※保坂隆『70代でも元気に歩ける ゆるウォーキングのコツ』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■ウォーキングは立派な運動
「ランニングは立派な運動だけど、ウォーキングくらいじゃ、とても運動とは言えないね」なんて思い込んでいませんか。
しかし、実際にはウォーキングも立派な運動です。ランニングに匹敵する、いや場合によっては、ランニングを凌(しの)ぐほど優れた有酸素運動だと私は思います。
有酸素運動というのは、身体に軽~中程度の負荷を長時間かけ続ける運動です。
体内に取り込まれた大量の酸素で脂肪が燃焼するため、“有酸素”運動と呼ぶわけです。
脂肪を効率的に燃焼させられるので、ダイエットや血圧を下げるといった効果に注目が集まりがちでした。でも、最近は酸素を大量に取り込むことが脳の活性化につながることから、脳の機能や認知レベルの低下が心配なシニア層から熱い視線が注がれています。
有酸素運動にはランニングや水泳、サイクリング、ストレッチなどもありますが、最も手間がかからず簡単にはじめられる点で、ウォーキングに勝るものはないでしょう。
しかも、簡単にはじめられるのに、反応速度や記憶力の向上という大きな効果が認められているのです。
と、ここまで話しても、「ランニングの方がウォーキングよりいいはず」という強い思い込みを捨てられない人もいるでしょう。
たしかに、ランニングの方が優れている部分もあります。特にカロリー消費量については圧倒的に有利です。仮に、体重70キロの人が時速10キロ程度のゆっくりしたペースで30分ランニングをすると、約350キロカロリーを消費できます。
■ウォーキングはケガのリスクが最も低い
一方、30分間ウォーキングをした場合は150キロカロリーの消費です。
このことから「ランニングの方がダイエットに効果的」と考える人が多いようですが、絶えずケガのリスクがつきまといます。
アメリカでは、定期的にランニングを楽しんでいる人の多くが何かのケガをしているそうですし、週に1回ペースでも、疲労骨折や関節症のリスクが高くなるのがわかったそうです。
ウォーキングはランニングよりも運動量が少ないので、ランニングと同じ効果を得るには回数と距離を増やさなければなりません。しかし、回数と距離を2倍に増やしたとしても、ケガのリスクはほとんど増えないばかりか、「ウォーキングはすべての運動のなかでケガをする可能性が最も低い」という調査もあります。
また、糖尿病や高コレステロール、高血圧のリスクをランニングとほぼ同じくらいに下げられることも報告されています。
■ウォーキングで約6~7割のうつ病が寛解
さらに、50歳以上のかなり重いうつ病の人たちを、(A)毎日45分の有酸素運動をしてもらうグループ、(B)抗うつ薬だけを処方するグループ、(C)毎日45分の有酸素運動と抗うつ薬を投与するグループの3つに分けて、4カ月間過ごしてもらいました。
その結果すべてのグループでうつ状態が軽くなり、(A)グループの60%、(B)グループの66%、(C)グループの69%の人たちが寛解(かんかい)(完治とまでは言えないが、病状が治まった状態)になったそうです。
つまり、有酸素運動には処方薬と同じくらいの抗うつ作用が見られるのです。
ちなみに、「週に3回ほど、毎回30分ほど中程度の運動をするだけで、不安やうつが軽くなる。また、このくらいの運動を続けると、気分や自尊心も向上させられる」という、うれしい研究結果もあります。中程度の運動といえば、ちょうどウォーキングレベルの強さですから、ウォーキングには心身を健全に保つ素晴らしい効果があるわけです。
■ウォーキングは瞑想と同じ状態
60代というのは、自身の定年退職や親族・知人などの急逝、子供の独立などという大きなストレスにさらされやすい年代です。その結果、気分が落ち込む人がたくさんいます。
ウォーキングだけで、こうした状態から脱(ぬ)けられるというのですから、ぜひ試してみてほしいと思います。
ウォーキングでゆっくり歩きをしているときには、心身ともにリラックスしているのを感じることでしょう。
あれこれ難しいことを考えず、目に映る景色をぼんやりと眺めている……。実はこれは、「瞑想」をしているのと同じ状態なのです。
さて、あなたは「瞑想」という言葉からどんなイメージを受けるでしょうか。
もしかすると、修行僧が目を閉じて座禅を組んでいる姿かもしれませんし、怪しい宗教を思い浮かべる人もいるかもしれません。
でも実は、ゆっくり呼吸しながら空を見上げたり、遠くの山や道ばたの花などを眺めて歩くゆるウォーキングをすると、誰でも自然に瞑想ができるのです。
■ビル・ゲイツやジョブズも瞑想
瞑想というのは、心を鎮める素晴らしい体験と思われています。
また、科学的な解明が進むにしたがって、瞑想は人の心を鎮めるだけではなく、ストレスを軽くして仕事の能率を上げたり、感情をコントロールするために大きな効果があるとわかってきました。
さらに、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズといったビジネス界のトップリーダーたちが瞑想を利用してイマジネーションやアイデアを得ていたことがわかり、科学的な根拠に裏打ちされた新しい瞑想ブームがアメリカで巻き起こりました。
そしてそれが、日本にも受け入れられるようになりました。
しかも最新の研究で、重い病気にも瞑想がとても効果があるとわかってきて、医療の治療法として取り入れるところが増えてきています。実は私も、アメリカへ留学していたときに、がんの瞑想治療を研究したことがあります。当時、私は「瞑想はすごい」と感じました。そのときに感じた可能性が、20年以上たってようやく日本でも大きく開花しはじめているのを実感しています。
■瞑想+ウォーキングでリフレッシュ効果
以前は「難しそう」「なんとなく宗教臭い」と思われがちだった瞑想に、こんな治癒やリフレッシュ効果があるのですから、利用しないのは実にもったいない話ですね。
私は、瞑想というのは難しいものではなく、もっと身近でシンプルに実践できるものだと考えています。そこで、ウォーキングに瞑想を合体させることを提案しているわけです。
では、この瞑想と合体したウォーキングには、どんな効果があるのでしょうか。
まず、あなたが普段使っている机の上を思い出してください。家事や仕事をしていると、どんどん余計なものやゴミが机の上に溜まってきますね。このままの状態で家事や仕事を続けていると、必要なものを探す時間ばかりが増え、とにかく非効率です。
そんなとき、家事や仕事をいったん中断して机の上をきれいにすると、気分がスッキリして仕事の効率もアップしませんか。
実は、脳の中でもこれと同じことが起きています。つまり、日々生活していると、いろいろなものが頭の中に溜まっていきます。理由もないのに、なんとなくうっとうしい気分になったり、心が沈み込むときがあることでしょう。それはこのように頭の中に溜まるものの影響で、思考がスムーズにいかなくなって起きることが多いようです。
■ゆるウォーキングで十分
このように「頭の中に溜まったものをすっきり掃除してくれるのが瞑想」と考えればわかりやすいのではないでしょうか。「宗教臭い」という抵抗感も消えて、気軽に瞑想をはじめられるでしょう。
ただ、日本人は真面目すぎる傾向があります。だから、「瞑想は心身にとても良い影響を与えますので、やりましょう!」とおすすめすると、いきなり座禅を組みはじめたりします。
もちろんそれでもいいのですが、もっと簡単にはじめる方法があることも知ってほしいと思います。その方法こそゆるウォーキングなのです。
瞑想といっても、いきなり無念無想を追い求める必要なんてありません。それでは「ゆる」ではなくなりますね。
前にも話した通り、ぼんやりと景色に目を向けながらゆっくり歩くだけで瞑想はすでにできているのです。どうですか? 簡単でしょう?
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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)

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