年齢を重ねても健康で、幸せに過ごすためには、どんなことに気を付ければいいのか。東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授・基幹分野長の若林秀隆さんは「1日数分でも毎日運動を継続したほうがいい」という――。

※本稿は、若林秀隆『幸福寿命』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■健康寿命と幸福寿命をのばす習慣
健康寿命と幸福寿命をのばす最強の「プチ○○」は、運動だと私は考えています。誰もがすぐに始められる幸福寿命をのばすための第一歩です。
厚生労働省が2023年に作成した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」には、身体活動・運動の量が多い人は、循環器病、2型糖尿病、がん、ロコモティブシンドローム、うつ病、認知症等の発症・罹患リスクが低く、うつや不安の症状が軽減され、思考力、学習力、総合的な幸福感を高められるとあります(※1)。
身体面だけでなく、心理面、認知面、幸福感にも運動がよいことは明らかです。身体活動とは、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する、骨格筋(自分の意思で体を動かす筋肉のこと)の収縮を伴うすべての活動とされています。
また、運動とは、身体活動のうち、スポーツやフィットネスなどの健康・体力の維持・増進を目的として、計画的・定期的に実施されるものとされています。
うつに対する運動の効果をみた研究が、2024年に「BMJ」という一流の医学雑誌に掲載されました。運動の中でも、歩行、ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングが他の運動よりうつに効果的でした(※2)。
■忙しい人は「1日1分」でもいい
そして運動はうつのメインの治療法として、心理療法や抗うつ薬と並んで検討すべきとありました。うつの認知機能に対する運動の効果をみた研究では、運動は全体的な認知機能と、処理速度、注意、記憶、遂行機能を改善しました(※3)。
中程度から高度の有酸素運動は、うつ病の他に社会恐怖症、パニック症、全般性不安症、心的外傷後ストレス症、短期精神症、統合失調症、統合失調感情症、妄想症、統合失調症様症、注意欠陥・多動症、神経発達症といった様々な精神疾患への効果も認められています(※4)。

このように運動は精神心理面の健康にも治療にも効果的ですので、幸福寿命をのばすには最強です。運動を続けられないという方も少なくないと思いますが、この後に紹介する筋トレ、散歩、ストレッチのどれでもよいので、今日から「プチ」といえるような、ちょっとだけ、そして軽い運動を始めてそれを続けてみてください。忙しくて1日10分の散歩ができない場合には、1日1分の筋トレかストレッチでもよいです。もし1日1分の運動もできないほど忙しいのであれば、幸福寿命をのばすために生活の全般的な見直しが必要だということになります。

参考文献

1) 健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討会:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

2) Noetel M, et al.: Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024:384:e075847.

3) Ren FF, et al.: Effects of exercise training on cognition in adults with depres sion: A systematic review and three-level meta-analysis. Int J Nurs Stud. 2025;168:105083.

4) Solmi M et al.: Exercise as a transdiagnostic intervention for improving mental health: An umbrella review. J Psychiatr Res. 2025;184:91-101.
■筋肉量・筋力の低下が「QOL」に影響
サルコペニアとは、加齢などの影響で筋肉量と筋力が低下した筋肉の疾患です。筋肉量と筋力のピークは20~30代で、加齢とともに徐々に低下していきます。その他に、入院中のベッド上での安静などで体を動かさないこと、食事摂取量が不足していること、炎症を伴う様々な疾患によっても低下します。
これらの結果でなるのが、サルコペニアです。サルコペニアが全身の筋肉に生じれば寝たきりに、舌やのどなど口から食べることに関わる筋肉に生じれば摂食嚥下障害に、横隔膜など呼吸に関わる筋肉に生じれば呼吸障害になります。サルコペニアと健康に関連したQuality Of Life(生活・人生の質、QOL)の関連をみた研究では、サルコペニアがあるとQOLが明らかに低下します(※5)。そのため、サルコペニアの予防と治療は、健康寿命と幸福寿命の両者をのばすのにとても重要なことがわかります。
サルコペニアの診断は、2025年11月に公開されたアジアのサルコペニアのワーキンググループであるAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2025の基準で行います(※6)。

AWGS2019という以前のバージョンでは、低筋肉量に加えて低筋力もしくは低身体機能がある場合にサルコペニアと診断していました。しかし、AWGS2025では低筋肉量+低筋力の場合にサルコペニアと診断します。身体機能はサルコペニアの診断基準には含まれなくなりました。
■ペットボトルのふたが開けにくい人は要注意
フレイルとは、加齢などの影響で身体機能を支える恒常性維持機構(ホメオスタシス)が低下して、ストレスに抗う力が低下し健康障害が生じるような状態です。
フレイルには、身体的フレイルの他に、精神・心理的フレイル、認知的フレイル、社会的フレイル、オーラルフレイルなどがあり、筋肉に限定したサルコペニアより幅広い概念です。日本語のフレイルは、健常な状態と寝たきり・要介護の状態の、中間の状態を指します。また、フレイルの前段階としてプレフレイルという段階があります。地域在住高齢者でフレイルと健康に関連したQOLの関連をみた研究では、フレイルだとQOLが明らかに低下します(※7)。そのため、フレイルの予防と治療も、健康寿命と幸福寿命の両者をのばすのに重要です。
身体的フレイルは、改訂J-CHS基準で診断します。改訂J-CHS基準を図表1に示します(※8)。体重減少、倦怠感、握力、歩行速度、活動量の5項目のうち、3項目以上に該当した場合に身体的フレイル。
1~2項目に該当した場合には身体的プレフレイルとなります。歩行者用信号の多くは、1m/秒で歩けば渡りきれるように設定されています。そのため、歩行者用信号が青のうちに横断歩道を渡りきれずに信号が赤になってしまう場合には、歩行速度が遅い可能性が高いといえます。
握力は、測定器がないと、正確な数値はわかりませんが、ペットボトルのふたが以前より開けにくくなるなど、日常生活での変化を意識してください。
ちなみに私は改訂J-CHS基準の1項目に該当しますので、身体的プレフレイルだと自覚しています。

参考文献

5) Beaudart C, et al.: Sarcopenia and health-related quality of life: A systematic review and meta-analysis. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023;14(3):1228-1243.

6) Chen, LK, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nature Aging 2025.; 5 : 2164-2175

7) C rocker T F, et al .: Quality of life is substantially worse for community-dwelling older people living with frailty: systematic review and meta-analysis. Qual Life Res. 2019;28(8):2041-2056.

8) Satake S , Arai H . Therevised Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria (revised J-CHS criteria). Geriatr Gerontol Int. 2020; 20: 992-993
■若い人でも発症する「ロコモ」の危険性
ロコモティブシンドローム(運動器症候群、通称ロコモ)とは、運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態で、運動器の機能障害およびその予備群を含む身体面の概念です。ロコモの原因の一つに、サルコペニアがあります。ロコモは、身体的フレイルよりも早く発症し、子供や若い方にも認められることがあります。
ロコモの診断は、立ち上がりテスト(椅子や台から片脚もしくは両脚で立ち上がる)、2ステップテスト(できるだけ大股で2歩、歩いて、最大2歩幅を身長で除した数値)、ロコモ25(25項目の質問紙票)の3つを用いて行います(※8)。詳細はロコモONLINEのホームページをご参照ください(※9)。ロコモ度には1~3があり、3項目のいずれか一つに該当したら、そのロコモ度となります(図表2)。
■予防・改善には1に運動、2に栄養
2025年に「サルコペニア・フレイルの予防・改善に関するデジタルヘルスのためのガイドライン」(※10)と「サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025」(※11)が公開されました。

私は両方のガイドラインの作成に関わりました。ここでは前者のガイドラインを紹介します。このガイドラインでは、高齢者のサルコペニア・フレイルの発生・進展を予防するために、レジスタンストレーニング(筋トレ)単独、またはそれを含む複合運動を行うことが強く推奨されています。
一方、栄養に関しては、高齢者のサルコペニア・フレイルの発生・進展を予防するために、栄養補充または運動と栄養補充を併用することが弱く推奨されています。根拠となるエビデンスの確実性に関しても、運動がもっとも確実で、栄養補充だけではサルコペニアやフレイル予防にはそこまでの確実性はないとされています。また、サルコペニアやフレイルを予防・治療する薬剤は、現時点ではありません。そのため、サルコペニア・フレイルの予防・改善には、一に運動、二に栄養です。

参考文献

8) Satake S , Arai H . Therevised Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria (revised J-CHS criteria). Geriatr Gerontol Int. 2020; 20: 992-993

9) ロコモONLINE:ロコモ度テスト

10) サルコペニア・フレイルの予防に関するヘルスケアサービスのためのガイドライン開発研究班編、サルコペニア・フレイルの予防・改善に関するデジタルヘルスのためのガイドライン、ライフサイエンス出版、2025

11) 日本臨床栄養学会/日本サルコペニア・フレイル学会編集、サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025、南江堂、2025
■最も重要なのは「継続すること」
運動には筋トレの他に持久性トレーニング、バランストレーニング、ストレッチなどがありますが、ガイドラインにもあるように、サルコペニア・フレイルに最も効果的なのは筋トレです。筋トレには、道具を使わない自重トレーニング、セラバンドなど自宅で使用できる道具を用いたトレーニング、マシーンなどトレーニングジムにあるような道具を用いたトレーニングの3種類があります。これらの長所と短所を図表3に示します。
筋トレで最も重要なことは、継続することです。3種類とも試してみて、継続できそうな筋トレを選ぶことをおすすめします。

もし3種類を試す気になれないのであれば、まずは今すぐ、自宅でも試せる、道具を使わないプチ筋トレを初めてみることをおすすめします。
プチ筋トレとして定番なのは、ロコトレ(ロコモーショントレーニング)です(※12)。ロコトレでは、片脚立ちを左右1分間ずつ1日3回と、スクワット1セット5~6回を1日3回行います。1日3回が難しければ、1日1回でも構いません。毎日が難しければ、2日に1回でも構いません。筋トレは短時間でも効果が出やすいので、筋トレを普段行っていないという方は、ぜひ今日からプチ筋トレを始めてください。
私はオリジナルのプチ筋トレをしています。40代から食事中や水を飲むときにむせることが徐々に増えてきて、飲み込むときの筋肉(舌骨上筋群)の筋力低下と食事に集中できていないことが原因だと判断しました(これは私が飲み込みを専門の一つとしているリハビリテーション科医だから自己判断したことで、もし読者がむせることが増えてきている場合には、医師にご相談ください)。

参考文献

12) ロコモONLINE:ロコトレ
■筆者が実践するオリジナル「プチ筋トレ」
そこで、嚥下おでこ体操という飲み込むときの筋肉を鍛えるプチ筋トレを始めました。嚥下おでこ体操とは、おでこに手を当てて、あごを引いておへそを見るようにして下を向いて、手とおでこで力比べをする筋トレです。
ただ、飲み込むときの筋肉以外の筋トレも同時にできたほうが効率的だと思い、今では両肘を90度に曲げて両方の手のひらをおなか(おへその横あたり)に当てて、頸部、大胸筋、上肢に力を入れ続ける(アイソメトリックトレーニング)ことを、両足つま先立ち(カーフレイズ)の姿勢で行っています(図表4)。その際、舌を上あごに押し付けることで、飲み込むときの筋肉の筋トレ効果をより高めています。

この筋トレを1日2~3分間、行っています。これは飲み込み、上半身、下半身の筋肉を同時に鍛える筋トレです。おかげで以前より、食事中や水を飲むときのむせが少なくなりました。
また、私は全くマッチョな体型ではありませんが、それでも上半身、下半身の筋肉量と筋力が以前より増えて、貯筋(筋肉の貯金)を実感して、自信や充実感が増えました。私はサルコペニアやフレイルについて講演をする機会がありますので、自分の筋肉量と筋力が少なくてサルコペニアやフレイルになってしまうと、講演の説得力がなくなってしまいます。飲み込みの筋肉を鍛えたい場合には、ロコトレよりこちらのプチ筋トレがおすすめです。

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若林 秀隆(わかばやし・ひでたか)

東京女子医科大学病院リハビリテーション科 教授・基幹分野長

1995年横浜市立大学医学部卒業。2016年東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部修了。専門はリハビリテーション栄養、サルコペニア、サルコペニアの摂食嚥下障害。医学博士、日本リハビリテーション医学会 指導医・専門医、日本リハビリテーション栄養学会 特別会員・代議員、日本サルコペニア・フレイル学会理事。著書に『イラストで学ぶ 高齢者リハビリテーション栄養』(講談社)、『幸福寿命』(日刊現代)などがある。

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(東京女子医科大学病院リハビリテーション科 教授・基幹分野長 若林 秀隆)
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