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よく朝まで飲んでいた若いころ、いつも最後にたどり着く24時間営業の酒場があった。そんなお店から目と鼻の先にもう一軒24時間営業の酒場があるのを知ったのは最近のことだ。

あの頃の自分には見えなかった、そして今はなぜか見えるようになったお店のこと。

渋谷になじみのある酒飲みならば、24時間営業の老舗酒場「山家(やまが)」にお世話になったことのある方は多いのではないだろうか。

まだ若かった20、30代のころは朝まで飲むことも珍しくなく、渋谷で飲んでいて最後にたどり着くのが山家だった。主に同様の境遇の若者たちがひしめいてかもしだす、朝方の雑多なグルーヴ感に満ちた店内で飲む惰性にも近い酒は、僕の青春の味のひとつと言えるだろう。

ところがそんな山家から目と鼻の先にもうひとつ「小倉山(おぐらやま)」という24時間営業の酒場があることを知ったのはごく近年だ。創業は昭和58(1983)年とのことで、当時からすでにあったはず。なのに若かりし僕らにはこの店が見えていなかったのだから、酒場とは不思議なものだ。

同エリア、同業態の店でありながら、山家とはまったく違う個性を持っているのが、これまた酒場のおもしろさ。具体的には、カウンター6席にテーブルが2席という小さな店内でしっぽりと、より静かに酒肴と向き合いたい人向けの店といった感じだろうか。

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名物のひとつ「和牛すじ煮込み」(税込600円)を初めて食べたときは驚いた。酒場の煮込みといえばみそか醤油味の濃厚こってり系が多いが、ここはほんのり甘みを効かせた上品なだしがベース。そこに上等の牛すじから旨味が溶けだして極上のスープになっている。

とろける肉厚な牛すじも食べごたえたっぷりで、その味が沁みた大根もたまらない。失礼ながら、24時間営業の酒場ということで少し油断していたら、想像をはるかに超える一品が出てきて、姿勢を正さずにはいられなかった。

焼鳥は1本220円からと激安ではないけれど、これまた驚きのうまさ。なにを食べても間違いないが、特に数量限定の「ハツモト」(280円)の、ぷりぷりの弾力とじゅわりとあふれる旨味には感動する。

「和牛カッパ旨塩炭火焼き」(680円)のカッパとは、牛ばら肉のなかでトモバラと呼ばれる部位のいちばん外側にある、すじ肉のことだそう。これをステーキ風の塩焼きにしてカリカリのにんにくが添えてあり、強い歯ごたえがあるぶん、噛みしめるほどに旨味があふれだすという、酒のつまみには最強の部位かもしれない。

「作りたてポテトサラダ」(550円)は確かにほんのりと温かく、絶妙な味付けとアクセントのりんごに癒される。「ハムカツ」(580円)の衣は僕の知るかぎり他のどんなハムカツよりも薄く、ゆえに極厚切りのハムの味わいがダイレクトに感じられる。「和牛自家製ソフトコンビーフ」(550円)は、珍しい自家製のコンビーフ。繊維感の残るほろほろの牛肉は適度に脂が落ち、高級な肉の珍味という風情でこれまたつまみにはこの上ない。

といった具合に、まだまだメニューはいくらでもあって、なにを頼んでもきちんとうまいんだろうなという安心感があるのが小倉山のすごいところだ。ちなみに僕はもっぱら「ホッピーセット」(580円)と「中」(300円)のおかわりばかりなのが申し訳ないくらい、日本酒も焼酎もこだわりの銘柄がずらりと並ぶ。


もうひとつおもしろいのが唐辛子の辛味を効かせた「ピリ辛」シリーズで、一度「ピリ辛酎ハイ」(420円)の、いちばん上の「5辛」に挑戦したことがあるが、ひと口めで若干むせたものの、辛いもの好きな僕的には美味しく飲み干せた。

酒場ライターの打ち合わせは仕事であろうと飲みながらなことも多く、先日も編集者さんら3人で小倉山を訪れた。この店で大さわぎをしているようなグループにはまだ出会ったことがないから、そういう場面にとてもありがたいし、日中の店の選択肢としてものすごく重宝する。飲みながらではあるけれど、一応仕事の話をしつつ、たまにかつて早朝に山家で酔いつぶれていた自分が頭のすみにちらついたりもする。そんなふうに、歳を重ねてより多層的になった街、酒場に思いをはせるのは、なんだか愉快だ。

パリッコ 渋谷「小倉山」の「和牛すじ煮込み」

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次回第53回は2026年8月6日(木)17時公開予定です。

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Credit: 文・イラスト=パリッコ

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