※本稿は、弘兼憲史『「まだ働かなきゃダメなんですか?」60歳からでもバリバリできる仕事力』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。
■役職定年を「面白がる人」が勝つ
50代半ば。役職定年を迎え、さらに給与が数割カットされる。この現実に直面し、急激に意欲を失ってしまう現象、いわゆる「50代シンドローム」に悩む人が増えています。
これまでの会社人生が「登山」だったとすれば、役職定年は頂上を過ぎた「下山」のように感じられるかもしれません。企業によってはセカンドステージに向けての通称「たそがれ研修(キャリアデザイン研修)」を実施しているところもあります。
定年後再雇用を受ける人は、「ああ、たそがれ研修がきてしまった……。いよいよ自分も終わりか」と肩を落とす人もいるでしょう。しかし、ここが大きな分かれ道です。
『会長 島耕作』の作中で、島耕作が初めて日本経済連合会の会合に出たときに多治見六郎会長にガツンと言われるシーンがあります。普通なら気後れしてしまうと思うのですが、島は「今までとは違うアリーナに来た感じだ」と面白がっています。
このくらいの気持ちでいくとモチベーションも向上していくはずです。
平均年齢が高齢化している職場では、年齢が高くても利益を上げ続けられる人はニーズがあります。もし、その研修を受けた後で、どうしてもやる気が出ない場合は心機一転、新しい仕事をすることも視野に入れてみるのもいいかもしれません。
■小さな成功体験が意欲を戻す
ビジネス界で注目されている「ワークエンゲージメント」という概念。これは、仕事を通じて活力を得て、熱意を感じつつ、没頭することで高いパフォーマンスが発揮できる状態を指します。
厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」によれば、ワークエンゲージメントが高いと離職率が低く、生産性が高いことが証明されています。
さらに、内閣府の「高齢社会白書」によると60代の就業理由の多くは「生活の糧(金銭)」ですが、その次に多いのが「働くのはからだによいから、老化を防ぐから」です。つまり、50代で一度折れかけたモチベーションをどう再構築するかで、その後「若々しく過ごせるか」どうかが決まってくるのです。
モチベーションを上げるには、どうしたらいいでしょうか。それは「自己効力感」を高めることです。自己効力感とは大きな壁が立ちはだかったときに自分なら乗り越えられると認識することです。成功体験を積むこと、他者から褒められること、何事もポジティブに向き合うことで自己効力感を高められます。
成功体験を積もうと何度も失敗した場合、「努力しても報われない」と思うようになってしまうので、「料理ができるようになる」「毎日、腹筋を鍛える」などできるだけ達成できそうな目標からスタートするといいでしょう。
モチベーションを上げる環境をつくるのも手です。
■居場所を整え、次の仕事を考える
僕の場合は仕事場に行って机に座ると自分の居場所に来たと、気持ちが上がります。旅行から帰ってきて、自宅に戻ると「ああ、やっぱり家が落ち着く」と思うのと一緒です。
環境を整えて、居心地のいい空間をつくるとモチベーションも上がってくると思います。例えば好きな写真を飾ったり、好きなゴルファーのカレンダーを置いたりするのもいいかもしれません。
ただし、前向きになれないこともあると思います。そんなときは無理をせずに「ちょっと疲れているからしょうがない」と思って、自分を癒やしてあげましょう。早い人だと、40代後半くらいになると定年後の働き方を考え始める人もいらっしゃると思います。定年後の働き方は転職や再雇用、起業に独立、といった選択肢があります。
次の仕事を何にするか、それを考えたときに2通りあると思います。僕は二毛作と二期作と呼んでいます。
二期作は同じような仕事をすること。例えば今まで定年前の仕事が経理なら、会社が変わっても同じ仕事内容の経理を選ぶことをいい、二毛作は経理だったけど蕎麦屋さんになるといった、まったく違う仕事をするということです。
二毛作の場合は、新しい仕事になりますから、めぼしい人間に声かけをしておく。碁でいうと布石を打っておくということになります。二期作はお金を儲けるというよりは、手堅く稼ぎたいという人に合った仕事の仕方だと思います。
■「リタイア後のラーメン屋」はNG
二毛作の場合は、資格などを取得する必要があり、一から勉強しないといけないし、すぐに収入につながるわけではないので、お金に余裕がないとできません。
その代わり、大変ですが生きがいができるので面白い人生になるのではないでしょうか。定年がないので、年金をもらいながら長くできるのもいいところだと思います。
伊能忠敬は49歳で家業を隠居し、50歳で現在の千葉県の佐原から江戸に移り、天文学者の高橋至時に弟子入りし、55歳で日本全国を歩いて測量しました。江戸時代後期に活躍した浮世絵師の葛飾北斎も、90歳になるまで楽しく仕事をしていました。そして彼が残した最後の言葉は、「あと10年、いや5年の時間があれば、画業を極められるのに」とも伝えられています。北斎は僕にとって目標です。
どちらにしても定年前よりお金が儲かるということは考えずに、第二の人生を心置きなく楽しむというスタンスで臨みましょう。
ただし、ラーメンが好きでラーメン屋を始めたいという人はやめておいたほうがいいかもしれません。こだわりすぎてもダメですし、思いつきで始められるものでもありません。もしどうしてもしたいというならば、しっかりリサーチをしたほうがいいでしょう。
■ハローワークに行くだけでは不十分
総務省がまとめた日本の高齢者に関する統計では、令和7年の65歳以上の人口は3619万人。総人口に占める割合は過去最高となりました。また、令和6年の高齢者の就業率は65歳~69歳で53.6%、70~74歳は35.1%、75歳以上は12%と21年連続で前年を上回っており、今後も増加することが予想されます。
内閣府「令和6年度高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)」では、現在収入のある仕事をしている60歳以上の人のうち23.7%が「働けるうちはいつまでも」と答え、「70歳くらいまで」「75歳くらいまで」「80歳くらいまで」と回答した人と合わせれば、6割以上が65歳を超えても働きたいといいます。
定年後の仕事探しと聞いて、真っ先に「シルバー人材センター」や「ハローワーク」を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、もしあなたが「これまでのキャリアを生かしたい」あるいは「まったく新しい分野で一旗揚げたい」と願うなら、もう一歩踏み込んで自治体が開催するシニア向けの「合同企業説明会」や「キャリアアップセミナー」「創業支援講座」などに参加してみましょう。
実は最近の自治体は、シニアの起業支援にかなり本気です。
■「現役感」が得られる機会を作るべき
「今さら若い人たちと一緒に勉強なんて……」と気後れする必要はまったくありません。セミナーに参加する最大のメリットは、そこに集まる「人」にあります。
会社という限られた人間関係の中に30年以上もいると、どうしても思考が凝り固まってしまいます。自分とは全然違うバックグラウンドを持つ人、世代の違う人と机を並べることで、自分の中に眠っていた「現役感」が呼び覚まされるのです。
脳は使えば使うほどネットワークが強化されます。自治体のセミナーでも、地域の市民講座でもいいので、まずは一歩、踏み出してみてください。最近ではキャリア自立に向けての効果的な支援策などを紹介してくれるセミナーなどもあります。
研修後に具体的なキャリア選択や行動変容に結びつかず、「学んで終わり」となってしまう人でも有効な情報が手に入ると人気です。
最近ではシニアに特化した「合同企業説明会」を開催している地域もあり、シニア世代の新しい就職や社会参加の入り口として注目を集めています。通常の求人検索では一社ごとに調べて応募する必要がありますが、説明会では効率よく情報収集ができます。求人サイトやシルバー人材センターで仕事を探してもなかなか見つからないという人はそれに参加するのもおすすめです。
ほかにも就労支援やボランティアなどの紹介をするアクティブ・シニア応援窓口を設けている自治体もあり、田舎暮らしをしたい人はこれをきっかけに地方移住を考えてみるのもいいかもしれません。
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弘兼 憲史(ひろかね・けんし)
漫画家
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。74年に漫画家デビュー。作品に『人間交差点』『課長 島耕作』『黄昏流星群』など。島耕作シリーズは「モーニング」にて現在『会長 島耕作』として連載中。2007年紫綬褒章を受章。
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(漫画家 弘兼 憲史)

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