出生率は西日本が高く、東日本が低い傾向がある。一体なぜか。
京都大学地理学研究会第7代会長の重永瞬さんは「三世代世帯の割合や20~30代人口の男女比を見ると、ある仮説が浮かび上がってくる」という――。
※本稿は、重永瞬『新しい日本地理 地図・統計・移動から読み解く』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
■なぜ東西で出生率に差ができるのか
まず、2024年の都道府県別出生率を見てみよう(図表1)。
都道府県別の出生率が最も高いのは、沖縄県の1.54(2024年)である。跡継ぎとして男子を望む傾向が強いことや、米軍統治下において中絶や避妊が本土よりも普及しなかったことなどが沖縄県の高い出生率の理由として考えられている(*1)。
反対に、大都市圏では概して出生率が低い。住宅の狭さや保育所不足、未婚率の高さなど、さまざまな要因が背景にある。一般的に、大都市の若年女性は学業や仕事に追われ、結婚や子育てに時間を割く余裕が持ちづらい傾向にある。
出生率の地域差を見るとき、まず目立つのはこうした大都市圏と地方部の差である。しかし、人口減少率と同様、地方間の差も大きい。全体的に九州や中国地方など西日本では出生率が高く、東北や北海道など東日本では出生率が低い。特に、九州と東北は対照的である。
なぜこのような差が生まれるのだろうか。
■暖かい地域は「性におおらかだから」?
この疑問を抱く人は多いようで、しばしば、次のような説明がなされる。
「暖かい地域は性におおらかなので出生率が高い」

「九州は男尊女卑なので出生率が高い」
たしかに、現在の日本の出生率は気候と正の相関関係があり、南にいくほど高くなる傾向がある。沖縄県が出生率1位であることもよりその印象を強めている。
「性におおらか」や「男尊女卑」といった価値観については定量的に測ることは難しいが、以上のような説明が流布していることを考えると、どうもそれなりの数の人にとって納得感のあるロジックであるらしい。
しかし、本当にそうなのだろうか。過去に遡って考えてみよう。
■1930年の出生率分布は正反対だった
図表2は、1930年の都道府県別出生率を示したものである。
なんと、現在とは正反対の分布になっている。最も高いのは青森県(6.30)、最下位は大阪府(3.19)である。4.70という全国平均の高さも驚きだが、現在は1位であるはずの沖縄県が1930年時点では出生率3.69でワースト4位になっているのも目を疑う。
こうした戦前の状況を踏まえると、「暖かい地域は性におおらかなので出生率が高い」という、気候と出生率を直接結びつける説明はまったく的外れであることが分かる。
まさか、戦前は沖縄よりも東北のほうが暖かかったわけではあるまい。
■「男尊女卑だから」も理由にならない
また、「九州は男尊女卑なので出生率が高い」という説明についても疑問が残る。戦前は東北のほうが男尊女卑だったのだろうか。現在の出生率の分布だけを見た推論は信頼性に欠けるし、いわんやそこから「出生率を高めるためには男尊女卑もやむを得ない」といった主張をするのはあまりに乱暴である。そもそも「○○は男尊女卑な地域」という物言い自体、地域差別につながりかねない危うい主張である。
日本における出生率の分布は、戦前から現在に至るまで複雑な推移を見せており、簡単に説明できるものではない。人口学や社会学など多くの分野から研究がなされている現在でもなお、地域差を説明できる明快な理論は見出されていない。
こうした状況を理解しつつも、本書では「出生率はなぜ『西高東低』になったのか」という問いについて、無謀にも説明を試みる。新書という媒体の都合上、論文のような厳密な議論は難しい。これから行う説明は、あくまで仮説という点を踏まえた上で読んでいただきたい。
日本の出生率は1950年代に大幅に下がったのち、1960年代後半から1970年代前半にかけて微増する。ちょうど、大人になった団塊世代が子供を産むようになった、第二次ベビーブームの時期に相当する。

その後、徐々に出生率は低下するが、2005年を境として、にわかに上昇をし始める。しかしその傾向も長くは続かず、2016年からは再び減少傾向となる。2005年から2015年にかけての出生率上昇については、「テンポ効果」という統計上のマジックによる見かけ上のものにすぎないとの仮説が提示されている(『新しい日本地理』コラム⑥で詳しく解説)。
■九州が回復し、東北は低迷した理由
ここで、東北と九州の違いを見てみよう。図表3で示したように、東北と九州の出生率に差が開くのは2005年以降である。九州が全国平均以上の回復を見せたのに対して、東北の出生率は伸び悩んだ。現在にまで続く西高東低の傾向は、2005年以降に形成されたと言ってよい。では、この差異はどのようにして生じたのだろうか。
日本の場合、出生率は有配偶率(15歳以上の人口のうち、結婚している人の割合)と強い相関関係があることが知られている。日本では非嫡出子(婚姻関係に無い男女の子)の割合が極めて低いためである。有配偶率の地域差に関して、社会学者の益田仁は、次のような仮説を提示している。
(……)東北地方では家族規範が足かせとなり結婚が困難化した一方で、九州地方では歴史的に長男(ないしは男性)に親扶養の期待がかけられることは少なく、逆に女性にそれが期待されるために、九州の女性人口比が多くなる(その結果、結婚しやすい土壌ができ男性未婚率は低下する)。
つまり、九州地方の価値志向は東北地方と比較して、結婚の個人化の波と相性が良かった可能性がある(*2)。
伝統的家族規範と、現代的価値志向が組み合わさった帰結として、九州の出生率が高くなっているのだという。この仮説について、もう少し噛み砕いて説明しよう。
■「裏日本」は三世代世帯が多い
日本の伝統的な家族形態は、大きく東北日本型と西南日本型に分かれる。東北日本型は単世帯型直系家族制とも言われ、一つの家屋に親夫婦と子夫婦の二世代、あるいは孫などを加えた三世代以上が同居する形態をとる。これに対し、西南日本型は複世帯型直系家族制とも呼ばれ、家長を退いた親が子と別居する隠居制をとる。
そうした差異は、現代の統計からも読み取ることができる。三世代世帯の割合(図表4)を見ると、東日本のとりわけ日本海側で高い。山陰でも高いことを踏まえると、雪が多い「裏日本」の風土が、三世代世帯の多さにつながっていると考えられる。反対に、西日本では三世代世帯が全体的に少なく、鹿児島県では2%を下回る。
■出生率を支えていた「家」がしがらみに
東北日本型家族は、同族の結びつきが強い点が特徴である。家長が強い権限を持ち、相続においては長子の単独相続のかたちをとる。
それに対して、西南日本型家族は各家の独立性が高く、相続においては末子相続や分割相続の形態をとることも多い。
もちろん日本の家族類型すべてをこの二分法で捉えることはできないが、傾向として東西にそうした違いがあるのは間違いない。
東北日本型家族においては、親の介護など家に関わる仕事は長男が担うべきとする規範が強い。長男が家を継ぎ、次男三男が出稼ぎに行くという農村のあり方は、東北において典型的に見られる。高度成長期までは、こうしたあり方が出生率の上昇に寄与していた。
しかし、結婚に対する価値観が変化した現在では、「家」はかえってしがらみとなる。義父母との同居や親の介護への圧力は、結婚を遠ざける方向に作用する。その結果、東北の出生率は低くなる。
反対に、西南日本では義父母との同居はほとんどなく、長男が家を継ぐことへの圧力も東北ほどは強くない。したがって、結婚へのハードルが低く出生率も高くなる、という因果関係が想定できる。
■東北の20~30代男性は地元に残りがち
ここで示した家族規範と出生率の関係はあくまで仮説であり、明確に論証されたものではない。また、東北における公共事業の削減や、製造業の衰退のような経済的要因、そのほか東日本大震災の影響も指摘されている。

出生率の地域差はさまざまな要因が組み合わさって生じるが、そこに明確な東西パターンが見出せることを踏まえると、家族規範のような文化的要素の影響は否定しがたい。
「出生率はなぜ『西高東低』になったのか」という問いへの回答は、ひとまず以上の通りである。これを踏まえて、出生率以外のさまざまな人口統計に見られる東西パターンを紹介したい。
東西の差は、若年人口の性比(男女比)にも見出すことができる。都道府県ごとの20~30代人口の性比を見ると、明らかに東日本は男性が多い(図表5)。反対に、西日本においては鹿児島をはじめとして女性比が高い県がいくつも存在する。
■女性は東北を離れ、どんどん東京へ
都道府県ごとに性比が異なるのは、進学や就職にともなう人口移動のあり方が男女で異なるからであり、その根底には家族形態の差異がある。単純化して言えば、東北の男性は家を継ぐために地元に残るか、移動したとしても戻ってくる傾向が強い。それに対して、九州では長男であっても地元を離れることが多い。
一方で女性の場合、男性とは反対に東北のほうが東京への流出が激しい。一般的に女性の居住地移動は男性よりも近い距離で行われるため、東京から離れた九州においては、女性の移動は自県内か、せいぜい福岡に留まることが多い。しかし、東北の場合は東京が近く、女性も東京へ向かう。
したがって、東日本は男性が多く、西日本は女性が多いという差異が生まれる。なお、こうした傾向が現れ始めたのは、女性の大学進学率や就業率が向上した1990年代以降のことである。
■九州は「医療・福祉」で働く人が多い
こうした性比の差は、産業構造とも関係している。図表6は、都道府県ごとに「医療・福祉」従事者の割合を示したものである。西日本、特に九州は「医療・福祉」の従事者割合が高い。「医療・福祉」は産業大分類のうち最も女性の比率が高い産業であり、全体の約75%を女性が担っている。このことは、九州に(給与はともかく)女性の働く場が多く存在することを意味する。
西日本で医療・福祉が発達している状況は、従事者数以外の指標においても見て取れる。図表7から分かるように、人口あたりの医療費や医師数、受療率、病院数など、さまざまな指標において、東日本よりも西日本のほうが全体的に高くなっている。
西日本で医療・福祉が発達している理由はいくつか考えられているが、ここでもやはり家族規範の影響が指摘されている。
家族社会学・人口学を専門とする清水浩昭によると、親世代が隠居後に別居する慣行を持つ西南日本型家族においては、家庭内で介護労働力を十分確保することができないため、介護を外部に委ねる傾向が強いという(*3)。
■女性が外で働ける→子どもを産みやすい
つまり、九州では、先述した東北における介護の状況とは正反対のあり方が見られるということだ。
直系家族の規範が強い東北では家庭内の介護が中心なのに対して、九州では老人ホームやホームヘルパーのように市場経済のなかでの介護が発達している。そのため、家族にとっては介護の負担が少なく、また女性の就業機会も確保される。そうした状況が、結果的に九州の出生率の高さにつながっているとも考えられるだろう。
とはいえ、近年は、九州に限らず東北を含めた日本全体で介護産業が伸長しており、東西パターンは徐々に解体される傾向にある。また、現状として介護職の給与は高いとは言えず、ケア労働が女性に押し付けられているという問題も残る。
そうしたいくつかの点に留意する必要はあるが、現代に至ってもなお、伝統的な家族形態の差が出生率や介護のあり方に影響を与えているのは興味深い。

*1 山内昌和・西岡八郎・江崎雄治・小池司朗・菅桂太「沖縄県の合計出生率はなぜ本土よりも高いのか」『地理学評論』Series A 93 (2), 85―106

*2 益田仁「なぜ九州は出生率が高いのか︱九州の出生・育児に関する予備的考察」『中村学園大学発達支援センター研究紀要』13, 18–27.

*3 清水浩昭『高齢化社会日本の家族と介護︱地域性からの接近』時潮社

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重永 瞬(しげなが・しゅん)

京都大学地理学研究会第7代会長

京都府出身。京都大学大学院文学研究科地理学専修。専門は歴史地理学。縁日露店を中心とする近現代都市史について研究するかたわら、まち歩き団体「まいまい京都」でツアーガイドを務める。著作に『統計から読み解く色分け日本地図』(彩図社)、『Y字路はなぜ生まれるのか?』(晶文社)など。

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(京都大学地理学研究会第7代会長 重永 瞬)

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