古代エジプト月の神トート。トキとヒヒの2種の動物で描かれた理由が明らかに
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 古代エジプトの月と知恵の神「トート」は、白い鳥、トキの姿が有名だが、銀白色の毛を持つヒヒの姿でも描かれてきた。

 他の神々がそれぞれ1種類の動物で表されるのに、トートだけが2種の動物を与えられた理由は、長年不明だった。

 英国のセント・アンドルーズ大学と米国のダートマス大学の研究チームは、トキの羽毛とヒヒの体毛が反射する光を測定した。

 すると、どちらも月の光と同じ色であることがわかった。トートを象徴する動物は、月と同じ色の体を持つことを基準に選ばれていたのだ。

 この研究成果は『Time and Mind[https://news.st-andrews.ac.uk/archive/moon-baboon-new-insight-into-the-mind-of-ancient-egyptians/]』誌(2026年7月14日付)に掲載された。

月の神トートだけが持つ、トキとヒヒという2つの姿

古代エジプトの人々は、知恵と書き文字と魔術、そして月をつかさどる神としてトートをまつっていた。

 古代エジプトの神々は、それぞれ決まった1種類の動物と結びついている。ハヤブサはホルス、ジャッカルはアヌビス、ネコはバステトという具合に、神と動物は1対1で対応する。

 ところがトートだけは、体が白い羽毛におおわれ、頭と首、そして翼の先が黒いアフリカクロトキという鳥と、銀白色の毛におおわれたマントヒヒの2種類の動物で表されてきた。

 トートがもともと担っていたのは、知恵と書き文字の役目だった。トートが月の神となったいきさつは、神話に伝えられている。

 空の女神ヌトは、太陽神ラーの怒りを買い、一年中子を産めないという呪いをかけられてしまった。

 ヌトを助けようとしたトートは、月をつかさどる神に賭けを挑んで勝ち、月が放つ光の一部を手に入れる。

 トートはその光を新しい日々に作り変えて1年に付け加え、ヌトは呪いの届かないその日々に子どもたちを産むことができた。

 月から光を勝ち取って暦を作り直したことで、トートは月をつかさどる神となった。

 なぜトートだけが、空を飛ぶ鳥と地上で暮らすサルという、姿も暮らしぶりもまるで違う2種の動物で表されていたのか。

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トール神がトキであり、ヒヒである理由

 アフリカクロトキがトートと結びついた理由については、これまでいくつかの説明が積み重ねられてきた。

 アフリカクロトキのくちばしは下向きに大きく湾曲していて、三日月の形によく似ている。

 羽毛の白と黒がはっきり分かれた模様も、満ち欠けする月と重ねられてきた。

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 いっぽうでマントヒヒについては、納得のいく答えが出なかった。

 マントヒヒは昼間に地上で活動するサルで、月とのつながりがまるで見当たらない。

 2024年、ようやくその糸口が見つかる。

 オーストラリアのマッコーリー大学のジュリアン・クーパー氏は、トートのエジプト語の名前が「白いもの、明るいもの」を意味する古い言葉にさかのぼることを突き止め、アフリカクロトキの白く輝く羽毛と月の光との結びつきを指摘したのだ。

 トートを表す動物を選ぶ基準は、形ではなく色だった可能性が出てきた。

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トキとヒヒ、どちらも体の光の反射が月の光と同じだった

 クーパー氏の研究を受け、英国のセント・アンドルーズ大学のキャサリン・ホバイター教授と、米国のダートマス大学のナサニエル・J・ドミニー氏の研究チームは、トキとヒヒの体の色を、分光法という方法で確かめることにした。

 分光法では、物が反射する光を波長ごとに分けて測り、どの色の光をどれだけ反射しているかをグラフとして記録できる。

 人が色から受ける印象は育った文化によって大きく変わってしまうが、分光法なら数値として比べられる。

 研究チームは、古代エジプト人が実際に目にすることのできた2種類のヒヒであるマントヒヒとアヌビスヒヒ、そしてアフリカクロトキを対象に、体毛と羽毛が反射する光を測定し、月の光と照らし合わせた。

 その結果、マントヒヒの黒と白が細かく混じり合った毛と、アフリカクロトキの羽毛は、月の光とまったく同じ色の光を反射していたことがわかった。

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古代エジプト人は月の光に似た色の動物をトートの象徴にした

 ホバイター教授は、古代エジプト人が2種類の動物を選んだ経緯について、次のように述べている。

古代エジプト人は少なくとも3種類のトキを知っていた。サルについてもヒヒ2種に加えて別の2種を知っていた。

だがトートの象徴として選ばれたのは、アフリカクロトキとマントヒヒだ。

 アフリカクロトキとマントヒヒは似ている点がほとんどないのに、体の色だけが月に似ていたのだ。

 ヒヒをうやまうだけでなく神にまで高めた文化は、世界を見渡しても古代エジプトのほかにおそらく存在しない。

 古代エジプト人の研究は、ピラミッドや墓に残された品々をもとに進められてきたが、世界をどう見ていたかまではなかなかつかめなかった。

 トートを表す動物が月と同じ色で選ばれていたという今回の発見は、古代エジプト人の世界の見方に触れる、数少ない手がかりとなった。

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References: Moon Baboon – new insight into the mind of ancient Egyptians | University of St Andrews news[https://news.st-andrews.ac.uk/archive/moon-baboon-new-insight-into-the-mind-of-ancient-egyptians/]

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