森下仁志インタビュー@中編
(現・東京ヴェルディヘッドコーチ)
◆森下仁志・前編>>高卒1年目の鎌田大地の「立ち姿」を見て直感
高卒1年目からサガン鳥栖で異彩を放った鎌田大地は、その後、世界の舞台に立っても自分のスタイルを変えなかった。その成長を指揮官という立場で支えた森下仁志氏は、才能ある若者を導くうえで、まず「ゼロ地点」に立たせることを重視していたという。
では、ガンバ大阪U-23時代に指導した中村敬斗には、どのように向き合い、その才能を引き出していったのか。自信を失いかけていた若きアタッカーが再び自らの武器を取り戻していった日々を、森下氏にあらためて振り返ってもらう。
※ ※ ※ ※ ※
── 当時18歳だった鎌田大地選手と、29歳となった今の鎌田選手。この11年間で、どこが一番成長したと感じますか。「大地がすごいのは、いい意味で『変わってない』ということ。相手がどこであれ、僕が知っている大地なんですよ。
年齢を重ねるなかでプレースタイルを変えるとか、ヨーロッパに行ったことで全然違うスタイルになる選手も中にはいますけど、大地は全然変わらない。もちろん、彼のなかで修正したり、改善している部分もあると思いますが、プレーしている風景や立ち姿は、僕の知っている大地のままです。
フランクフルトにいた時に言ったんですが、Jリーグでやっていた時と同じようにやれているのは大したものだなって。それはプレミアに行っても変わらないし、今回のワールドカップでも同じでした。どこでプレーしても、大地は大地のままです」
── 常に冷静で、飄々(ひょうひょう)とプレーしているように見えますよね。
「彼は自分のことを、本当によくわかっていますよね。
── 森下さんが鎌田選手に最も求めたことはどういったことですか。
「プレーに関しては、ほとんど何も言っていないと思います。能力が高い選手に対して、僕は基本的に触らないようにしているんです。
もちろん、逃げたプレーだったり、いい加減な対応をした場合にはしっかりと指導しますけど、それ以外に関しては多くを求めません。大地に関しては、とにかくどうやって生かそうか、どうやって成長させようかっていうところだけにフォーカスしていました」
【もう街で簡単に会えない】
── 能力が高い選手は、自分本位になってしまう傾向もあるかと思います。
「そうですね。彼にもそういう話はたくさんしたと思います。基本的に僕の仕事は、選手をゼロ地点に持っていってあげることだと思っています。能力が高い選手ほど、実はマイナスからスタートしているんですよ。
それはなぜかというと、自分の思いどおりにいかない時に、矢印が外に向いてしまう。自分に矢印を向けず、周りのせいにしがちなんです。
そこができていなければ、一歩を踏み出すことはできません。土台がなければ、自分が苦しい状況になった時に、持ちこたえられず崩れていってしまう。だから僕はまず、その選手をゼロに持っていくことを常に意識していますね」
── 鎌田選手にも、そういう側面が見られたのでしょうか。
「そうですね。だから、大地が『僕に面倒を見てもらった』と言ってくれているのは、そういうことかもしれないですね。僕はそこで見捨てることは絶対にしません。
やっぱり才能がある選手が、自滅するのが一番もったいないじゃないですか。昔から、そういう選手はよく見ました。才能があるのに、自分で崩れていってしまう。だから、考え方であったり、感情のコントロールの部分を、大地にはよく言っていたと思います」
── 次に、中村敬斗選手の話を聞かせてください。
「すごいことになっていますよね。簡単に街で会えないなと(笑)」
── 中村選手との接点は、森下さんがガンバ大阪U-23の監督に就任した2019年ですね。
「そうです。敬斗がプロ2年目の時ですね。彼は高校2年生の年末にガンバ大阪と仮契約を結んだので、大地よりも早いタイミングでプロの世界に入りました」
【守備をやれと言っても難しい】
── 最初の印象はいかがでしたか。
「U-23はいわばBチームのような存在で、シーズンの始動時に敬斗はトップチームにいたんですが、沖縄キャンプから戻ってきた2月の頭に宮本(恒靖)監督(現・日本サッカー協会会長)から『敬斗はまだ守備のところが厳しいので見てもらえますか?』と託されました。
彼はまだ高校生だったプロ1年目から、クルピ監督の下でけっこう試合に出て、自由奔放にやっていたと思うんですよ。だけど、宮本監督になって組織的に戦うなかで、守備の課題が浮き彫りになったんです。
そういう状況でU-23に行かされたわけなので、状況は思わしくないじゃないですか。おそらく彼も、ある年齢になった時にはヨーロッパに行きたいと(人生設計を)逆算して思い描いていたはず。その意味ではつまずいているわけなので、表情はあまり明るくなかったですね」
── 自信を失っていたと?
「そんな感じではありました。とはいえ、守備をなんとかしろと言われても、今までそんな感覚でやってきていなかったと思うんです。
── 彼をどうやって成長させていくかが、森下さんのミッションになったわけですね。
「そうですね。ただ、僕は埼玉スタジアムで、敬斗の強烈なドリブルを見たことがあったんです。すごい才能を持った選手に対して、守備をやれと言っても、なかなか難しい。
だから、最初に聞いたんです。お前は何が一番やりたいのかって。そしたら敬斗は『ドリブルとシュートです』って答えたので、じゃあ、それをやればいいじゃんって言いました。もう、パスしなくていいよって。
ゴールを決めて文句を言う監督もいないですし、そうやって自分にプレッシャーをかけていけばいいんじゃないかと。実際にそういう練習を増やしましたし、そもそもU-23は人数も少なかったので、戦術的な練習はできなかったですし、ひたすら個人の技術を磨くことに時間を費やしましたね」
【一番イケていた頃を思い出せ】
── トップチームとは別に練習していたわけですね。
「そうですね。(別で練習していたのは)6人くらいしかいませんでした。ただ、その時はいいメンバーがいて、今ヴェルディにいる福田湧矢であったり、ガンバの食野亮太郎だったり、札幌の髙尾瑠とか錚々(そうそう)たるメンバーがセカンドチームにいたので、その面々でゴール前での対人練習を繰り返しやりました」
── 少人数ではやれることが限られますよね。
「彼らはもう、練習漬けでした。当時よく言っていたのは、『自分が一番イケていた頃を思い出せ』ってこと。おそらく彼らには『純粋にサッカーが楽しいな』って思う時期があったと思うんです。それが10歳なのか、12歳なのか、中学生の時なのかわからないですけど、その時の気持ちを思い出してほしかった。
プロになると、だんだんと周りからの要求だったり、いろんなしがらみもあって、自分のよさを捨てていってしまうんです。ここがダメだとか、これをやらなくちゃいけないということが増えていって、自分のよさを忘れてしまう。それで、気づいた時には何もない。その状態だけは避けたいなと思っていたので、自分のいいところを思い出させることを重視していました」
── 自信を取り戻すことが重要だったわけですね。
「もちろん練習だけじゃなくて、U-23としてJ3にも参戦していましたから、そこで結果を出すことで自信をつかんでいったところもあったと思います。敬斗自身は、とにかくアシストやゴールが多かったですね。たとえJ3であっても数字がついてくれば、自信につながるんですよ」
── 一方で、セカンドチームでプレーすることでモチベーションの低下も懸念されます。
「そこが敬斗の強さですよね。
【苦しい時も決して逃げなかった】
── 矢印を自分に向ける、ということですよね。
「そうです。誰かのせいにするわけでもなく、自分がやるべきことにフォーカスすることで、エネルギーを高めていけるんです。ヨーロッパに行ってからも、敬斗はいい時間よりも、苦しい時間のほうが長いと思うんですよ。今年もワールドカップが始まる前まで、苦しんでいましたからね」
── 若くして海外に行って、順調に成長しているイメージでしたが。
「だから、僕はこういう機会に、みなさんに伝わればいいと思っているんですよ。敬斗はガンバからオランダに行って、ベルギーに行って、そのあとにオーストリアの2部にしか行けなかった。でも、彼はそこから逃げなかった。
去年の夏もフランスの2部から出られずに残念がっていましたけど、どこかで覚悟を決めましたね。しんどい時に踏ん張れる力を、彼は持っているんですよ」
(つづく/文中敬称略)
◆森下仁志・後編>>鎌田大地と中村敬斗の個性を伸ばした育成論
【profile】
森下仁志(もりした・ひとし)
1972年9月21日生まれ、和歌山県海南市出身。順天堂大学から1995年にガンバ大阪へ加入。豊富な運動量を武器に中盤で活躍し、のちにコンサドーレ札幌、ジュビロ磐田でプレー。2005年限りで現役を引退した。翌2006年からジュビロ磐田のユースコーチ、トップチームコーチを歴任し、2012年に同クラブの監督に就任。その後、京都サンガF.C.のコーチ、監督を経て、サガン鳥栖、ザスパクサツ群馬、ガンバ大阪U-23で監督を務め、ガンバ大阪ユースの監督も歴任した。2024年に東京ヴェルディのコーチに就任し、現在はヘッドコーチを務める。Jリーグ(リーグ戦)通算239試合10得点。ポジション=MF。身長173cm。

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