中東情勢の影響で、電気代が高騰している。電気代を安く抑える方法はあるか。
住まいるサポートの高橋彰さんは「エアコンの型式や使用法など、設備に目が向けられがちだ。たしかに効果はあるかもしれないが、一時しのぎに過ぎない。真の問題は“壁の中”にある」という――。
■電気代の値上げが始まっている
梅雨も後半戦を迎え、いよいよ冷房を本格的に使い始める季節がやってきました。
気になるのは、中東情勢の緊迫によるエネルギー高騰で、6月使用分から始まった電気代の値上げです。気象庁が「今夏は全国的に気温が高い」と予報するなか、家計への影響を心配する読者も多いのではないでしょうか。
エアコンをつけているのに、夏は熱気がこもり、冬は芯から冷えるように寒い……。当然、電気代は跳ね上がり、気づけば天井近くのコーナーにはうっすらと黒カビまで。
これは、エアコンの古さとも、気温や日当たりとも、家の築年の古さとも関係がありません。
「コンクリート造だからでは」「断熱性の問題では」
カンのいい読者は気づいたかもしれませんが、実はそれも半分不正解です。
「問題は素材や断熱材の厚さではありません。断熱材を、どこに、どのように配置しているか。
その設計思想の違いが、住まいの快適性や耐久性を決めているのです」
こう指摘するのは、米国の建築事情にくわしい岡田早代さんです。
岡田さんは、米ウェントワース工科大学大学院で客員教授を務め、米国で学校・保育園などの公共建築物の新築・改修や低所得者層の集合住宅の設計を手がけてきた建築家です。
筆者は、結露のない健康・快適な住まいづくりをサポートする会社を経営し、日々、住宅の性能に向き合ってきました。本稿では、岡田さんに日米のマンション(集合住宅)性能の違いについて伺い、我が国における鉄筋コンクリート造(RC造)の断熱方法の問題について考えていきたいと思います。
■断熱材はどこに入っているか
「断熱材を、どこに、どのように配置しているか」
一体どういうことなのでしょう。
図表1を見てください。
RC造の建物では、断熱材をコンクリートの躯体※の内側か外側か、どちらに施工するかによって、建物の基本性能が根本的に変わります。
※注記:基礎、柱、梁、壁、床など、建物の構造を支える骨組みの総称
日本のマンションで一般的なのは「内断熱」です。コンクリート躯体の内側、つまり室内側から断熱材を貼り付け、その上から石膏ボードを施工します。
内断熱では、コンクリート躯体は外気にさらされます。
冬には外気温で冷やされ、夏には強烈な日射と高温外気によって加熱されます。巨大な蓄熱体であるコンクリートが、外部環境の影響を直接受け続ける構造です。

外気にさらされた躯体の温度が、断熱層が途切れる、床スラブや梁、壁を通じて室内に影響を与えます。
この現象を「ヒートブリッジ(熱橋)」といいます。
コンクリートは、木材などに比べても熱伝導率が高い素材です。熱を通しやすいため、木造住宅などと比べても、熱橋が起こりやすいのです。
熱橋の典型的な場所は、窓まわり、バルコニーとの接合部、梁・柱の接合部、床スラブの端部などです。
特に内断熱では、コンクリートが外から内へと連続してつながっています。断熱材を室内側に貼っても、その「橋」を遮断することはできません。コンクリートという熱の良導体が、外気の冷たさをそのまま室内へ運んでくるのです。
その結果、局所的に室内の表面温度が低下します。
■「体感温度」を決める室温以外の要素
ここで重要なのは、「室温」と「体感温度」は別物だという点です。
たとえば室温が20℃あっても、壁の表面温度が15℃しかなければ、人はそこで寒さを感じます。人体は空気の温度だけで快・不快を判断しているのではなく、周囲の壁や床・天井から受ける放射熱(輻射)の影響を強く受けるからです。

これが「冷輻射」と呼ばれる現象です。
内断熱マンションでは、壁や床が冷やされることで冷輻射が発生し、体感温度が実際の室温よりも大きく下がります。暖房を強めても足元が寒いと感じるのは、エアコンの性能の問題ではなく、この冷輻射が原因です。
夏もこの逆のことが起きています。躯体のコンクリートが熱くなっているため、輻射熱の影響で、室温計で測る温度以上に暑く感じるのです。
■結露は「マンションの宿命」ではない
ヒートブリッジがあると、冬の壁の室内側の表面温度が露点温度を下回りやすくなります。
露点温度とは、空気中の水蒸気が水滴へと変わる温度のことです。冬場の室内は暖房や生活で加湿されやすく、窓まわりや梁の周辺で表面温度が下がると、そこで結露が発生します。
マンションの梁周辺のクロスが剥がれたり、黒ずんだりしたのを目にしたことはないでしょうか?
特に梁周辺は熱橋になるため、結露が生じやすく、ビニールクロスの劣化が早くなりがちなのです。
結露は単なる不快というだけの現象ではありません。放置すれば、カビの発生、内装材の劣化、アレルギーリスクの上昇、そして長期的な躯体劣化へとつながっていきます。
「マンションだから結露するのは仕方ない」という説明を耳にすることがあります。
しかし、岡田さんはこう指摘します。
「外断熱では、躯体全体が断熱層に守られているため、室内側の表面温度が安定します。ヒートブリッジが大幅に減り、結露リスクも低減します。結露はコンクリートの宿命ではなく、内断熱という設計の結果です」
「マンションだから仕方ない」のではありません。「内断熱だから起きやすい」のです。
欧米の多くの国々では、ヒートブリッジ対策を施し、気密・断熱層を連続させることが義務化されています。そのため、実質的には内断熱のRC造の建築物を建てることは困難です。基本的にはすべての新築RC造の建物は外断熱になっています。
■建物寿命を縮めてしまう
内断熱の問題は、室内の寒さや結露にとどまりません。より長期的な視点で見ると、「建物そのものの寿命」にも影響を与えます。
鉄筋コンクリートは、温度変化によって膨張と収縮を繰り返す素材です。外断熱では、断熱層がコンクリートを包み込んでいるため、外気温の急激な変化から守られます。
躯体は比較的安定した温度帯に保たれ、熱による伸縮も抑えられます。
一方、内断熱では、コンクリートが直接外気にさらされます。冬は外気で冷やされ、夏は日射と高温外気で加熱されます。この温度変化が日々繰り返されることで、コンクリートに微細なひび割れが発生しやすくなります。
さらに、このひび割れは、水分の侵入経路になります。水分が入り込み鉄筋が腐食すれば、鉄筋は膨張します。それによりコンクリートは膨張破壊を起こします。中性化(コンクリートのアルカリ性が失われる劣化現象)の進行も早まりやすくなります。
もちろん、内断熱であれば直ちに深刻な劣化が起きる、というわけではありません。しかし、外断熱と比較した場合、躯体保護の観点では明らかに不利な構造といえます。
欧州で外断熱が標準化された背景には、省エネだけでなく「躯体を守り長寿命化を図る」という思想があります。特にドイツや北欧では、建物を80年・100年単位で使う前提で設計が行われており、躯体を外気から守ることは「資産保全」として位置づけられています。

■なぜ外断熱が「標準」にならないのか
外断熱は、技術的に難しい工法ではありません。日本国内にも実践例はあります。では、なぜ標準化しないのでしょうか。
大きく3つあります。
・建築基準での規定がない

・作る側にインセンティブが働かないコスト構造

・消費者のニーズがない

順番に見ていきましょう。
まず一つは、建築基準や省エネ基準が「工法」ではなく「性能値」で規定されていることです。
一定のUA値(外皮平均熱貫流率)を満たせばよい。一応設計上はヒートブリッジへの考慮が必要ですが、欧州ほど厳しい基準にはなっていません。躯体保護の水準も、厳密に評価されるわけではありません。そのため、内断熱でも法的には何も問題がありません。
法制度が工法を誘導しない限り、市場は目先の売りやすさから、どうしても短期コストに傾きます。
欧州の多くの国々では、外断熱が事実上標準化されているのとは対照的です。特に寒冷地では、内断熱のままでは省エネ基準を満たしにくい設計思想が採用されており、法制度が工法を事実上規定しているのです。
日本では、法制度が工法に対して中立を保つ形で設計されてきました。しかしその「中立」が、結果として内断熱を維持し続ける方向に働いています。
岡田さんは言います。
「日本の住宅の性能が低いのは、技術がないからではありません。どこまでを最低基準とするかを、社会として選んできた結果です」
■インセンティブが働かない
二つ目は、コストの構造的な問題です。
内断熱による躯体へのダメージや、ヒートブリッジによる結露は、すぐには目に見えません。10年、20年と経つにつれ、修繕コストとして表面化してくる問題です。
建設時のコストを管理するのはデベロッパーです。しかし将来の修繕費を負担するのは、管理組合、すなわち購入した居住者です。
一般的に、内断熱に比べて、外断熱はコストがかかります。しかし、先述のとおり、そもそも「工法」は建築基準や省エネ基準に入っていない。購入時点では購買者から評価もされにくい。
そうなると、短期の販売競争においては、どうしても初期コストが優先されやすくなります。長寿命な躯体性能にすることは、販売価格に反映されにくく、デベロッパーにとって優先順位は低いのです。
このディスインセンティブ構造こそが、日本で内断熱を温存してきた大きな要因の一つです。
以前の本連載記事でも触れたとおり、東京23区の新築分譲マンションの平均販売価格は1億円を超える水準にあります。それほど高額な商品でありながら、将来の修繕リスクに直結する工法の選択が、買い手にはほとんど開示されていないのです。
そして、約37%のマンションでは、修繕積立金が不足しているというデータもあります。
日本のマンションは、なぜか躯体の劣化が早い工法を選ぶ一方で、最初の売りやすさから修繕積立金を必要以上に抑える傾向が顕著なのです。
■消費者が求めていない
もう一つ見落とせない理由があります。外断熱に対する消費者のニーズが、住宅市場の中でまだ顕在化していないことです。
デベロッパーは、売れるものを作ります。購入者が「外断熱かどうか」を問わない限り、わざわざコストをかけて外断熱を採用する動機は生まれません。立地、共用部の豪華さ、ブランド、価格――マンション選びの判断軸として定着しているのは、今もこうした要素が中心です。
そもそも、外断熱と内断熱の違いを知っている購入者は、ほとんどいないのが現状です。販売資料に工法の詳細が記載されることはなく、営業担当者から説明を受ける機会もまずありません。知らなければ、求めようがない。
岡田さんはこう指摘します。
「欧米では、住宅の性能は購入者が当然確認すべき情報として扱われています。気密測定の結果や断熱仕様を開示しない物件は、先進的な州や自治体では、そもそも市場で評価されない傾向が強くなっています。
一方で、日本では、その前提がまだ共有されていないのです」
以前の記事で触れたように、日本の新築分譲マンションの窓の断熱性能を示すU値すら、多くの購入者は知らないまま数千万円から1億円超の買い物をしています。外断熱か内断熱化は、さらに重要な情報です。
消費者の意識が変わることは、法制度の整備と同じくらい重要です。購入者が「外断熱かどうか」を問い始めれば、市場は動きます。デベロッパーが外断熱を「売り」として打ち出すようになれば、供給側の構造も変わります。制度が変わるのを待つだけでなく、消費者自身が「知る」ことが、変化の起点になりえるのです。
住宅は私的財産であると同時に、都市のエネルギー消費、居住者の健康、長期にわたる修繕負担に影響する社会インフラでもあります。
分譲マンションを購入する際には、ほかの条件とあわせて「断熱材はどこにあるか」を問う視点も持っていただければと思います。
岡田早代(おかだ・さよ)

マサチューセッツ州認定設計士、 ウェントワース工科大学大学院客員教授、自然エネルギー財団研究員(建築の脱炭素関連)。

2004年よりマサチューセッツ州で学校・保育園等の公共建築物の新築・改修、低所得者層の集合住宅の設計に従事。環境コンサルタントとしても活動している。

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高橋 彰(たかはし・あきら)

住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事

東京大学修士課程修了。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に高気密・高断熱住宅の工務店を無料で紹介する「高性能な住まいの相談室」を運営する住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)、『結露ゼロの家に住む! ~健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本~』などがある。

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(住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事 高橋 彰)
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