大地震のあと、なぜ「前兆だった」と思うのか?地震雲・動物・ラドンを科学的に考える
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 2026年7月28日、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、最大震度7を観測した。

 大きな災害のあとには、「数日前に奇妙な雲を見た」「動物が落ち着かなかった」「ラドンや地磁気の数値が変化していた」といった話が注目されやすい。

 こうした現象を調べること自体は、決して非科学的ではない。だが、地震より前に何かが起きたことと、それが地震の前兆だったことは同じではない。

「地震の前に起きた」だけでは前兆にならない

 科学的な地震予知には、いつ、どこで、どの規模の地震が起きるかを、事前にある程度限定する必要がある。

 「近いうちに日本のどこかで地震がある」という予測なら、ほぼ必ず当たる。

 日本では震度1以上の地震が年間約2000回、平均すると1日約5回起きているからだ。震度4以上でも年間約50回発生している。

 したがって、ある異変の数日後に「どこかで地震が起きた」と対応づけるだけでは、その異変に予知能力があったとは言えない。

 何日以内か、震源から何km以内か、マグニチュードいくつ以上かを事前に決め、的中だけでなく、異変があったのに地震が起きなかった「空振り」と、異変なしに地震が起きた「見逃し」も数える必要がある。

 何をもって異変とするかの定義も重要だ。条件を地震後に広げれば、偶然の一致をいくらでも「的中」に変えられてしまう。

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「地震雲」は何を指すのか

 地震雲説の根本的な問題は、そもそも何を地震雲とするのか、共通した科学的定義がないことだ。

 細長い雲、放射状の雲、波打つ雲、虹色の雲など、その時々で印象的に見えた雲が地震雲と呼ばれる。

 だが雲は気流や地形、湿度、太陽光などによって多様な形や色を示し、飛行機雲も時間がたてば太く広がって見える。

 何を観測対象とするかが決まっていなければ、その存在を検証することもできない。

 雲の形、高度、継続時間、出現範囲、地震までの時間、震源との距離を事前に定め、地震が起きなかった日にも同じ基準で雲を記録する必要がある。

 気象庁も、地震が雲に影響する科学的メカニズムは説明されておらず、珍しい形の雲と地震という一定頻度で起こる二つの現象が、見かけ上結びつけられることがあるとしている。

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動物とラドンには研究例がある、しかし‥

 動物の異常行動は、地震雲よりも検証可能性のある仮説である。

 動物の中には、人間より微弱な振動、音、匂い、電気的変化に敏感な種がいる。

イタリアの農場で牛、羊、犬にセンサーを装着した研究では、一部の地震の1~20時間前に集団活動量が高まったと報告された[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/eth.13078]。

 ただし、これは限られた地域と動物群で得られた結果であり、別の研究者からは

 解析方法と予測性能への批判も出ている。さらに、動物が本震に固有の未知の前兆を感じたのか、人間には気づきにくい前震や微小な地動に反応しただけなのかを区別できない。

 2018年に180件の文献を検討したレビュー[https://www.sciencedaily.com/releases/2018/04/180417115641.htm]も、報告された行動異常の時空間分布が前震と重なる可能性を指摘している。

 仮に前震を感知できても、その小地震の後に必ず大地震が来るわけではない。

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 ラドンも同様である。

 地殻応力や岩盤の亀裂が、地下水や土壌ガス中のラドン移動に影響する可能性はあり、地震前の異常を報告した研究も存在する。

 しかし100本以上の論文を調べたレビュー[https://link.springer.com/article/10.1140/epjst/e2015-02395-9]では、長期観測ほど年間当たりの前兆報告数が少なく、地震と無関係なラドン異常も地震由来の異常とよく似ていることが示された。

 気圧、降雨、土壌水分、換気などの影響を除かず、単一地点の数値変化から全国の大地震を予測することはできない。

 K指数[https://ja.wikipedia.org/wiki/K%E6%8C%87%E6%95%B0]が地震予知との関連で取り上げられることもある。

 だが、K指数は本来、太陽風などに伴う地球磁場の乱れを表す地磁気活動の指標であり、地震の前兆を測るための指標ではない。

 K指数の変化と地震発生との間に、予知に利用できる科学的に確立した関係はない。

 科学的な測定値を用いていることと、その値から地震を予知できることは別問題である。

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災害のあとほど「意味」が見つかる

 大災害の後、人は「何か兆候はなかったのか」「事前に知ることはできなかったのか」と考える。

 それは不安な状況を理解し、次の危険を避けようとする自然な反応である。

 しかし地震後に記憶を振り返ると、普段なら忘れていた雲や動物の行動、数値の上下が特別な意味を持って見える。

 的中した予測は共有される一方、外れた予測は忘れられ、やがてなかったことになる。

 地震前の異常現象を研究する価値はある。

 だが、その可能性を検討することと、現在の観測から地震が予知できるとの期待は峻別しなければならない。

 不思議な雲や数値を見つけたときは、恐怖をあおる予測を拡散するより、まず定義、期間、地域、規模、空振りと見逃しが示されているかを確認したい。

 現時点で最も確かな防災は、前兆を見抜くことではなく、地震は予告なく起こりうるものとして日頃から備えることである。

References: DOI: 10.1785/0120170313[https://www.researchgate.net/publication/324575662_Review_Can_Animals_Predict_Earthquakes] / DOI: 10.1140/epjst/e2015-02395-9[https://link.springer.com/article/10.1140/epjst/e2015-02395-9] / DOI: 10.1111/eth.13078 H.[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/eth.13078]

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