社会的成功をおさめるにはどうすればいいか。キャリア構築の専門家でカイラボ代表取締役の井上洋市朗さんは「やりたいことを明確化して、そこから理想を描き、理想実現のための行動に落とし込む方法には限界がある。
偶然をチャンスに変えていく『キャリアドリフト』と呼ばれる考え方を知ることが成功を手繰り寄せる」という――。
※本稿は、井上洋市朗『キャリアは言語化でうまくいく』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■キャリアプラン通りの人生は送れない
キャリアについて考えるとき、多くの場合、やりたいことの明確化はセットです。目標設定や目的設定という言葉をつかっている場合もあると思います。
そして、やりたいことを実現するための計画がキャリアプランと呼ばれます。
キャリアを考えるとき、学校でも企業でも多くの場合に行われるのが、キャリアプランの作成です。
キャリアプランとは、言ってみれば、これからの自分の人生の計画です。何歳のときにどんな仕事をしていて、プライベートではどんな出来事があって、どんな生活をしているのかを考えて計画するわけです。
キャリアプランを考えると、次にやってくるのが行動計画づくりです。
描いたキャリアプランを実現するために、いつまでに何をすべきか計画を立てます。
そして問われるわけです。「本当にその計画で実現できますか?」と。

目標をたてて、その実現のために行動に落とし込む方法は目標達成のためには非常に有効な手段です。
その手法をキャリアにも応用しているわけですが、この方法には限界があります。
多くの人はこれまでの人生を計画通りに生きていません。だから、これからの人生について計画をたてたところで、計画通りになるとは思えないのです。
■キャリア観を広げる「理想を追わない考え方」
近年では学校でもキャリア教育が行われるようになり、目標設定や夢を持つことの重要性が語られています。それ自体を否定するつもりはありません。
ですが、現実問題として、多くの人は小さい頃になりたかった職業についているわけではありません。そのため、目標と計画をたてれば目標が実現するとは思っていません。
何より、やりたいことを明確化するのは簡単ではないし、むしろ、やりたいことを明確化できる人の方が少ないと私は考えています。
ここにキャリアを考えることの難しさがあります。
やりたいことを明確化して、そこから理想を描き、理想実現のための行動に落とし込むという方法には限界があります。
むしろ、やりたいことが明確化できない人たちにとっては、最初の段階で躓いてしまう可能性がある、危険なやり方です。

ただ、キャリアに関する理論の中には、理想を描く方法だけではなく理想を追わなくても良いという考え方もあります。
実は、その考え方を知ることこそが、あなたのキャリア観を大きく広げることにつながっていくのです。
■“敢えてキャリアをデザインしない”が効果的
キャリアにおいて明確な目標を定めることを必須としない考え方の一つがキャリアドリフトです。
ドリフト(drift)は日本語で「漂流する」や「流される」などを意味する英語です。ゲームをする方なら、カーレースのゲームでカーブを曲がるテクニックとして「ドリフト走行」という言葉を聞いたことがある方は少なくないと思います。
ドリフト走行はタイヤを横滑りさせるわけですが、キャリアドリフトの場合は周囲の状況に合わせてうまく流されることを意味します。
実は、キャリアドリフトを提唱しているのは日本人です。
組織論の世界で著名な神戸大学名誉教授の金井壽宏氏が提唱しているのですが、金井教授はこのような主張をされています。
「キャリアデザインとキャリアドリフトは表裏一体。
“敢えてデザインしないこと”が結果的にキャリアの幅を広げる」
キャリアドリフトを唱えたのは日本人ですが、この考え方のもとになる理論はスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論」です。
英語の「Planned Happenstance」をそのままカタカナ読みした「プランド・ハプンスタンス理論」とも呼ばれます。
なかなか興味深い理論なので、ご紹介します。

■成功のきっかけは「予期せぬ偶然」
計画的偶発性理論を結論から言ってしまえば「キャリアが成功する要因の8割は予期せぬ偶然だ」というものです。
クランボルツ教授が多くの職業の人を対象に調査をしたところ、18歳の頃になりたいと考えていた職業についている人はごくわずかだったそうです。
では残り大多数の人は満足なキャリアを送れていないかというと、どうやらそうではないようで、社会的に成功をしているビジネスパーソンを対象に調査をすると、その大半が「成功は予期せぬ偶然がきっかけだった」と回答したそうです。
ある意味で、キャリアが成功するのかどうかは運次第ともいえる理論です。
「なんだ、結局は運なのか……」計画的偶発性理論の話を聞いて、そう感じた方もいるかもしれません。
でも実は、クランボルツ教授はさらに調査をすることで、社会的に成功を収めている人たちの共通点を探し当てました。
それは、予期せぬ偶然が起きるように自ら行動していること。予期せぬ偶然を単なる出来事ではなく自らのステップアップの機会としていることです。
■キャリアを成功させる5つの行動指針
この調査の結果、クランボルツ教授はキャリアを成功させるための5つの行動指針を示しています。
1.好奇心(Curiosity)

2.持続性(Persistence)

3.楽観性(Optimism)

4.柔軟性(Flexibility)

5.冒険心(Risk Taking)
好奇心が強い人は様々なものに興味が向きます。おもしろそうなイベントがあれば積極的に参加してみる人の方が結果的に予期せぬ偶然が起きる確率が高まります。
持続性、楽観性、柔軟性は、予期せぬ偶然が起きたあと、自分のキャリアのステップアップをするために重要な要素です。

多少の失敗があってもめげずに、粘り強く続けながら、従来の自分のやり方に固執しないことで道が開けます。
言い換えれば、この3つの要素がないと、新しい環境に馴染めない可能性が高まります。
持続性、楽観性、柔軟性が不足して周囲から浮いてしまい、初めての転職で失敗するというケースはよく見かけます。
最後が冒険心です。予期せぬ偶然が起きたとき、偶然をチャンスととらえて新しい環境にチャレンジすることはリスクもあります。
リスクを恐れずに思い切って新しい環境に飛び込んでみることで新しいチャンスを得るのが冒険心です。
■冒険心がキャリア成功の道を拓く
例えば、社内で立ち上がった新規事業の部署への異動を打診された場合を考えてみましょう。
新しい部署にうつることはリスクもあります。人間関係の再構築も必要になるし、今まで培ったスキルがすべてそのまま活用できるとは限りません。新しいことを覚える時間も必要なので、残業時間が増えるかもしれません。
一方で、リターンもあります。新規事業担当というなかなか経験できない業務や、新しい事業を立ち上げることで得られるやりがい、新規事業だからこそしがらみにとらわれずに裁量権を持って仕事ができる、など。

キャリアにおける多くの出来事はリスクがあります。時には敢えてリスクをとることの重要性を、クランボルツ教授は冒険心という言葉に込めているのだと思います。

----------

井上 洋市朗(いのうえ・よういちろう)

カイラボ代表取締役

1985年東京生まれ。大学卒業後、日系コンサルティング会社・商社や社会人教育のベンチャー企業を経て、2012年に企業向けの離職防止コンサルティングをするカイラボを設立。現在は「キャリアの軸」を言語化する重要性に気付き、全国各地で20~60代を対象にしたキャリア研修を実施。高校生や大学生向けのキャリア教育の授業にも登壇している。

----------

(カイラボ代表取締役 井上 洋市朗)
編集部おすすめ