交通事故を起こした人は、どんな状況で事故を起こすのか。原因はどこにあると考えているのか。
交通事故を20%減らした自動車保険あいおいニッセイ同和損保のつながる保険物語』(プレジデント社)を書いたノンフィクション作家の野地秩嘉さんが、2度の事故を起こした50代女性から話を聞いた――。
■「なるほど」と思える原因があった
自動車による交通事故の原因については警察発表では安全不確認、脇見運転、動静不注視、漫然運転といった項目に分けられてしまう。しかし、原因ではあるけれど、真因とは言いがたい。自動車でも自転車でも電動キックボードでも、原因は運転している人間だ。人間の事故直前の心のありようが交通事故に結びついている。
今回、わたしは交通事故を減らした自動車保険の本を書く際、事故を経験した人たちに「事故の真因とは何ですか?」と質問して歩いた。以下はそのなかで、「なるほど」と納得できることを教えてくれたひとりの女性の話である。
北川涼子(仮名)さんは50代の女性である。浜松市で生まれ、豊田市に嫁ぎ、そこで子どもを産み育てた。子どもたちは成人し、今はご主人とふたりで暮らしている。仕事は公務員だ。彼女は2度、交通事故を経験している。

1度目は4年前だった。バックしてきた車に当てられてしまった。2度目は一昨年の夕方のことで、交差点で出合い頭にぶつかってしまった。ただ、彼女は交差点に入る前に一時停止をしていなかった。どちらの事故も軽微な事故ではあったが、その体験を経て、彼女は行動を変容した。それは、事故を起こさないためには生活していくうえでの考え方と行動を変えなくてはならないと思ったからだ。
警察や損保会社の交通事故の資料を見ると、そこには自動車事故の「原因」が列挙してある。先に挙げたように安全不確認、脇見運転、動静不注視、漫然運転……。いずれも安全運転義務違反に該当する。安全の不確認は交通事故の原因だ。しかし、真因ではない。真因とは問題の根本的な原因だ。

■免許返納ができない地方の事情
北川さんは交通事故の真因を教えてくれた。
北川さんは交通事故の話を微笑みを浮かべながら話してくれた。余裕のある人なのである。「私は図書館司書として働いていて、通勤には軽自動車を使っています。うちは夫婦で1台ずつ持っています。田舎はもう車がないと不便です。ふるさとでも事情は同じ。おそらく東京とか大阪以外は車がなければ仕事もできないし、病院へ行くこともできないと思います。車のない生活は考えられません」
日本の都市圏以外では自分が乗る車がなければ生活できない。高齢になって免許を返納してしまうと、生活することができないのである。仮に自動運転バスが実現したとしても、地方では利用料が安くなければ利用できないだろう。
利用料を安くするためには自動運転車両はバスではなく軽自動車が望ましい。
簡単に操作できる自動運転の軽自動車を開発して普及させることはできないのだろうか。利用者はバスよりも自分が慣れている軽自動車であればいざという時に運転することができる。軽自動車の自動運転乗り合いカーの実現が地方の交通を変える。そうわたし自身は考える。
話はズレたけれど、北川さんの最初の交通事故とドラレコ型のテレマティクス保険の導入について、である。
■「それを証明できる人はいますか?」
彼女はこう言った。
「4年前のことですが、ドライブレコーダーを付けようかなあと思ったことがあるんです。あおり運転とか話題になってましたからね。ただ、ドラレコを付けたとしても、事故を起こした時、自分がデータを送るなんてできるはずがないと思いました。そんな時ドラレコを貸してくれる保険があると聞いて、それなら付けてみようかなと思っていた矢先に、ぶつけられてしまいました。
事故は駐車場の入り口の橫の道路で起きました。私の車が止まっていたら、前の車がバックしてきて、そのまま駐車場に入ろうとしたんです。
突然、何も考えずに、バックしてきて、どんどん迫ってきて、私の車の前部にぶつかりました。まったく、ためらいもなく、ぶつかってきました。
乗っていたのは若い女性でした。その場で警察を呼んで、事故処理しました。そこまではいいんです。問題はその後でした。若い女性が入っていた自動車保険の会社から電話をもらいました。ネット保険です。担当の人に『バックしてきた車にぶつけられた』と説明したんです。そうしたら、『それを証明できる人はいますか?』と言われました。さらに『あなたの車にドライブレコーダーは付いてますか?』と。
『いえ、付けてません』と答えました。
すると『じゃあ、証明できる人はいませんね』。その後、担当の人が『私はうちのクライアントさんを信用してますので』という言い方をしたんです。まるで私が嘘をついているような……。誰だってカチンときますよね。だって、ぶつけたのは向こうですからね。その時、思いました。あ、これはもう車にドライブレコーダーを付けていないと、当てられた事故でも証明できないなって」
■「逆突事故」の過失割合は?
事故の後、北川さんはあいおいニッセイ同和損保の4つのテレマティクス保険のうちの「タフ・見守るクルマの保険プラス(ドラレコ型)」に入った。
なお、バックしてきた車にぶつけられた事故は専門用語では「逆突事故」と呼ぶ。車がバックする時、後方不注意が原因で、他の車に衝突する事故だ。逆突事故の場合、過失割合はぶつけた方が10でぶつけられた方(北川さん)はゼロとなるケースが多い。だが、結局は北川さんはゼロにはならなかった。相手は北川さんの車の修理費の8割は支払った。
残りの2割は北川さん自身が保険を使って自己負担したのである。8万円程度だった。なお、北川さんは相手の車修理代に対しては一切、払っていない。
もし、北川さんが裁判に持ち込めば相手の過失割合はもっと増えた可能性もある。しかし、裁判をやれば時間とお金がかかる。それを考えて、数万円程度なら払ってもいいとしたのである。しかし、彼女には、もやもやした感情が残った。そして、ドラレコ貸与のテレマティクス保険に入った。
■ドライブレコーダーの通信機能
北川さんは言った。
「市販のドラレコを買うのではなく、借りるかたちにしました。カー用品店へ行ってドライブレコーダーを買えばそっちの方が安いかもしれません。ただ事故を起こした時に、ドライブレコーダーのデータを自分自身で操作して保険会社に送ることが自分ではできないと思いました。自動でやってもらえると聞いたのが一番大きかったです」
テレマティクス保険をアドバイスした同席の保険代理店の人間はこう補足した。
「あいおいニッセイ同和損保が提供するドライブレコーダーのいいところは、通信機能が付いていることです。事故の衝撃が起きたら、そのデータが即時にコールセンターに送られるんです。そして、送られてきたデータをすぐにAIにかけて、過失があるのはどちらで、しかも過失割合もある程度までわかるのです」
■家とは反対方向の郵便局へ
北川さんが2度目の事故を体験したのは2025年1月22日の夕刻だった。日にち、時間まで彼女は忘れていない。その日の夕方、彼女は仕事を終えて、自宅に帰るために車を運転していた。冬のことだから、あたりは薄暗くなっていた。
「仕事を終えて、自宅に帰る途中でした。その日はお給料日でした。ふと、郵便局へ寄って通帳に記帳をしておこうと思ったんです。特に記帳する理由はありませんでした。記帳するにしても、その日でなくてよかった。しかも郵便局は自宅へ向かうのとは反対の方角にあるから、行かなくてよかったんです。
『郵便局に行かなくていい。記帳しなくていいんじゃないか』と思いながら、郵便局へ向かったわけです。おかしいですよね。でも、そんなことって、人間、あるじゃないですか。
細い道を運転して、急いでいました。行かなくてもいい場所なのに、急いでしまったんです。細い道同士の交差点に差し掛かった時、ほんとはそこは一旦停止しなくちゃいけなかった。自分としては一旦停止したつもりでした。その時でした。横から来た車にぽんとぶつけられてしまったんです。
■ドライブレコーダーがしゃべった
交差点内の事故でした。信号はありません。『ああー!』となりました。相手の若い女性と立ち話をして、『警察呼びましょう』と。相手の方は通勤途中で会社の車を運転されていました。そのときドライブレコーダーから声が聞こえてきました。
『事故ですか? 大丈夫ですか?』
ドライブレコーダーに通信機能が備えられていて、通話ができたんです。事故を起こしてから1分くらいの感じでした。
すぐに、警察官がやってきました。ドライブレコーダーのオペレーターの人は『では、警察の方を優先してください』といったん、切りました。オペレーターの人はデータが飛んでいるので、私が詳しく説明しなくても事故が起きていた状況を把握していたんです。現場検証して、警察官から、『一旦停止をしていませんね』と言われました。事故の処理はそれで終わりです。
後で聞いたら、オペレーターはドライブレコーダーの映像とデータで事故の前後の状況はすべてわかっていたそうです。場所、事故の度合いもすべて把握されていました。
事故の処理もすぐに済みました。私が8割で相手の方が2割。私の車の損害は私が払う。相手の車の損害のうち、8割を私が払うということですぐに決着しました。データがあるから過失の割合もすぐに出たんです。私は保険を使って相手と私の車を直しました。その後、保険料が高くなりましたけれど。
■データがあると事後がラクに
事故の時、あいおいニッセイ同和損保のオペレーターさんから連絡をいただいたから、自分が何をすればいいのかがわかりました。見守られていて、安心できました。事故の後、また電話をいただいて、『その後はどうなりましたか?』とフォローまでありました。ありがたいと思います。『これからの保険料ですが、事故があったので保険料が上がります』と説明を受けました。3割くらい上がりました。
でも、ドライブレコーダーのデータがなければ事故処理により多くの時間がかかると言われて、よかったと思いました。事故の場所もGPSがあるのですぐに特定できると聞きました。データがあれば相手の方との話し合いも早く済みます。示談に向けてすごく短縮できました。それに、相手の方の車は会社の車でしたからドライブレコーダーが付いていなかった。どちらか1台だけでも付いているだけで違います。事故を起こした時って動揺してるから、『場所はどこですか?』ってきかれてもとっさに答えられないんです。冬の夕方でどんどん暗くなってきたから、心細かったけれど、オペレーターさんの声とデータがあって、助かりました」
■「ひと呼吸おく」ことの大切さ
彼女の話はリアルだ。いくらデジタル機器に強い人であっても、事故が起こってすぐにドラレコのデータを保険会社に自分で送るなんてことはできないと思った方がいい。事故に遭った人たちは一様に不安で心細い状況にある。てきぱきと動くことなどできないのである。
では、交通事故の真因について。
交通事故に遭わないために人が気をつけることは何なのだろうか。
彼女は「私はこう思います」と言った。
「事故が起こってから1年以上、経ちますが、その郵便局へ行くのはやめました。自宅から一番近い郵便局ですけれど、もう行きません。事故現場を通るのが嫌だし、そっちの方向へも行きたくありません。それくらい事故は嫌です。
私は自分の行動を考えてみたんです。事故を起こした時、自分の用事を詰め込んだ。行かなくてもいいのに、郵便局へ行こうとした。仕事が終わって、夕方になり、あたりがだんだん暗くなっていって、早く郵便局へ寄って、記帳をして、早く自宅に戻らなくちゃと思いながら運転していた。焦って用事を済ませようって気持ちだったと思います。それが事故を引き寄せたんです。
行かなくていいところに行った私が悪かった。焦って行動したことはよくなかった。
私は『ひと呼吸おく』ってことなんだと思います。行動の前に、ひと呼吸おくことができなかったから、事故が起きたんです。
■スケジュールを詰め込むのはやめよう
普段の生活も焦って物事をやらないようにしていくことが事故を起こさないことにつながると思います。普段の生活のなかで、ここで30分空いたから、これをやってしまおうと、私はいつも詰め込んでいました。詰め込んで生活していたから、焦って行動するようになるんです。
生活を気ぜわしくしないこと。30分空いたからといって、何かを詰め込んだりしてはいけないと思うようになりました」
彼女が言った交通事故の真因は誰にも当てはまる。ビジネスパーソンはちょっと時間が空いたら、その間に用事を詰め込んでしまう。仕事の予定、遊びの予定でスケジュールを埋め尽くして、ちょっとした快感を得る。そのうちに予定を詰め込むことが生活そのものだと思うようになる。
そうではなく、生活のなかに、あえて「ひと呼吸おく」時間を作ること。これさえ守っていれば焦りからの交通事故はなくなると思う。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)

ノンフィクション作家

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。ビジネスインサイダーにて「一生に一度は見たい東京美術案内」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)
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