、プロテムノドン・トゥンブナが約2万7千年前から2万2千年前まで生きていたことが確認された。
この時期は最終氷期最盛期で、旧石器時代の頃だ。
プロテムノドン・トゥンブナは、約2万年前に絶滅したというのが、これまでの定説だった。
指の骨の化石の分析により、6500年前まで生息していた可能性
今回、西オーストラリア大学の研究者は、ニューギニア島北岸にあるタオラ岩陰遺跡から発掘された指の骨の化石を詳細に分析した。
タオラ岩陰遺跡では、2004年に発掘調査が行われ、保存状態のよい動物の骨が大量に見つかっており、指の骨の化石もその中に含まれていた。
だが正体がわからないまま保管されていた。
研究チームが調べてみると、指の骨の化石は、カンガルーの仲間のものであることがわかったが、現在のニューギニア島に生息するどの有袋類よりも大きかった。
様々なデータと比較した結果、この指の骨の化石は、すでに絶滅したプロテムノドン・トゥンブナのものである可能性が濃厚となった。
最終的な判断材料となったのが、2024年に、タオラ岩陰遺跡から数km離れたオエナケ山脈のふもと、ラチツ洞窟で発見された、プロテムノドン・トゥンブナの1本の歯の化石だった。
歯が出土されたのは、約1万8千年前かそれより新しい石灰岩の地層で、この種が近くの地域に、これまで考えられていたより新しい時期まで生息していたことを示していた。
同じ種が近くに生息していたのであれば、タオラの指の骨の化石もプロテムノドン・トゥンブナのものと判断できる。
更に指の骨の化石が出た地層の年代は、約6,800年前から5,300年前であることが判明した。
約2万年前までに絶滅したとされてきたプロテムノドン・トゥンブナが、約6,500年前まで生きていたことになる。
日本では縄文時代の時期だ。
生き残れた理由と消えた理由
ノンベ、ラチツ、そしてタオラの証拠を合わせて読むと、人々とプロテムノドン・トゥンブナは、数万年にわたって同じ場所で暮らしていたことになる。
人々が農耕を始め、村を作って定住するようになってからも、このカンガルーは生き続けていたのだ。
では、なぜプロテムノドン・トゥンブナは姿を消したのか。
絶滅を引き起こしたのは、気候の変化による生息地の縮小が最も大きな要因とされている。
過去数十万年の間、気候はしだいに乾燥へと向かい、ニューギニア島の山地林は少しずつ縮んでいった。
オーストラリア東部クイーンズランド州のマウント・エトナで見つかったプロテムノドン属の歯を調べた研究では、この仲間が狭い範囲でしか動かず、食べ物を探すためにも移動のためにも遠くへ行かなかったことがわかっている。
プロテムノドン・トゥンブナも、狭い範囲でしか動けないために、縮んでいく森から逃げ出して新しいすみかへ移ることができなかった。
やがて森は、群れを維持できるだけの数の個体を養えないほど小さくなった。
同じころ、この地域では農耕が始まり人口が急速に増えていった。
すみかを失い数を減らしていたプロテムノドン・トゥンブナにとって、人間による狩りがとどめを刺し、姿を消していったと考えられる。
研究チームを率いた西オーストラリア大学のルーカス・コウンゴウロス博士は、すみかの急速な消失と人口の増加が重なったことが、最終的な絶滅につながった可能性を指摘している。
この研究でわかったこと
- ニューギニア島にいた四足歩行のカンガルーは、約6500年前まで生き延びていた
- 約2万年前に絶滅したという定説より、1万年以上も新しい時期まで生きていた
- 人類とこのカンガルーは、数万年にわたって同じ場所で共存していた
まだわかっていないこと
- 気候の変化で森が縮み、人間の狩りがとどめを刺したと考えられるが、それぞれがどの程度絶滅に影響したかは特定できていない
References: Megafauna survived until 6,500 years ago on New Guinea coast[https://www.uwa.edu.au/news/article/2026/july/megafauna-survived-until-6500-years-ago-on-new-guinea-coast] / DOI: 10.1038/s44185-026-00146-5[https://www.nature.com/articles/s44185-026-00146-5] / Theconversation[https://theconversation.com/giant-kangaroos-survived-until-6-500-years-ago-on-the-new-guinea-coast-286638]











