※本稿は、佐々木淳『科学的根拠+αで成果を出す 戦略的勉強法』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■「科学的に正しい」に注意すべき理由
近年は、「科学的に正しい」勉強法を数多く見かけるようになりました。しかし「科学的」という言葉には注意が必要です。その理由は、科学的な結果のほとんどは「特定の条件下」「特定の対象」に対して得られた結果だからです。
例えば、オックスフォード大学やハーバード大学、スタンフォード大学といった有名な大学の研究結果。それらの結果は確かに価値がありますが、文化や教育の背景が異なる日本人に、そのまま当てはまるとは限りません。実際、私自身が自衛隊で教育を行った際にも、それらがうまく当てはまらなかったエビデンスがありました。
また、心理学や教育分野では「再現性の危機」と呼ばれる問題が指摘されており、過去の有名研究の多くが再実験して同様の結果(統計的に有意な結果)にならなかったのです。
データに頼れないとなると自分の「手応え」を信じることになりますが、そこにも落とし穴があります。厄介なのが、「学習の錯覚」です。
2019年のハーバード大学の研究をはじめ、多くの実験で、「学べたと感じる方法」が「実際に成果が出る方法」とは限らないことが示されています。詳しくは本書でお話ししていますが、特に動画を見るだけ、講義を聞くだけの学習がこの典型です。
■「蛍光ペンで線を引く」に意味はあるのか
効率的な勉強やエビデンスのある勉強を取り入れている人も多いと思います。それが間違いではありません。しかし、正解だけを追い求めると、知らず知らずのうちに、先ほど述べたような効率性にブレーキをかけるNG行為などの失敗もやってしまいます。
私たちの記憶容量には限りがあります。そこで、大事なことを記憶するためには「覚えるべきもの」と「そうではないもの」を分ける必要があります。その際によく使われるのが、蛍光ペンなどで重要な部分に線などを引いて目立たせるハイライトではないでしょうか。
しかし、ハイライトについては、近年では誤解があり、「効果がない」「意味がない」と指摘しているものを見かけます。しかし、本当にハイライトは「意味がない」「効果がない」のでしょうか。もしそうだとしたら、なぜ多くの人が今でもハイライトを続けているのでしょうか。
勉強や読書のときなどにハイライトをする方がいると思います。最近の勉強法本では、「ハイライトは非効率」「科学的に効果が薄い」という主張を見かけるようになりました。
実際、2013年に発表されたダンロスキー教授らの調査・分析では、ハイライトを単独で用いた場合の効果は低いと指摘されています。この結果を根拠に、「ハイライトはダメ」と断言する本も少なくありません。
では「ハイライトの効果が低い」と主張する本は、どんな方法を使っているのでしょうか。
■「効果なし」を謳いながら、ハイライトする解説本
きっとハイライトとは異なる特別な方法を取り入れているに違いありません。私も興味本位で、それらの主張をしている方の本や記事を読みました。その結果、違和感しかなかったのです。なぜなら対案がないのです。それどころか、「ハイライトは効果がない」と主張する本が「ハイライト」を用い、重要な部分を太字にしていたり、囲み線が引かれていたり、見出しが強調されているのです。
なかには、ダンロスキー教授らの結果を紹介している著者自身が「実は私もハイライトをよくしています」と正直に書いているものもあります。
これらの著者の主張をまとめると「ハイライトは科学的に効果が低い、そこで、私はハイライトをする」となります。これは矛盾しています。画期的なことを述べようとして、空回りした結果です。
ハイライトに関する研究をもう少し丁寧に見ていきましょう。
ポンセら(2022)の分析では、学習者自身がハイライトする場合には小~中程度の記憶改善効果があり、教材側で要点を示したハイライト(提供シグナリング)は、記憶・理解ともに中程度の効果が確認されています。
つまり、「ハイライトの効果が低い」と一括りに断言することはできないのです。
■「覚える」には不向き、あくまでも復習のため
ここで問題になるのは、ハイライトを何のために使っているのかという点です。そもそもハイライトの目的は何でしょうか。線を引いたら覚えられるのでしょうか。そんなことはありません。本来ハイライトは、膨大な情報の中から重要な箇所、復習する場所を「選別」するために行う目印のはずです。
目印をつけることで、後で復習する際の「検索時間」が短縮でき、「あれもこれもブルドーザーのように片っ端から復習するのではなく、重要な部分に集中して復習ができる」のです。
しかし、いつの間にかハイライトの目的がすり替わっているのです。「線を引くこと」自体が「覚えるための行為」だと思い込まれてしまったのです。目的を理解していなかったら、成果が出るはずがありません。
ハイライトの「勘違いされた目的」に効果がないことは容易にわかります。それをデータで示したのがダンロスキーらです。つまり、ダンロスキーは「ハイライト」自体を否定したのではなく、線を引くことがゴールになりがちな「脳を使わないハイライト作業」では学習効果が出にくいと指摘したのです。
■ハイライトすると「記憶から消えやすい」
ではハイライトの目的はなんでしょうか?
脳のくせを考えると、ハイライトは記憶には適しません。むしろハイライトをすると、その内容が記憶から消えやすくなることが指摘されています。
だから脳のくせを逆手に取って、「覚えるため」ではなく、一旦「忘れるため」にハイライトを使うのです。
人間のワーキングメモリは非常に小さく、心理学者のコーワン(2010)の研究によると同時に保持できる情報は約3~5個程度しかありません。そのため文章を読みながら、意味を理解し、他の知識と関連づける作業を頭のなかだけで行うのは難しいのです。
例えば、何でも目だけで学習する人がいるとします。ノートを取らない姿が逆にかっこよく映る場合もありますが、多くの人にとっては効率的ではない玄人用の方法なのであまりお勧めできません。
玄人ではない私たちが効果的に結果を出すために、ハイライトを活用します。すなわち、重要な情報に印をつけ、「ここは後で見返せる」と知識を「一時的に脳の外にお預けする」のです。このように脳内の情報を一旦脳の外に保存して、脳の負担を軽減する行為を「認知的オフローディング」といいます。
■全体の5%程度に絞る、初読では線を引かない
モリソンら(2020)の研究でも、脳内の情報を外に預けることで短期的な課題において成績が向上することが示されています。ハイライトは、ワーキングメモリを空けて、効率的な勉強を図る手段なのです。
これまで述べたことをまとめて、実際にハイライトを効果的に使用する具体的な方法をお伝えしましょう。
①量を絞る
全体の5~10%、本当に必要なところだけに引く
②「あとでハイライト(あとハイ)」方式
初読では線を引かない。二読目でも「大事」と思ったところを選ぶ
③余白のメモを添える
関連付ける内容を余白に書き込む
④思い出すためのきっかけにつなげる
ハイライト部分から問題を作り、隠して答える
⑤間隔をあけて再テスト
翌日、数日後、1週間後と分散してチェックする
ちなみに、④はカーピックとブラント(2011)の研究でも、思い出す練習は、理解を深める効果があることが示されています。
■あくまでも“重要情報への目印”
なお、ハイライトには落とし穴もあります。
「どうせ線を引いてあるから、覚えなくていい」と思ってしまうと、知識は定着しません。
ハイライトも同様で、思い出すためのきっかけにつながらなければ、ただの塗り絵になって効果が得られません。そのため、ハイライトは後で復習するための印として活用するのです。
もうひとつ重要なのは量です。派手に塗りすぎると、何も目立たなくなります。ハイライトは、重要ポイントを探す手間を省く行為ですから適量にしましょう。
先述したように、目安は全体の5~10%。段落につき1文程度に絞ることで、ハイライトは「重要情報への目印」として機能します。
(引用文献・参考文献)
・学べたと感じる方法に関する実験
Deslauriers, L., McCarty, L. S., Miller, K., Callaghan, K., & Kestin, G. (2019). Measuring actual learning versus feeling of learning in response to being actively engaged in the classroom. Proceedings of the National Academy of Sciences, 116(39), 19251–19257.
・ハイライト(マーカー)の単独使用における限定的な効果
Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.
・学習者自身によるハイライトの改善効果(メタ分析)
Ponce, H. R., Mayer, R. E., & Méndez, E. E. (2022). Effects of learner generated highlighting and instructor-provided highlighting on learning from text: A meta-analysis. Educational Psychology Review, 34(2), 989–1024.
・ワーキングメモリの容量
Cowan, N. (2010). The magical mystery four: How is working memory capacity limited, and why? Current Directions in Psychological Science, 19(1), 51–57.
・認知的オフローディング(Cognitive Offloading)
Morrison, A. B., & Richmond, L. L. (2020). Offloading items from memory: Individual differences in cognitive offloading in a short-term memory task. Cognitive Research: Principles and Implications, 5, 1.
・思い出す練習による学習効果
Karpicke, J. D., & Blunt, J. R. (2011). Retrieval practice produces more learning than elaborative studying with concept mapping. Science, 331(6018), 772–775.
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佐々木 淳(ささき・じゅん)
下関市立大学教養教職機構准教授
1980年、宮城県仙台市生まれ。東京理科大学理学部第一部数学科卒業後、東北大学大学院理学研究科数学専攻博士前期課程・東北大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻博士課程後期修了。博士(教育学)。元防衛省海上自衛隊数学教官、元代々木ゼミナール数学科講師。大学在学時から早稲田アカデミーで指導経験を積む。その後、代々木ゼミナール数学科講師を経て海上自衛隊で数学教官として勤務。著書に『身近なアレを数学で説明してみる』(SBクリエイティブ)、『世界が面白くなる! 身の回りの数学』(あさ出版)など。
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(下関市立大学教養教職機構准教授 佐々木 淳)

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