■なぜ、ビジネスシーンで「ポロシャツ」なのか? 都内と地方の“オフィスカジュアル格差”も
夏前から本格的な暑さを感じることも増え、ビジネスウェアの快適化・軽装化が進む昨今。自由度が高まるほどに、「何を着たらいいのか分からない」と悩む人も少なくない。そうした中で、「洋服の青山」はビジネスウェアの専門店として、6年前にビズポロ(ビジネス用ポロシャツ)を展開。洗濯ができてシワになりにくい、速乾性やストレッチ性といった機能を備えながら、清潔感とリラックス感を両立するアイテムとして需要を伸ばし続けている。
担当者に詳しく話を聞くと、コロナ禍以降のウェアリングの多様化や酷暑の影響により、ポロシャツの需要は年々拡大している。実際、洋服の青山ではビズポロの売上が発売から6年間で約3.5倍に伸長。売れ行きのピーク時期にも変化が現れており、かつては6月頃が中心だった需要が、今年は早期投入の影響もあって3月頃から動き始めた。さらに7月以降まで需要の山が続くなど、夏の長期化を背景に、ポロシャツは「長く売れる定番アイテム」へと変化しつつあるという。
実際、同社では4月から例年を上回る売上推移を記録しており、クールビズの象徴だった“ノーネクタイ”からさらに進み、「ポロシャツやTシャツが夏場の主役、またはメインになる」という流れが現実のものになってきている。
しかしながら、担当者は「東京は軽装化が進んでいても、地方はまだ……」とオフィスカジュアルのリアルな格差を切り出す。ポロシャツをはじめ、都心ではビジネス向けTシャツが定着しつつあるが、地方では「Tシャツで仕事をする人はほぼ見かけない」のが実情なのだ。同社が拠点を置く広島などでもその肌感は強く、担当者は地方出張の際のエピソードを交えて、「宮崎県では、役所でポロシャツがOKになったことでようやく周りが動き出した」と語っている。特に、対人マナーを気にする若い世代ほど、“周りの先輩や取引先に悪い印象を与えたくない、悪目立ちしたくない”という無難思考・守りの姿勢が強いもの。誰かがチャレンジしないと、動けない風潮があるようだ。
Tシャツにはまだ踏み切れないけれど、涼しく楽に着たい層にとって、ポロシャツは救世主的な存在だ。やはり、襟が付いていることで得られる安心感はかなり大きいようで、“シャツの延長線上で着られるきちんと感”こそビジネスの場を乗り切る最強のセーフティネットとなっている。つまり多くの人が求めているのは、単なる涼しさではなく「失礼にならない範囲で快適に過ごせる服」なのだ。
■“ファッション警察”に狙われないための「品格」と着こなし シャツイン・アウト問題は?
通常のクルーネックTシャツと比べ、襟があるポロシャツは“一枚で着ても様になる”という点で重宝されていると担当者は話す。ビジネスシーンだけでなくファッションアイテムとしても支持を広げているが、一方で「ポロシャツはダサい」「おじさんっぽい」といったネガティブな声も存在する。
では、だらしなく見えてしまう原因はどこにあるのか。
ここで知っておきたいのは、ポロシャツにも用途ごとの設計の違いがあるということ。例えばゴルフなどで着用するスポーツ用は、イン前提のため着丈が長い。「これを裾出しで着るからだらしなく見えてしまう」と担当者は解説する。ポロシャツはどれも同じように見えて、実は用途によって設計思想が大きく異なるのだ。
その中で、ビジネス用ポロシャツは「シャツとして成立させる」ことを前提に作られている点が特徴だ。例えば洋服の青山が展開するビジネスポロシャツでは、カジュアルになりすぎないシャツ設計が意識されている。その最大の特徴は、台襟(だいえり)だ。スポーツ用やカジュアル向けのポロシャツは襟が寝やすい一方、同社のビズポロ別パーツの台襟を付けることで襟がしっかり立ち上がり、ジャケットを羽織った際にもワイシャツに近い印象になる。ネクタイをしても違和感がないレベルの品格を意識した設計だ。
また、袖まわりにも明確な違いがある。
これを踏まえた上で、「おじさん見え」や「だらしない」を防ぐにはどうすればいいのか。
まずポイントとなるのが裾をインするか、アウトにするかという点だ。ビジネス用ポロシャツは裾を出して着てもバランスが取れるよう設計されているが、基本はアウトで着用するのがスマートだという。
さらに体型に合わせた選び方も重要だ。ストレッチ性のあるニット素材は体にフィットしやすいが、ぽっこりお腹が気になる場合はあえてワンサイズ上を選ぶことで、ラインを拾いすぎず、程よいゆとりと清潔感を両立できる。
カラーはネイビーやブラックなどの濃色系が依然として主流。一方で近年はデザイン以上に機能性への要求が高まっており、洗える、シワになりにくいといった定番機能に加え、接触冷感や吸汗速乾、消臭など、酷暑を快適に乗り切るための性能が重視されている。
ポロシャツは一見シンプルなアイテムだが、その背景には「どう見られるか」を前提にした設計思想がある。だらしなく見えるか、品よく見えるか。
■“軍服”がルーツのメンズスーツ 軽装化が進んでも変わらない「品格」
ポロシャツ人気は、ビジネスシーンだけにとどまらない。購買データによると、実は販売数の半分近くが「普段着」として購入されているという。もともとはビジネスウェアとして開発された商品だが、一度そのシルエットや着心地を気に入った人が、色違いで何枚もまとめ買いしていくケースも少なくない。
背景にあるのは、「オン・オフ兼用」という圧倒的なコストパフォーマンスだ。ファッション消費が厳しくなる中、仕事にも休日にも使える一着という価値は、以前にも増して大きくなっている。ビジネスウェアと普段着の境界線が薄れた今の時代を象徴する存在と言えるだろう。
しかし、そもそもなぜビジネスウェアはここまで自由になったのだろうか。
メンズウェアのルーツは軍服にあると言われる。規律や統一感を重視して発展してきたため、スーツの基本形は長い間ほとんど変わらなかった。一方で近年は、Tシャツやポロシャツ、さらにはハーフパンツまでビジネスウェアとして議論されるようになり、担当者も「メンズの軽装化はいよいよ行き着くところまで来ている」と語っている。
対照的なのがレディースウェアだ。
こうした自由化が進む一方で、変わらない考え方としては「おしゃれ」と「身だしなみ」はまったく別物だということだ。
「大切なのは、“おしゃれ”と“身だしなみ”の区別。前者は、自分の好きなように着る=自己満足的なところがあります。一方で後者は、相手への敬意・TPOを考えなければいけない。テレワークなど、誰とも会わない日は好きな格好をすれば良いですが、打ち合わせなんかで人と会う日は“自分中心ではなく、相手中心/相手ありきで考える”必要があるのではないでしょうか」
自由になればなるほど、「何を着れば失礼にならないのか」という新たな悩みも生まれる。スーツ一択だった時代には存在しなかった迷いだ。だからこそ、ポロシャツは単なる軽装ではなく、「快適さ」と「きちんと感」を両立する選択肢として支持を集めているのだろう。
メンズウェアは長い間、軍服をルーツに"型"を守り続けてきた。しかし軽装化が進み、服装の選択肢が増えた今、本当に問われるのは、どんな服を着るかではなく、その装いが相手にどう受け取られるかということなのかもしれない。形や素材は変わっても、相手への敬意というビジネスウェアの本質は変わらない。
(文/黒川すい)
【商品第一部 メンズ重衣料企画グループ長 村上智彦】
複数の業態で商品企画業務を経験後、2020年に「洋服の青山」のビジカジアイテム担当バイヤーとして着任。現在はビジネスカジュアル~服飾雑貨まで幅広いアイテムの商品企画を務める。
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