目やクチバシのまわりはオレンジ色、長いまつげ、頭には冠のような飾り羽、すらりと伸びた長い美脚を持つヘビクイワシは、鳥界のモデルのように洗練された美しさを持っている。
だがその優雅な目とは裏腹に、獲物のしとめ方は強烈だ。
その美脚こそが最強の武器となる。獲物であるヘビなどの頭めがけて脚に全体重を載せ、思いっきり叩きつけるのだ。
頭蓋骨は叩き割られ、獲物は何が起きたのかもわからないまま絶命するという。
モデルのような美しい容姿を持つ猛禽類「ヘビクイワシ」
ヘビクイワシは、タカ目ヘビクイワシ科ヘビクイワシ属に分類される唯一の鳥で、アフリカのサハラ砂漠より南の草原やサバンナに暮らしている。
タカやワシと同じく、生きた獲物を捕らえて食べる猛禽類だ。
顔には羽毛がなく、目のまわりから頬にかけて、シャドウやチークを入れたようなオレンジ色のグラデーションの鮮やかな色の皮膚が見える。
後頭部からは黒く長い飾り羽が何本も突き出していて、冠をかぶっているように見える。
ヘビクイワシの顔を近くで見ると、目のまわりに長いまつ毛が並んでいる。
鳥は羽毛以外の毛はもたないため、このまつ毛は羽毛でできている。
鳥の羽毛が変化してできたまつ毛は、飛んだり走ったり穴を掘ったりするときに、ゴミや砂ぼこりが目に入らないようするため守っていると考えられている。
そのため、地面を歩き回って狩りをするヘビクイワシと、砂漠で暮らすダチョウなどにはとりわけ長いまつ毛がある。
体を覆う羽毛は白っぽい灰色で、そこからすらりと細長い美脚が伸びている。タカの仲間のなかで最も長い脚を持つ。
立ったときの高さは約1.2mあり、翼を広げれば2mを超える。それだけの大きさがありながら、体重は2.3~4.2kgしかない。
同じタカ目の仲間でありながら、ヘビクイワシはほとんど飛ばない。だが飛べないわけではない。
木の上の巣に戻るときや求愛のときくらいしか空を飛ばず、あとはひたすら草原を歩き回って暮らしている。
美脚は狩りの最強の武器となる
ヘビクイワシという和名は、ヘビを食べる習性に由来しているが、ヘビが主食というわけではない。
ヘビも食べるが、実際に良く食べているのは昆虫やクモ、ネズミなの小型哺乳類だ。他にも鳥や卵、トカゲ、カエルなどを食べる。
ほかのタカの仲間は空から急降下し、鋭い爪で獲物をつかんで押さえ込むが、地上を歩くヘビクイワシの脚には鋭い爪がない。
その代わり、この美しく長い脚が最強の打撃の武器となる。
脚を振り上げ獲物の頭を叩き割る
昆虫などの小さな獲物ならくちばしでくわえて捕らえることができるが、相手がヘビなど大きくなってくるとこの美脚の出番だ。
ヘビクイワシは長い脚を高々と振り上げ、ヘビの頭めがけて全体重を叩きつける。
頭蓋骨は叩き割られ、ヘビは何が起きたのかもわからないまま絶命する。
コブラのような猛毒のヘビであっても、毒牙を突き立てる前に頭を叩き割ってしまえば、噛まれることはない。
その優雅な見た目からは想像もつかない蹴りの威力を、イギリスのロイヤル・ホロウェイ大学(ロンドン大学)などの研究チームが実際に計測した。
研究チームは、猛禽類保護施設で暮らすオスのヘビクイワシ「マデライン」に、ゴム製のヘビを蹴らせて力を測った。
マデラインが叩き出した蹴りの力は195ニュートンで、自分の体重のおよそ5倍にあたる。
獲物に足が触れている時間は、わずか15mm秒しかなかった。
人間がまばたきをするのにかかる時間は約150mm秒なので、その10分の1の速さで蹴り抜いている。
長い脚は、獲物の反撃から自分の体を遠ざけるとともに、体重の5倍の力で獲物の頭を叩き割るための武器なのだ。
ヘビクイワシの蹴りには、もう一つ厄介な事情がある。
15mm秒はあまりにも短いため、蹴っている途中で自分の脚の位置を感じ取り、軌道を直す余裕がまったくない。
ヘビクイワシは目で狙いを定めた瞬間に蹴りの動きをすべて決めてしまい、あとは計画どおりに脚を振り抜くしかない。
狙いが外れても途中で修正はできず、外したなら、もう一度蹴り直すことになる。
強く美しいが絶滅の危機にある
美しく、そして毒ヘビすら一撃で倒す強さを持つヘビクイワシだが、その未来は明るくない。
国際自然保護連合(IUCN)は2020年、ヘビクイワシの危機の評価を引き上げ、絶滅危惧種(EN)に指定した。
野生に残る個体数は6,700~67,000羽と推定されており、今も減り続けている。
ヘビクイワシを追い詰めているのは人間の活動だ。
人間が草原に木を植えたり農地や牧草地に変えたりすることで、狩りをする場所がどんどん狭くなっているのだ。
さらに人間による狩猟でも数を減らしていった。
他にも農薬に汚染された生き物を食べて中毒を起こしたり、飛んでいる途中で送電線にぶつかって命を落とすこともある。
南アフリカでは、20年間に94羽が送電線に衝突して死んだ記録が残されている。
そこに気候変動による干ばつが追い打ちをかけた。
サバンナを颯爽と歩き、毒ヘビの頭さえ一撃で叩き割るヘビクイワシ。この美しくも強いハンターが野生で生きていく姿を、この先も見続けられるとは限らないのだ。
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References: The fast and forceful kicking strike of the secretary bird: Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(15)01483-9]











