日本で働く外国人が増えている。京都大学地理学研究会第7代会長の重永瞬さんは「一口に外国人と言っても、その数や出身国の構成は地域ごとに大きく異なる。
外国人をめぐる議論においては、まずこの違いを理解することが大切だ」という――。
※本稿は、重永瞬『新しい日本地理 地図・統計・移動から読み解く』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
■35年間で在留外国人は約4倍に増加
1970年代まで、日本における外国人はほとんどが韓国・朝鮮人であり、それにいくらか中国人が加わる程度であった。ところが、1980年代以降には、さまざまな国籍の外国人が日本にやってくるようになる。それ以前からいる外国人は「オールドカマー」、1980年代以降に来日した外国人は「ニューカマー」と呼ばれる。
図表1に在留外国人の推移を示した。1980年代以降に外国人の国籍構成が変化していることが分かる。
この時期から、中国のほか、ブラジルやフィリピンなどさまざまな国籍の外国人が日本に移り住むこととなった。リーマンショックを挟んだ2010年代以降には、ベトナム人も増加している。
1990年には約108万人だった在留外国人の数は、2025年6月には約395万人と、35年で4倍近く増加した。
■「老華僑」と「新華僑」の違い
ニューカマーの先駆けとなったのは中国人である。1978年、鄧小平政権は「改革開放」政策を打ち出し、市場経済の導入を図った。
同年には日中平和友好条約も締結され、多くの中国人が留学生として日本へやってきた。
1978年以降に国外に渡った中国人は「新華僑」と呼ばれ、それ以前の「老華僑」とは区別される。
日本の老華僑は横浜、神戸、長崎などの中華街に集まっているが、新華僑の居住地はそれとは異なるパターンを見せる。
■旧満州から「池袋チャイナタウン」へ
中国人の分布ははっきりとしており、大都市圏、とりわけ首都圏に集中している(図表2)。改革開放当初、中国人は留学・就学ビザで来日しアルバイトをする者が多かった。そのため、中国人の居住地は大学や日本語学校の立地に制約されることとなり、それらが多い首都圏に集中することになったと考えられる。
老華僑の出身地は広東省や福建省などの華南地域が多いのに対し、新華僑は東北3省(遼寧省・吉林省・黒龍江省)の出身者が多い。東北部はかつて関東州や「満洲国」があった関係から日本語教育が盛んで、現地の日本語学校や大学で日本語を学んだ人びとが新華僑として来日するようになった。
池袋駅北口周辺には新華僑による中国人向けの店舗が多く、「池袋チャイナタウン」と呼ばれる。1980年代当時、池袋周辺は日本語学校が多く、また駅前であるためアルバイトの場所も豊富にあった。北口は東口と比べると区画整理が遅く、老朽化した家賃の安いアパートが多く存在した。そのため、早くから中国人留学生らが集まるようになった。

■公営住宅が外国人ファミリーの受け皿に
日本人の好みに合わせた「町中華」と異なり、本場の味を重視する店は「ガチ中華」と呼ばれる。池袋は全国屈指の「ガチ中華」の聖地であり、中でも1999年に開かれた中華料理屋「永利」がその先駆けとされる。
「永利」の創業者はハルビン(黒龍江省)の出身で、日本敗戦後の引き揚げ時に取り残された中国残留日本人である。ガチ中華は当初「永利」のように東北料理を出す店が多かったが、近年は湖南料理や雲南料理などジャンルが多様化している。
はじめは単身でやってきた留学生のなかには、日本で結婚をして子育てをする者も多かった。のちに彼ら/彼女らは都心を離れ、郊外に住まうようになった。川口市の芝園団地はその好例であり、住民の半分以上が外国人となっている。
民間の借家では外国人の入居が拒否されることもあるため、公営住宅は外国人の受け皿となってきた。外国人が集住する背景には、そうした住宅市場上の事情もあるのだ。
■ベトナム人技能実習生の大きな波
2010年代以降、日本ではベトナム人が急激に増加した。ベトナム移民の端緒は1970年代のベトナム戦争後の難民、いわゆる「ボートピープル」にあるが、近年の波は「技能実習生」によるものである。
外国人技能実習制度は1993年にはじまり、当初は中国人が多かった。
しかし、中国の経済成長によって出稼ぎに来る中国人が減少し、それに代わってベトナム人の受け入れが盛んに行われるようになった。
ベトナム人の特徴は、大都市圏以外にも分散していることである。都道府県ごとの「最も多い外国人」を見ると、34道府県でベトナム人が1位となっている(図表3)。
全体の人口で言えば中国人のほうが多いのだが、中国人は大都市に集中しているため、地方ではベトナム人のほうが多くなる。
■人口減少が進む地方で不可欠の存在
ベトナム人実習生は建設業や食品製造業、農業、漁業など多様な職種に従事しているため、大都市圏以外でも受け入れが進んでいる。むしろ、人口減少が進む地域だからこそ、外国人の存在が不可欠と言ったほうがよいかもしれない。
地方に住むベトナム人は、大都市圏と比べると社会的なつながりの形成が難しい。そうした「非集住地域」では、ベトナム語のミサを開いているカトリック教会や、ほかの外国人も集まる日本語教室、Facebookでの交流などが社会的ネットワークを支えている。
発展途上国への技術移転を目的としてはじめられた技能実習制度は、実質的には外国人労働力の供給源であった。このいびつな制度は、技能実習生への賃金不払いや暴行など多くの問題を生んだ。2024年技能実習制度は廃止されることになり、2027年4月からは「育成就労」という新たな制度へ移行することになった。
この数年増加が著しかったベトナム人だが、コロナ禍以降は上昇率が鈍化している。
日本での過酷な労働環境が知られるようになり、ドイツやオーストラリアなどほかの国への出稼ぎが増加したためだ。
それに代わって、コロナ禍以降はネパール人やインドネシア人の増加が目立つ。アジア諸国が経済成長する中、日本はいつまで「選ばれる国」でいられるだろうか。
■オールドカマーが「西」に住んだ理由
日本に来る外国人は、時代ごとに異なる地域へと定着していった。最後に、外国人の居住地の変遷を見てみよう(図表4)。
1950年の外国人人口は関西より西側が約6割を占めていたが、2020年になると東海より東側が約7割となっている。外国人の分布は「西」から「東」へと移り変わってきた。
外国人が日本にやってくる理由として最も大きいのは、経済的な動機によるものだ。地方在住者が就職を契機に移住するのと同様、外国人もより高い賃金や幅広い就業機会を求めて日本にやってくる。一見自発的な移動であっても、機会の欠如を背景としたやむを得ない移動であることは珍しくない。
戦前の「外地人及外国人」の8割以上を占めていた朝鮮人は、九州や関西に多かった。これはより朝鮮に近いという距離的な事情に加えて、製鉄や石炭など重工業の中心が西日本にあったことも大きい。
当時は、鉄の原料となる鉄鉱石も中国から船で輸入をしていた。外国人が「西」に多かった理由は、大陸との関係を抜きに考えることはできない。
■経済中心の移動に合わせて「東」へ
一方、1980年代以降に増加したニューカマーは、関東や東海などの「東」に移り住んできた。主に留学・就学ビザでやってきた中国人たちは、大学や日本語学校が集まる首都圏にまず住むようになった。「日系」というルーツに基づく在留資格を持つブラジル人は、学校の立地には制約されず、東海や北関東で自動車産業などの製造業に従事した。
外国人の分布には、各時代の政治と産業構造が刻まれている。戦前において大阪が東京と並ぶ経済の中心であったのは、植民地を後背地としていたからに他ならない。「帝国日本」から「戦後日本」への領土の変化は、日本の経済的中心をより「東」へシフトさせた。それにともなって、外国人の分布も「西」から「東」へ移動したのである。
■「面」ではなく移動の「線」をたどる
ニューカマーの移動は、日本にとってまったく「新しい」ものとは言えない。中国人が「満洲国」のあった東北部から来日したように、あるいは南米や東南アジアに渡った日本人の子孫が日系人として来日したように、そこには近代日本における人の移動が織り込まれている。日本国内だけを見ていては、こうした動きは見えてこない。

現在の外国人の分布は、地方ブロックだけでは説明が難しい。例えば、島根県にブラジル人が多いことは、地方ブロックよりもむしろ出雲村田製作所という「点」で見たほうが分かりやすい。また、近年では、台湾の半導体受託製造企業(ファウンドリ)TSMCが熊本に工場を建設したことによって、熊本に台湾人が増加するという動向もみられる。
国境を越える移民は、地方ブロックはもちろん、「南海日本」や「中央日本」など本書で示した地域区分からもはみ出るような動きである。
ある国や民族がつくりだす領域は、まとまって存在するのではなく、人やモノの移動にともなってあちらこちらに「飛び地」をつくりだしていく。海を渡り、再び日本に戻ってきた日系人のように、文化は移動しながら混ざりあい、複雑に変容していく。
外国人の地理を理解するためには、地域区分という「面」ではなく、移動の「線」をたどることが重要だ。

----------

重永 瞬(しげなが・しゅん)

京都大学地理学研究会第7代会長

京都府出身。京都大学大学院文学研究科地理学専修。専門は歴史地理学。縁日露店を中心とする近現代都市史について研究するかたわら、まち歩き団体「まいまい京都」でツアーガイドを務める。著作に『統計から読み解く色分け日本地図』(彩図社)、『Y字路はなぜ生まれるのか?』(晶文社)など。

----------

(京都大学地理学研究会第7代会長 重永 瞬)
編集部おすすめ