※本稿は、弘兼憲史『「まだ働かなきゃダメなんですか?」60歳からでもバリバリできる仕事力』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。
■「嫌われる上司」の特徴
60歳を過ぎて、同じ会社で働こうと思ったときに「ああ、あの人まだこの会社にいるんだって。早く退職すればいいのに」と思われないようにするための努力を始めるのは、今からでも遅くはありません。
僕は高度成長の真っただ中の1970年に、松下電器産業に入りました。子どもの頃や学生時代に叱られたことはあっても、大したことはなかったのですが、入社すると仕事のやり方などでずいぶん叱られました。当時の松下電器は上司が部下に厳しいことで有名な会社だったので、3時間の説教などは当たり前でした。
僕たちは全共闘世代ですから概(おおむ)ね生意気で、大学の先生たちをつるし上げたこともありました。それが入社して規律の中に放り込まれると、いきなり怒鳴られ、人格を否定されるようになったのです。今まで怒られた経験がないので、会社の寮に帰ると、みんなが今日はこんなふうに怒られたという話になります。そして同期たちと、嫌われる上司はなぜ嫌われるのかを分析しました。
嫌われる上司とは、まず、自分中心で空気が読めない人。自慢話ばかりする人は、特に女性から嫌がられますので気をつけましょう。次に、部下の仕事の失敗をいつまでもしつこく蒸し返す人だと思います。
これは上司だけに限りませんが、お金に汚い人も嫌われます。例えば、飲みの席できっちり割り勘をする人や、元を取ろうと人より多くおつまみを食べたり、お酒を飲んだりする意地汚い人も嫌われます。
■仕事の評価は「人望」で決まる
長いサラリーマン人生を歩んでいると、人をうらやましいと思うこともあるのではないでしょうか。同期入社で学歴や見た目、これまでの実績という点で自分と大差ないはずなのに、なぜか会社でいつも人の中心にいて、気がついたら出世しているという人を目にしたことがあると思います。
人事の評価は、仕事の成果だけではありません。人望があるかどうかも重要なポイントです。
上司や部下に好かれるための大事な要素は、明るさといつも笑顔でいることだと思います。ソフトバンクグループ代表の孫正義さんは明るくて笑顔も可愛らしい方です。そして上の人に対して物おじせずに話をする。
そして60歳以上の人に職場で求められているのは、何といっても「経験」です。
「老人力がついてきた」という言葉は、老化というネガティブな思考をポジティブに変換する魔法のフレーズですが、実はその表現に、年配者の経験や知恵も含まれていると思います。
■「失敗談」こそ若い人に刺さる
僕は、人間とは補完し合う関係だと考えています。「若者と年配者」という関係も、足らないものを補い合うものになると思います。年配者は経験が豊富ですから、その経験を生かしてみましょう。若い人が困っているときは、自分の失敗談を交えながら優しく道を示してあげるといいでしょう。
失敗談というのは、成功談よりも、若い人の心に響くと思います。自分が成功したときの話は、自慢話に聞こえるのでタブーです。「自分はこういうことで失敗したから、違う方法がいいかも」と教えてあげるのは非常にいいことだと思います。
愚痴や不満は絶対に口にせず、めったに怒らない。さらに一緒の目線で話してくれる人は部下に好かれます。
『会長 島耕作』特別編で会長時代の島耕作が、「愚痴や不満は口にしない。そこからは何も生産的なものは生まれない」と言った話があります。これは島の性格を表しているセリフであり、僕自身が思っていることでもあります。
運が強い人というのは、努力の結果、運がついてくると思っています。どんな仕事でも嫌がらず、大変なことも率先して行っています。
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手は大成功を収めているのに、周りから一切妬(ねた)まれていない。それはなぜかというと、グラウンドのゴミ拾いやLAの山火事救済活動への寄付などを意図的ではなく、自然に行っているからです。人が見ていないところでも善行を働く。こうした行動が好かれないはずはありません。
その頑張りを神様は見ているから、どんどん運が強くなるのではないでしょうか。今からでも遅くはありません。ぜひあなたも大谷選手の姿勢を学んでください。
何事も、謙虚が一番なのです。
■「仕事が好きな人」はいつまでも若い
松下幸之助会長は「社会に奉仕しましょう。だから仕事を一生懸命しましょう。奉仕したらそのご褒美として報酬がもらえる。それが利益になります」という考えの持ち主でした。
最初から利益を得るために働くのではなく、奉仕すること、つまり社会の役に立つこと。松下電器産業でいえば、いい製品を世の中に出す。そしてそれが認められたら報酬としていただく。これが利益だと教えてくれました。
これは、どんな仕事においてもいえることだと思います。
あなたが退職した際に新しい仕事に就いたとしても、部下たちとの絆ができていれば、交流はこの先も続けることができるのではないでしょうか。
僕が知っている65歳以上で元気に活躍中の経営者の方々は、仕事が好きで忙しいことを楽しんでいらっしゃるように感じます。
僕も中小企業「ヒロカネプロダクション」のトップとして、生涯現役を目指しており、一緒に働くスタッフに対する責任感や、作品への期待に応えなければいけないと努力しています。そのおかげで、自分が今も日々成長しているなと感じられて、充実した楽しい毎日を過ごしています。
おそらく活躍中の経営者の方々も、自らが成長できていることを実感することで仕事が生きがいになり、充実感や幸福につながっているのではないかと思います。
人間はいくつになっても変わることができます。そして、成長することもできます。
■「老化」ではなく「成長」と捉える
以前、65歳を過ぎて社会では高齢者と分類される年齢になった頃、「自分は若いつもりなのに、おじいちゃんやシニアなどと呼ばれたくない」という同年齢の読者の方に「年を重ねるということは残念なことではなく、成長だと考えてみませんか」と提案したことがありました。
「抗えない現実を受け入れてポジティブに考えたほうがいい」という意味合いもありましたが、当時、人間の脳細胞は年をとっても増え続けているのではないかという学説が支持されていると知り、このときに成長という言葉を使ったのです。
最近、「スーパーエイジャー」という言葉を耳にするようになりました。80歳以上でもなお50~60代と同じくらいの認知機能を持つ高齢者のことです。彼らの多くは集中力が高く社交的で、人とのつながりを大切にし、地域社会で活躍しているといいます。
好きな仕事を続け、社会に貢献しながら人とのつながりを持つ。それこそがいつまでも若々しく、社会で活躍できる秘訣なのではないでしょうか。
■「老害」にならない人は素直に謝れる
きまじめでプライドが高く、思い込みも激しくて自分の成功体験に頼っている人は年を重ねると頑固になってきます。自分の考え方を変えると周りから優柔不断なやつだと思われるから、頑なに自分が言ったことを守ろうとします。
それを続けていたら、「老害」と言われて嫌われてしまうかもしれません。では、どうすればいいか。「以前はそう思ったけど考えを変えました。すみません」と素直に謝ったほうが、好感度はグンと上がります。
特に嫌がられていた人が実はいい人だったという場合は、普通のいい人より好感度が上がりやすいもの。ヤンキーがお年寄りや野良猫に優しくしているところを見て、「キュン」とするのと一緒です。
そういうことなので、人生後半は柔らか頭でいきましょう。徳川家康公の理念や理想の神髄として伝わる「東照公御遺訓」には、まさに僕の言いたいことが記されています。
人の一生は重荷(おもに)を負(をひ)て遠き
道をゆくが如し いそぐべからず
不自由を常とおもへば不足なし
こころに望(のぞみ)おこらば困窮(こんきゅう)したる
時を思ひ出(いだ)すべし 堪忍(かんにん)は無事(ぶじ)
長久(ちょうきゅう)の基(もとい) いかりは敵とおもへ
勝事(かつこと)ばかり知(しり)てまくる事を
しらざれば害其身(がい そのみ)にいたる
おのれを責(せめ)て人をせむるな
及ばざるは過(すぎ)たるよりまされり
「急がず、怒らず、不自由は当たり前と思って勝つことばかりを考えない。そして人を責めず、やりすぎるよりも足りないほうが優っている」
これを頭の隅においておけば、きっと心穏やかな一生を過ごせるのではないでしょうか。
■「論破」で得られるものはない
60歳以上になると、嫌われる人と好かれる人がはっきり分かれてきます。
嫌われる人の特徴は前述しましたが、「プライドが高い、思い込みが激しい、成功体験をひけらかす」、いわゆる頑固な人です。
成功体験やプライドが高いとやりがちなのが「論破」。最近は論破が流行っていますが、それをあえてしないことで長期的な利益が得られます。論破する人は他人を叩くことで気持ちよくなっているだけなので、周りから見ればただの「うざい人」になります。そうなってしまうと、人間関係もこじれてしまいます。
もっといえば、相手を追いつめるような質問もNG行動になります。政治家の記者会見などでも見られますが、相手を窮地に追い込んで言質を引き出そうとするやり方は、嫌われる原因のひとつです。自分が言われる立場ではなくても、見ていても気分のいいものではありません。
論破したがるのは男性に多いような気がしますが、それは、自分は頭がいいと勘違いして、ほかの人を下に見ており、自分の思うように動かしたいと思っている人が多いからではないでしょうか。
その場では言い負かして気分がいいかもしれませんが、論破しても相手とわだかまりを残してしまうことになってしまいますので、その後、関係修復が難しくなるでしょう。
たとえ筋の通った理屈で論破したとしても、一文の得にもなりません。
■「でも」「しかし」はなるべく避ける
論破することは相手のプライドを傷つけ、さらに激しい反発を生み、「みんなの前で恥をかかされた」とあなたのことを尊敬するどころか、嫌いになるのです。
ですから論破するというやり方よりも、共感力を身につけて、「なるほどね。ここをこうしたらもう少し効率がいいかもね」 「こうしたほうがきっと良くなると思うんだ」と、柔らかい言い方で、相手を傷つけないように少しだけ意見するように心がけましょう。そうすると相手も意見に反対されているとは思わないでしょう。
「それはやったらダメだよ」「でも」「しかし」のように否定をしてしまうと、人間関係がうまくいかなくなる可能性があります。
僕の場合、スタッフが失敗したときは「よくあることだよ。ドンマイ!」と声をかけるようにしています。するとその人も気が楽になり、「すみません」と言いやすくなります。
とある海外の著名人が「これをやると明日はもっと良くなる」のようなことをよく言っていますが、こういった言葉もいいと思います。人心を掌握するには、会話する相手と同じ目線で話をすることが一番です。上から目線で命令口調だと話を聞く気が失せます。
「負けるが勝ち」という言葉があります。自分のほうが正しいと主張したくても、そこはぐっと我慢してあえて譲ることで、得られるものがたくさんあるのです。
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弘兼 憲史(ひろかね・けんし)
漫画家
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。74年に漫画家デビュー。作品に『人間交差点』『課長 島耕作』『黄昏流星群』など。島耕作シリーズは「モーニング」にて現在『会長 島耕作』として連載中。2007年紫綬褒章を受章。
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(漫画家 弘兼 憲史)

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