※本稿は、中野ジェームズ修一『大人気フィジカルトレーナーが本気で考えた 疲労回復の習慣』(日経ビジネス人文庫)の一部を再編集したものです。
■肩こりと腰痛は日本人の国民病
日本人の有訴率(病気やけがなどで自覚症状がある人)は、男性も女性も1位が腰痛で2位が肩こりとなっています(厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」)。肩こりと腰痛は、日本人の国民病なのです。
疲れていると、肩こりや腰痛はひどくなります。こりや痛みがひどくなると、体を思い切って動かせなくなって、体力が落ちるため、疲れに拍車がかかることになります。まさに悪循環です。
肩こりや腰痛が起こる原因は通常、筋肉と関節にあります。
たとえば、肩こりの多くは、頭や腕の重みを、首すじや背中の筋肉が支えることによって生じるとされます。頭は体重の10%ほどの重さを占めており、体重が50kgなら約5kgあります。腕は1本で体重7%ほどであり、約3kgの重さになります。
■「こり」や「痛み」の慢性化
筋肉が緊張して強(こわ)ばってくると、周囲の血管を圧迫して血流が不足するようになります。その状態が続くと関節の動きも悪くなり、血行はさらに悪くなります。そして緊張して収縮している筋肉は、リラックスして弛緩している筋肉よりも、より多くの酸素やエネルギー源を求めます。つまり、筋肉が緊張すると、血行が悪くなるのに、血液が運ぶ酸素やエネルギー源をより多く求めるのです。
すると、筋肉は「酸素もエネルギー源も足りなくなったぞ!」というSOSを発するようになります。これは筋肉が自らを守るための防衛反応のようなものです。
SOSの正体は、ブラジキニンやヒスタミンといった物質です。筋肉を取り巻く毛細血管が緊張などでダメージを受けると分泌されて、炎症と痛みを引き起こします。
痛みが生じると、筋肉は緊張して収縮し続けます。それがさらなるブラジキニンやヒスタミンの分泌を促す負のサイクルから抜け出せなくなり、緊張→痛み→緊張……が繰り返されるようになります。それを長年放置していると、こりや痛みが慢性化しやすくなるのです。
■水泳選手でも肩こりは起こる
こうしたメカニズムを踏まえると、頭や腕の重みに負けないほどの筋肉が首すじや背中に備わり、肩や肩甲骨の動きがスムーズで血流も活発なら、肩こりは起こらないはずです。
ところが、首すじも背中も筋骨隆々であり、肩も肩甲骨も自由自在かつアクティブに動く水泳選手でも、肩こりは起こります。一体なぜでしょうか。
水泳選手の多くが肩こりを訴えてトレーナーに「マッサージをお願いします!」と頼んでくるのは、オリンピックなどの大切な試合を控えたタイミング。本番前の精神的なストレスが肩こりにつながっているのです。ストレスは疲れの原因にもなるため、疲れるくらいストレスが蓄積すると、肩こりも腰痛も悪化しやすいのです。
■原因が特定できる腰痛はたった15%
厚生労働省によると、慢性的な腰痛で、画像診断などで原因が特定できるのは全体の15%程度。これは「特異的腰痛」と呼ばれており、原因としては腰部椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などが上げられます。残りの約85%は、原因がはっきりしない「非特異的腰痛」。すでに触れたように、これまでは筋力や関節の柔軟性の低下などで説明されてきました。
そして近年、非特異的腰痛の原因としてスポットライトが当たるようになったのが、疲れやストレスです。筋力不足、筋肉の血流不全、関節の柔軟性の低下などで肩こりや腰痛が起こるのは間違いないのですが、それ以外のストレスで起こるこりや痛みは、想像以上に多いようなのです。
腰痛が筋力不足や関節の柔軟性の低下によって生じるなら、腰痛を訴える人の割合も、加齢とともに右肩上がりになりそうです。何も運動をしていないと、筋力や関節の柔軟性は加齢とともに低下するからです。
ところが、現実は違います。腰に慢性的な疼痛(いわゆる腰痛ですね)を感じる人の割合を調べた研究では、腰痛は高齢者ではなく40代女性に圧倒的に多いという結果が出ているのです(厚生労働省「筋骨格系慢性疼痛の疫学および病態に関する包括的な研究」(慶應義塾大学)、厚生労働省「平成23年度・慢性の痛み対策研究」)。
■ストレスと「慢性的な痛み」の関係
非特異的腰痛に関しては、近年脳との関係がことに注目されるようになっています。
福島県立医科大学が、原因不明の腰痛患者の脳の血流量を調べたところ、なんと7割で脳の血流量が低下していました。脳が健全に働くには十分な血流が不可欠ですから、血流が低下すると脳の機能が落ちる懸念があります。
アメリカ・ノースウエスタン大学が、さらに詳しく脳と腰痛の関わりを調べたところ、脳内で活動がとくに低下していたのは「側坐核」という部分でした。
痛みが起こると、神経を介して脳の「腹側被蓋野」という部分に情報が伝わります。腹側被蓋野ではドーパミンがつくられて、側坐核で痛みを抑える鎮痛物質オピオイドが合成されます。このオピオイドが出ると、痛みを抑える「下行性疼痛抑制系」というシステムが活性化し、脳が痛みを自動的に抑えてくれます。
慢性的なストレスを受けると、脳の血流量が低下して側坐核の働きがダウンします。
つまり、ストレスは痛みの原因をつくるのではなく、小さな痛みを抑える脳の働きに悪影響を及ぼして、慢性的な痛みを生み出しているようなのです。
TODO
腰痛も、椎間板ヘルニアも、メンタルにアプローチしてみる
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中野 ジェームズ 修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)
フィジカルトレーナー
1971年生まれ。フィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士。アディダス契約アドバイザリー。日本では数少ない、メンタルとフィジカルの両面を指導できるスポーツトレーナー。トップアスリートや一般の個人契約者の、やる気を高めながら肉体改造を行うパーソナルトレーナーとして数多くのクライアントを持つ。現在は大学駅伝チームのトレーナーも務めつつ、講演会なども全国で精力的に行っている。おもな著書に、『下半身に筋肉をつけると「太らない」「疲れない」』(だいわ文庫)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)、『血管を強くする 循環系ストレッチ』(サンマーク出版)などがある。
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(フィジカルトレーナー 中野 ジェームズ 修一)

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