シロイルカのようなドローンロボットが、空中にふんわり浮かんで羽ばたきながら、部屋の中をすいすいと泳ぐように移動する。
その正体は、慶応大学らの国際研究チームが開発した新しいコンパニオンロボットだ。
ジブリやポケモンのキャラクターに着想を得たという「空飛ぶロボット」は、ヘリウムで浮かぶ柔らかボディのおかげで、ぶつかっても怪我をする心配はほとんどない。
目覚まし代わりにそっと体を押してくれたり、勉強中に付き添ったり、ときには一緒に踊ってくれたりと、日常の癒しとなる良き相棒になりそうだ。
この研究成果は、2026年6月13日から17日にかけシンガポールで開催されたヒューマン・コンピュータ・インタラクションに関する国際会議「DIS ’26」(ACM Designing Interactive Systems 2026)[https://dl.acm.org/doi/10.1145/3800645.3813051]で発表された。
屋内の空間を静かに漂う新型ロボット
慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科のMingyang Xu氏は、MITメディアラボや香港城市大学、ドイツのデュースブルク・エッセン大学、クラウスタール工科大学の研究と共同で、新たな癒し系ロボットを開発した。
一般的なドローンは、複数のプロペラを高速回転させることで浮力を得るため、屋内で飛ばすと大きな回転音や強い風が発生し、周辺の紙を巻き上げたり、そばの人を驚かせたりする。
一方、こちらの風船のようなロボットは、ゆっくりと優雅に飛行する。
気体そのもので浮力を得るため、推進の仕組みは前進や方向転換だけに使えばよく、消費電力が少なく長時間浮かび続けられる。
回転音や下向きの風もほとんど発生しないため、動作音は静かだ。
Xu氏らのチームは、こうした仕組みの違いから、このロボットを従来のドローンとは区別し「ソフト・フローティング・ロボット(Soft Floating Robots、以下SFR)」と名付けている。
ジブリやポケモンのキャラクターに着想
SFRは姿かたちにも工夫が凝らされている。
試作機は、むき出しのプロペラではなく、柔らかく羽ばたくヒレのようなパーツで空中を移動し、滑らかな動きのせいか機械というより生き物のように見える。
デザインは、ディズニー映画の妖精ティンカー・ベルや、ポケモンのミュウ、スタジオジブリのまっくろくろすけ(ススワタリ)といった、空を漂う架空のキャラクターから着想を得たという。いずれも人に危害を加えない、親しみやすい存在として知られている。
その背景には、ロボットの見た目や動きが人間に近づきすぎるとかえって強い違和感を与えてしまうという「不気味の谷(現象[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E6%B0%97%E5%91%B3%E3%81%AE%E8%B0%B7%E7%8F%BE%E8%B1%A1])」と呼ばれる問題もある。
硬く精巧な人型ではなく、柔らかで生き物めいた姿を選んだ設計は、親しみを意識した方向性と言えるだろう。
家庭で担う新しい役割
見た目の親しみやすさは、使い方にも反映されている。研究チームは、SFRが家庭内でどう役立つかを示す動画も公開している。
朝は、けたたましい目覚まし時計の代わりに、上からやさしく舞い降りて、頬に触れて起こしてくれる。
仕事や勉強漬けのときは「ちょっと休もう!」とでもいうように上から降りて来て触れてきたり、ゲームに没頭しすぎると画面をしれっとさえぎったり。
読書のときはひざの上で本を支える台になり、待ち時間に退屈そうにしているときは周りを飛び回って楽しませてくれたり。
音楽が流れれば空中を泳ぎ回ってダンスパートナーになったりと、その場を和やかにするムードメーカーにもなる。
とくにこっちが熱中してる画面を容赦なく遮るところとか、飼い主の気を惹きたいペットのネコや犬みたいで愛着が湧きそうだ。
こんなふうに家の中でふわふわと宙に浮き、人の暮らしにつかず離れず寄り添うような存在は、ファンタジーの世界では珍しくない。裏を返せば、現実にはあり得ない夢の象徴ともいえる。
だが、ロボット工学とヒューマン・コンピュータ・インタラクション(人とコンピューターの関わり方に関する研究分野)の進歩によって、その夢は少しずつ現実に近づいている。
柔らかさが生む安全性
このロボットの大きな特長は、見ての通り、柔らかく軽い体そのものにある。硬い機体を持つ従来のドローンと違い、人やペット、家具にぶつかっても衝撃が少なく、大事故につながりにくい。
研究チームは、この発想を「柔らかさによる安全性」と呼んでいる。
三次元空間を活かす浮遊性
柔らかさによる安全性と宙に浮かぶ浮遊性の組み合わせは、活動範囲の広さをもたらす。
床を占領するのではなく、屋内で使われていない三次元空間を活用でき、家具の上や階段、目線の高さや天井付近など、車輪で動くロボットには厳しい場所にも居場所が作れる。
それでいて、大きな音を立てて飛び回るドローンほど場の空気を乱すこともない。
こうした自由度をどう設計に落とし込むか、研究チームはロボット工学やヒューマン・コンピュータ・インタラクション、デザインの専門家12名への聞き取り調査をもとに、SFR用の設計フレームワークをまとめた。
それは移動性やコミュニケーション、物理的なデザイン、動き、人との関わり方、関係性における役割、自律性の度合いなど10の観点から整理され、この分野では初めての体系的な枠組みになった。
機体を支える技術と課題
このように幅広い可能性を実現するには、機体そのものの技術力も欠かせない。
試作機は、ヘリウムを詰めた袋状の構造に、炭素繊維で補強した羽ばたき式の翼、軽量な小型サーボモーター、マイクロコントローラー(小型の制御用コンピューター)、コンパクトなリチウム電池を組み合わせて作られている。
左右対称に翼を羽ばたかせて前進する力を生み、左右の動きに差をつけて方向転換する仕組みだ。
課題も残る。ヘリウムが生み出す浮力は1リットルあたり約1gに過ぎず、機体の耐荷重が技術的な壁になる。
その制約を乗り越えるため、研究チームは超軽量なドローン向け電子部品の使用や、重い処理を外部システムに任せること、機体に搭載する処理を極力減らすことを推奨している。
広がる推進方式と今後の展望
10の観点から整理された設計フレームワークが想定したのは、羽ばたき式の翼だけではない。
魚のように揺れ動く尾びれや、クラゲにヒントを得たアクチュエーター(動きを生み出す装置)、推力の向きを変える方式、プロペラを使わない超音波式の小型送風機など、複数の推進方式に対応できるよう設計されている。
研究チームは、SFRが、感情的なつながりを感じられるコンパニオンや、暮らしを見守るアシスタント、家庭内のヘルプ役として活躍する未来を描いている。
人と自然に空間を共有し、日常に溶け込むことを目標とするSFR。これからはスマートフォンやスマートスピーカーともまた違う、ロボットの新ジャンルが生まれることになりそうだ。
References: Video: Floating robot inspired by Tinker Bell and Mew reimagines home companionship[https://interestingengineering.com/ai-robotics/video-floating-robot-inspired-by-tinker-bell-and-mew-reimagines-home-companionship]











