※本稿は、小林義昭『「やること多すぎ世代」の快眠図鑑 忙しくても“自然と眠れる”ルーティン50』(小学館クリエイティブ)の一部を再編集したものです
■睡眠を「ためる」ことはできない
× 寝だめして平日をなんとか乗り切ろうとする
◯ 睡眠はあらかじめ貯金できない
明日からの仕事が忙しくなることがわかっているとき、「きっと睡眠不足になるから、日曜日の今日はあらかじめたっぷり寝ておこう」と考えている人はいませんか。たいへん残念なお知らせですが、睡眠はあらかじめためておくことができません。睡眠が十分に満たされた場合、人はそれ以上眠ることができないのです。
その一方で、日々の睡眠不足は「睡眠負債」として少しずつたまっていきます。睡眠は、貯金はできないけど借金はたまる、というちょっと理不尽な性質をもっているのです。 「でも、私は週末になると一日12時間以上寝ることで一週間を回している」という人がいるかもしれません。それは寝だめではなく、たまっていた睡眠負債を返済しているだけです。
睡眠研究の世界的権威である米スタンフォード大学の西野精治教授は、かつて8人の健康な人に毎日14時間ベッドにいて好きなだけ眠ってもらう実験をしたことがありました。その結果、最初の2日はみんな13時間眠ったのですが、しだいに睡眠時間が少なくなり、3週間後には平均8.2時間に落ち着いたとのこと(※1)。これが、被験者たちが必要としている睡眠時間なのです。
■「睡眠負債の返済」には意外と時間がかかる
この実験以前の被験者たちは、1日の睡眠時間が平均7.5時間だったので、日頃0.7時間(42分)ずつ睡眠負債をためていたことになります。
以上の研究からも、「休日に寝だめしている」という人は、単にたまった睡眠負債を返済しているだけだということがわかるでしょう。休日には平日よりも2時間以上眠っているという人は、恒常的に睡眠負債がたまっているということを自覚してください。
ちなみに、休日と平日で大幅に睡眠時間が異なると、自然な睡眠と覚醒の周期である概日リズム(サーカディアンリズム)が乱れます。概日リズムは、バイタルサインでもある体温、血圧、心拍のほか睡眠やホルモン分泌、免疫や代謝など、私達の身体機能の大部分を司るとても重要な役割を果たします。休日の寝だめはその概日リズムを乱し、昼間でも眠気で頭がボーっとする「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」の状態に陥りやすくさせるという点にも注意が必要です。
■無意識に眠ってしまう「マイクロスリープ」
睡眠負債がたまることの弊害は多岐にわたります。第一に、昼間のパフォーマンスが上がりません。経済産業省が発表した『企業の「健康経営」ガイドブック』によると、睡眠休養不足による経済的損失は1人当たり年間平均で32万8644円になるとされ、これは飲酒や運動不足による損失よりも高い金額となりました(※2)。
また、肥満や糖尿病、生活習慣病など、さまざまな病気のリスクを高めることも報告されています。
さらに、睡眠負債が積み重なると、日中にもかかわらず数秒~10秒程度のごく短い時間、無意識に眠ってしまう「マイクロスリープ」という症状が現れることもあります。例えば、運転中にこのマイクロスリープが起きた場合には、自分や他人の命にかかわる危険にさらされることになります。
そんな恐ろしい睡眠負債ですが、日本は世界でも最悪の睡眠負債大国といわれています。2021年のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、調査対象にした33カ国のうち一日の平均睡眠時間で、日本は最も短い7時間22分でした(※3)。これはなんと、全33カ国の平均より1時間6分も短く、その大部分が睡眠負債として蓄積されているものと考えられています。ちなみに、労働時間が長いことで知られる韓国でも7時間51分と日本より29分睡眠時間が多いのが現状です。
さらに、企業で就業している20代~60代に対象を絞ると、平均睡眠時間が6時間27分とする調査もあり(※4)、いかに日本の働き世代の睡眠が足りていないかがわかります。
〈今日から試そう〉
・睡眠は貯金できないと知ったうえで、生活リズムを見直す
・休日の寝だめで睡眠負債を返済するのではなく、平日から負債をためないようにする
■「8時間」寝なくてもいい
× 毎日8時間は寝なきゃいけない
◯ 自分にとって最適な睡眠時間を知ろう
「理想の睡眠時間は8時間」といわれますが、最適な睡眠時間には個人差があります。そんななか、6時間未満の睡眠時間は全死亡リスクを約12%増加させるという恐ろしい調査も存在します。
一方、いつも長く寝ている人も、健康上になんらかの問題を抱えているために長時間睡眠になっているおそれがあります。特に長時間寝ても疲れがとれない人は睡眠時無呼吸症候群の可能性があるため、睡眠外来などに相談するのが望ましいでしょう。
「8時間睡眠説」のほか、「睡眠は90分周期なので90の倍数の時間で起きるとよい」という「睡眠90分周期説」も真しやかに語られています。
■「22時~2時がゴールデンタイム」もあやしい
また、「22~2時までが睡眠のゴールデンタイム」といった説も耳にしますが、これも根拠は乏しいです。ただし、「睡眠のゴールデンタイム」自体はあるといわれていて、それは入眠後に訪れる睡眠周期の最初の1サイクルが終了するまでの間です。この最初の1サイクルではノンレム睡眠のステージ・N3が長く続きます。
N3の睡眠時には、疲労回復や細胞の修復、筋肉や骨の成長、免疫力の強化などの役割を果たす成長ホルモンの分泌が活発になるのです。この最初の1サイクルの途中で睡眠が妨げられるようなことがあると、その後の睡眠周期も乱れ、質の悪い睡眠となって覚醒後も眠気や倦怠感が続くといわれています。
〈今日から試そう〉
・毎日9時間以上寝ている場合は睡眠外来を受診する
・入眠直後の睡眠を妨げられないようにする
・質のよい睡眠をとるために本書の第1章以降を読む
■ほとんどの人は「自称ショートスリーパー」
× 自分はショートスリーパーだから大丈夫
◯ ショートスリーパーのほとんどはただの睡眠不足
ナポレオンにエジソンにダ・ヴィンチ……歴史上には1日に3~4時間しか寝ない「ショートスリーパー」といわれる人がいます。現代でも、「自分は3時間しか寝なくても大丈夫!」と口にしている人が散見されます。さきほども述べたように、最適な睡眠時間には個人差があり、一般的に目安とされる6~8時間の範囲から大きく外れた人もごくまれに存在するのは事実です。
しかし、ショートスリーパーに関する遺伝子の変異を特定した米カリフォルニア大学の研究によると、その発生率は10万人中わずか4人ということでした。
真のショートスリーパーは、6時間未満の睡眠でも毎朝自然に目が覚め、日中に眠気を感じることなく、仕事のパフォーマンスも落ちない、休日も平日と同様の短い睡眠で自然に目が覚める、などの特徴があります。また、子どもの頃から睡眠時間が短く、昼寝をしない、といった特徴もみられるようです。
真のショートスリーパーであるかは遺伝的特質で決まっているとされるので、努力でなれるものではありません。つまり、ほとんどの自称ショートスリーパーたちは、単に睡眠負債をため込み、パフォーマンス低下に気づいていないだけと考えられます。なお、前述の偉人たちも、じつは頻繁に昼寝をしていたといい、ナポレオンは馬上で居眠りをして落馬したという伝説もあります。
〈真のショートスリーパーかどうかがわかるチェックポイント 〉
・6時間未満の睡眠でも毎朝自然に目が覚める
・休日でも平日と同様、自然に早起きができる
・日中に眠気を感じたことがない
・仕事や学校での活動で行動力や想像力が低下しない
・小児期~若年期頃から睡眠時間が短い
〈今日から試そう〉
・チェックポイントでショートスリーパーかどうか確かめる
<参考文献>
※1 西野精治. スタンフォード式最高の睡眠. サンマーク出版; 2017.
※2 経済産業省. 企業の「健康経営」ガイドブック [Internet]. 経済産業省; 2016 [cited 2026 Mar 4]. Available from: https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf
※3 Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD). Time use across the world: Gender data portal [Internet]. OECD; 2021 [cited 2026 Mar 4]. Available from: https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.oecd.org%2Fgender%2Fdata%2FOECD_1564_TUSupdatePortal.xlsx
※4 NTT PARAVITA ねむりの応援団. 【調査レポート】働き世代の睡眠の実態とは? 80%が日本の平均睡眠時間に満たないことが明らかに [Internet]. [cited 2026 Mar 4]. Available from: https://nemuri-supporters.nttparavita.com/blog/sleep0037
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小林 義昭(こばやし・よしあき)
医療法人社団やまと日高見会理事長・こばやし内科クリニック院長
平成5年富山医科薬科大学医学部医学科卒業、新潟大学医学部大学院にて医学博士号を取得。新潟大学附属病院など県内の基幹病院にて内科・呼吸器内科の研鑽を積み、佐渡総合病院では平成14年に国内でいち早く睡眠時無呼吸外来を立ち上げた。平成24年、新潟大学医学部臨床准教授。平成28年、新潟市中央区に「こばやし内科クリニック」を開設。医療業の傍ら、在宅医療分野では令和元年「ご近所訪看リハビリステーション紫竹山」、介護事業分野では令和4年「ご近所ホーム山木戸」の運営を開始した。現在、睡眠時無呼吸症候群を中心とする睡眠医療において、日本有数の睡眠外来患者の診療実績を有する。
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(医療法人社団やまと日高見会理事長・こばやし内科クリニック院長 小林 義昭)

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