AIの急速な普及によって、ビジネスの現場でもその利用が半ば”常識”になりつつある昨今。
 上手く使いこなせば強力な武器になる一方で、使い方を誤れば取り返しのつかない事態にまで発展することもあります。


 今回は、多忙のあまりAIへの依存度が高まり、致命的な失敗を招いてしまった、あるコンサルタントのケースをご紹介します。

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入社5年目で発動された部署異動

「いつか自分でショップを経営したい。そのためのノウハウを吸収したくてこの仕事を選んだんです」

 そう語るのは、都内のコンサルティング会社に勤める山本さん(仮名・28歳)。入社して5年が経つといいます。

 入社以来、カフェやフードショップのオーナーがクライアントで、商材の選定からメニュー開発、店舗設計まで幅広く携わり、社内でも一定の評価を得ていたようです。

 ところがある時期を境に、社内での人員調整が入り、上司から医療施設のコンサル業務を任されるようになりました。機材の選定からスタッフの採用計画、行政への申請書類まで業務の範囲は多岐にわたり、飲食業よりはるかに厳格な資料の精度が求められます。

 医療業界特有の専門用語や法規制にも一から向き合わなければならず、これまでの仕事とはまるで別物だったといいます。

「毎日終電で帰って、翌朝は始発で出社する日々が続きました。それでも評価を上げたくて、自分を奮い立たせていたんですが……」

 充実感よりも消耗感が上回る日々でも、「ここで踏ん張れば次に繋がる」と言い聞かせ、歯を食いしばって業務をこなしていたとのことです。

心身ともに追い詰められた状態で舞い込んだ”太客”案件

 そんな中、直属の上司から「うちの太客の医療法人を担当してほしい」と告げられます。これまでに経験したことのない規模のクライアントで、プレッシャーは相当なものだったようです。「正直、あのとき初めて会社を辞めたいと思いました」と山本さんは当時を振り返ります。

「もしかしてAIにやらせました?」プレゼン準備をAIに任せていた男性の末路。「一目瞭然だった」資料に残されていた証拠とは
写真はイメージです(以下同)
 それでも気持ちを立て直し、睡眠時間を削りながら資料作成に没頭する日々。
文献を読み込み、他院の事例を調べ、体裁を整えたのは打ち合わせ前夜のことだったといいます。

 1週間後、いよいよ初回の打ち合わせに臨むことになった山本さん。広めの会議室にクライアントのメンバーがずらりと並ぶ中、山本さんはプロジェクターに映し出された資料を手際よく説明し始めます。緊張しながらも序盤はどうにか順調に進み、このまま乗り切れるかもしれない -そんな淡い期待の中、ハプニングが起こったといいます。

「それって、もしかしてAIに答えさせたんですか?」

 開始から10分ほどが経過したころ、クライアントの一人が手を挙げました。「すみません、解説文の最後のほうに”開院の手引き”とか”良い人材の集め方”みたいなタグが散見されるんですが、もしかして自分でやってないのでは。AIに答えさせたんですか?」

「もしかしてAIにやらせました?」プレゼン準備をAIに任せていた男性の末路。「一目瞭然だった」資料に残されていた証拠とは
会議、打合せをする若い日本人ビジネスマン
 半ば意識がもうろうとしていた山本さんは、その瞬間ハッと我に返りました。AIの生成文をそのままコピーアンドペーストしたために、自動で付加される”タグ”や”注釈”が資料のあちらこちらに残っていたのです。

 さらに施設名の欄には実在しない架空の名称が当てはめられ、文中には「ファクトチェック済み」という文言まで随所に散見される始末。AIが生成したテンプレートをほぼ素のまま提出したことは、もはや一目瞭然の状態でした。

 見かねた上司がすぐさまフォローに入り、「資料の差し替えができておりませんでした。骨子としては間違っていませんので、改めて正規の資料をお送りします」と場を取り繕ってくれたといいます。それでも「なんのためのコンサルなんですか」というクライアントの一言が、山本さんの胸に深く刺さったとのことです。


AI全盛だからこそ大切な”急がば回れ”のプロセス

 その一件以来、山本さんは糸が切れたようにしばらく休職したといいます。

 今回の失敗の背景には、心身の疲弊による判断力の低下があったことはたしかです。しかし同時に、AIの出力を”完成品”として扱い、確認作業を省いてしまったことも見逃せません。

 AIは膨大な情報を瞬時に整理してくれる強力なツールですが、その性質上、事実と異なる情報を自信満々に提示したり、文脈にそぐわない表現が紛れ込んだりすることが少なくありません。今回の”タグ”や「ファクトチェック済み」という記載は、まさにその典型例です。最終的な確認と責任は、あくまで人間の側に委ねられているのです。

 「今思えば、あのとき誰かに『少し休め』と言ってほしかったのかもしれません。AIは操作を誤ると、とんでもないことになることを痛感しました」

 と、山本さんは静かに語ってくれました。IT革命が進化する中、”急がば回れ”という言葉の大切さを身に染みて感じたようです。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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