高市外交が手詰まり状態に陥っている。ジレンマは幾重にも重なっており、現状打開は容易でない。

 高市早苗首相は昨年11月、台湾有事を巡り「存立危機事態になり得る」と国会答弁した。それが事の始まりだった。
 「台湾有事」発言で悪化した日中関係に改善の兆しは見られない。中国だけでなくロシア、北朝鮮の3カ国が、足並みをそろえて対日圧力を強めている。
 ロシアのプーチン大統領は8月13日、北方領土の択捉島を初めて訪問。20日には北方領土周辺でミサイル演習を実施し、実効支配を誇示した。
 高市首相は「断じて容認できない」と反発したが、ロシア産エネルギーの調達問題もあって、有効な対抗策を打ち出すには至っていない。
 これまでと違うのは、対日圧力を強める周辺3カ国に対して、日米が共同対処するという、かつてのような構図になっていないことだ。
 トランプ米政権は、国際刑事裁判所(ICC)を目の敵にして公然と組織の解体を主張し、赤根智子所長に制裁を科した。
 この問題が深刻なのは、日米が共有していた「法の支配」という理念が、両政権の間で共有されなくなったことだ。
 トランプ氏は米紙のインタビューで「私には国際法は必要ない」と公然と語った。実際、ベネズエラに対して軍事作戦を敢行し、イスラエルと共にイランを先制攻撃した。

■    ■
 日本の外交政策の基本は「自由で開かれたインド太平洋」の言葉に象徴されるが、その柱になっているのが「法の支配」という国際規範である。
 ところが、米国とロシアは、公然と「力による現状変更」を試み、中国もその姿勢を崩していない。
 高市首相は、イランへの米国の攻撃について「法的評価は差し控える」と答弁するなど批判を避けた。
 赤根所長への制裁についても当初、「大変残念」というコメントにとどまり、身内の自民党の中からも弱腰だと批判された。
 トランプ政権との理念の隔たりが表面化した以上、トランプ氏にこびを売るような外交を続けるべきではない。
 今月予定される国連総会演説で赤根所長に対する制裁撤回を求めるとともに、「法の支配」の重要性を改めて発信すべきである。
■    ■
 重要な外交日程が続く今月から12月にかけて、高市外交は正念場を迎える。
 トランプ氏は、米中首脳会談だけでなく、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との首脳会談にも前向きだ。
 「対話は常にオープン」と待ちの姿勢に徹するだけでは、事態は何も変わらない。高市氏には、自ら指示して中国との関係改善を具体的に進めることを強く求めたい。
 11月に中国で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、またとない機会である。
編集部おすすめ