2021年、アメリカ・マサチューセッツ州ボストンの新居に引っ越してきた夫婦の前に、毎日のように1匹の白黒猫が姿を現すようになった。
猫は近所で餌をもらっているようなのに、なぜか夫婦の家から離れようとしない。
やがて近所の人から事情を聞いた夫婦は、その猫がなぜこの家に執着していたのかを知ることになる。
なんとこの猫は、以前この家に住んでいた住人が、置き去りにしていった元飼い猫だったのだ。
新居に毎日現れる謎の白黒猫
ロリさん夫妻がボストンにある新居へ引っ越して数週間が経ち、近所の人たちとも親しくなり始めたころのことだった。
もうひとり、いや1匹、ちょっと変わった「ご近所さん」が、新居の周辺に頻繁に姿を見せるようになった。
私たちは、外をうろついている白黒の猫に気づきました。たいてい木のあたりか、窓のプランターボックスにいたんです
ロリさんは猫を見かけると撫でてやり、それからいつもの生活に戻っていた。だが彼女の夫は、この猫は単に散歩しているだけではなさそうだと感じ始めた。
夫は、仕事へ出かける朝などにも、この子を頻繁に見かけるようになっていました。それに、ドアの外で鳴いている声も聞くようになったんです
以前の住人に置き去りにされた飼い猫だった
ロリさんが近所の人に猫のことを尋ねると、思いがけない事情が明らかになった。この猫は、以前この家に住んでいた住人が飼っていた猫だったのである。
ところがその住人は、引っ越す際に猫を連れて行かず、近所の人に餌を与えてくれるよう頼んで、そのまま残していったという。
近所の人は約束通り猫に餌を与えてくれていたが、それでも猫は、以前自分が暮らしていた家へ戻ってきていたのだ。
事情を知ったロリさんは、この猫を放っておけなくなった。
そこでロリさんは、裏庭のパティオに猫用のシェルターを設置し、体を暖められるようヒーターパッドも用意した。
さらに毎日、食事も与えるようになった。すると猫は、ほとんどその場所から離れなくなったそうだ。
そこでロリさんは猫を動物病院へ連れて行き、健康状態を確認するとともに、ワクチン接種や駆虫など必要な処置を受けさせた。
避妊手術については、すでに済んでいることが判明した。とはいえ、すぐにこの猫を室内に迎え入れることにはためらいがあった。
実はロリさんたちの家には、すでに愛猫のジャスパーと愛犬のシュガーが暮らしていた。この猫が彼らとうまくやっていけるかどうか、確信が持てなかったのだ。
それにロリさんは、この猫自身が家の中で暮らしたいと思っているのかどうかもよくわからなかったという。
外でとても満足そうにしていたので、室内飼いの家猫になるのは嫌なんじゃないかとも思ったんです
だがどうやら猫の方は、家の外に暖かい寝床を用意してもらっただけでは、満足できなかったらしい。
いつしか猫はガラス戸から室内を覗き込むようになり、ときには後ろ足で立ち上がって前足でガラスをすりすりする。
冬を前に暖房付きの寝床を用意
シェルターを用意してから約2か月後、ついにその日がやって来た。猫がドアを引っ掻いたとき、ロリさんはとうとう、猫を室内へ迎え入れることにしたのだ。
もちろん、いきなり先住のペットたちと一緒にしたわけではない。少しずつ慣らしていくため、最初は地下室で生活してもらったのだそうだ。
ロリさんはこの猫に「ルナ」という名前をつけた。ルナはやがて地下室から上の階へも出てくるようになり、少しずつ家族の生活に溶け込んでいった。
心配していた先住猫のジャスパー、先住犬のシュガーとの関係も良好だった。さらにロリさんの予想に反して、ルナは一度家に入ると、もう外へは出たがらなくなったという。
彼女は二度と外に出たがらなくなりました。とても幸せな家猫になって、ほかの子たちとも本当に仲良くしていました
今度はルナが家族を支える存在に
だが、その後の2年間で、家族には悲しい出来事が続いた。高齢だったジャスパーとシュガーが相次いで虹の橋へと旅立っていったのだ。
大切な家族を失ったロリさんたちにとって、その時そばにいてくれたルナの存在は、とても大きなものとなった。
最初は行き場を失ったルナを助けるつもりだったロリさんだが、いつしかその関係は一方通行ではなくなっていた。
結局、ルナが私を必要としていたのと同じくらい、私もルナを必要としていたんです
そうしてボストンで約2年間暮らした後、ロリさん夫妻はカリフォルニア州へ戻ることになった。もちろん、今度の引っ越しではルナも一緒だ。
夫妻はボストンから、明るく暖かいカリフォルニア州サンディエゴへ移った。ロリさんはそこで、地元の保護団体のボランティアとしての活動をはじめた。
家で猫たちと過ごしていないときは、San Diego Humane Society[https://sdhumane.org/]で保護犬の散歩をするボランティアをしているんです
2026年、この団体つながりで、ロリさんたちの家に新たな仲間が加わることになった。それが保護猫の「モモ」である。
モモは2017年、まだ子猫だったころに一度この団体からサンディエゴ州立大学(SDSU)の学生に引き取られ、学生たちと暮らしていた。
飼い主が引っ越すたびに新しいアパートへ移り、家族のもとへ帰省するときにも一緒について行き、にぎやかな「学生生活」を満喫していたという。
そんなモモが、縁あってロリさん夫妻の家に引き取られることになった。ルナとモモは出会った瞬間から意気投合…したわけではなかったらしい。
ロリさんによると、最初のころは2匹が遊んでいるのかケンカしているのか、わからないことも多かったそうだ。
彼らはまず、大好きな飼い主を「共有」することも、覚えなければならなかったという。
そんな微妙な距離感の2匹の日常を紹介しようと、ロリさんはInstagram[https://www.instagram.com/momoandlunatales/]のアカウントをつくり、動画を投稿するようになった。
突然の別れ
ところが2026年8月21日、突然の別れが訪れた。ロリさんはInstagram[https://www.instagram.com/p/DcR5DOzAX0f/]で、ルナが数日前に亡くなったことを明らかにした。死因は急性腎不全だったという。
5年前、ボストンの新居で、以前の住人に置き去りにされたルナを見つけました。どういうわけか彼女は私たちを見つけ、その日から家族になりました。
こんなにも一緒にいられる時間が短いとは、思ってもいませんでした
亡くなるほんの少し前、Instagramには健康診断でダイエットを言い渡されたルナ[https://www.instagram.com/p/DbcWj_EgZam/]の姿も投稿されていた。ロリさん自身、別れは突然だったと記している。
ルナが虹の橋へと旅立って行ってから、モモはルナが好んでいた場所で眠るようになったという。ロリさんは、そんなモモについてこう語る。
この優しい子には本当に救われているんです
5年前、以前暮らしていた家の外に置き去りにされ、それでも玄関の前から離れなかった1匹の猫。
あの日、ドアを引っかく音にロリさんが応えなければ、その後の5年間はまったく違ったものになっていたかもしれない。
ルナは私たちみんなの人生をより良いものにしてくれました。ボストンのあの家に引っ越したのが私たちで、本当によかったと思っています











