日本の文房具は海外でも高い評価を得ている。投資家の阿部修平さんは「中でもパイロットは単一ブランドとして世界一の売り上げを誇る。
高機能・高品質で、インドや中国でも人気だ」という。Forbes JAPAN編集長藤吉雅春さんとの対談をお届けする――。
※本稿は、阿部修平、藤吉雅春『コンパウンドグロース投資 世界を牽引する日本の新時代』(リンクタイズ)の一部を再編集したものです。
■海外売上比率が約8割のパイロット
【藤吉】パイロットコーポレーションというのは、万年筆のパイロットですよね。創業1918年の100年企業ですが、どこに注目されたんですか。
【阿部】これは日本の人も意外と知らないんですが、実はパイロットは筆記具業界ではグローバルシェア第2位という世界規模の会社です。ちなみに1位はニューウェル・ブランズ社というアメリカの会社ですが、ここはパーカーなど複数ブランドを展開しているので、単一ブランドとしてはパイロットが世界No.1の売り上げを誇っています。
【藤吉】調べてみると、1920年には万年筆を海外に輸出し始めているんですね。近年では消えるボールペン「フリクションシリーズ」が海外で大ヒットして、日本に逆輸入されましたが、もともと海外での評価が高いメーカーなんですね。
【阿部】今では海外売上比率が約8割です。おっしゃる通り、100年以上の歴史があってブランドの認知度も高く、品質が圧倒的にいい。世界ではボールペンといったらパイロットなんです。

■試験会場で重宝される、0.1mmの技術力
【藤吉】製造業の人たちが「日本のボールペンは世界最高の品質だ」と言うのを聞いたことがあります。海外メーカーのだと、インクがかすれて書けない、と。
【阿部】その点、パイロットのボールペンはインク詰まりが起こりにくく、最後までスムーズに書けます。これは、ペン先の金属ボールの回転の安定性とか、インクの粘度バランスなど日本企業ならではの技術力がなせる業ですよね。
ウチのアナリストから聞いた話だと、インドとか中国では入学試験でボールペンを使うのが一般的なんだけど、紙の質があまりよくないので、ペン先のボールの隙間に紙の繊維が入り込んでインク詰まりを起こしちゃうんだそうです。パイロットはボールとペン先の隙間の寸法精度が高いから繊維が入り込みにくい。だから学生の間でも試験中、決して不具合を起こさないパイロットの製品が人気なんだ、と。
【藤吉】パイロットはずっと業績がいいんですよね。スマホ全盛の時代になぜ筆記具の会社が好調なのか、ちょっと不思議だったんですが、その理由がわかりました。
【阿部】万年筆は欧米では一種の嗜好品として扱われてきた歴史がありますよね。その意味で近年所得が上がってきたインドとか中国では、むしろこれから高機能・高品質な日本製筆記具への需要が増えてくるんじゃないかな。これからアジアでは新興国を中心に6億人の新富裕者層が生まれてくるわけで、当面は日本製文房具への需要は増え続けると見ています。

■株式市場に認知されないと意味がない
【藤吉】そのパイロットが、どこかに改善余地があるということですよね。スパークスさんとしてエンゲージメントしたい部分というのはどこなんでしょうか?
【阿部】ここは、これまでIR活動をほとんどやってこなかったんです。最近まで決算説明会さえやっていなかったぐらいで。だから我々としては「もっとIRを活発にして株式市場と対話しましょう」ということを経営陣に言い続けました。そのかいあって最近、専属のIRチームができて、初めて決算説明会もやって、株式市場と対話を始めたというところです。
【藤吉】いくらいい会社でも株式市場に認知されないと意味がないですね。でも、パイロットのように独自の技術力をもっていて世界的なブランド力もあるのに市場に向けては何もやってないという会社は、実は日本には多い気がします。
■日本企業を狙うアクティビストたち
【阿部】そういう日本企業は顧客満足度も高いし、従業員には老舗で働いているという誇りがあるし、財務もいいから銀行も満足。みんなWin-Winなんだからいいじゃないか、ということになりがちなんですよね。
問題は、株主も会社のステークホルダーなんだという視点が抜け落ちていることです。だから株主が経営に口を出すと、「なんかウルさいのが寄ってきた」みたいな扱いを受けるんですが、株主を軽視している限り、その企業の株価はずっと低いままで、その結果、内部留保を狙ったアクティビストなどに買収されてしまうことになりかねません。
【藤吉】金融庁がスチュワードシップということを言いだした背景には、株主と企業が緊密に協力し企業価値を上げることが、結果的にアクティビストからの企業防衛にもなるという意味合いもあるわけですね。

【阿部】それはあると思いますね。一般的なアクティビストというのは「Bad to Normal」で課題のある会社を株主権の行使によって普通の会社にすることでエグジット(資金回収)します。
それに対して我々のファンドは「Good to Great」、つまり優良企業をさらに素晴らしくするという発想で、企業価値を高めることを目指しています。そのための対話であり、エンゲージメントなんです。
■日本企業がゴソッと買われてしまうリスク
【藤吉】実はそこも今回、伺いたかったポイントなんです。今、見てきたように日本には世界的に見てもトップクラスの技術力とブランド力をもった会社がたくさんある。ただ、じゃあそういう会社が非常に儲かっているかというとそんなことはないし、株価もそこそこで、時価総額としては意外と低かったりしますよね。
つまり海外のハゲタカ系のアクティビストファンドからすれば、かなり“お買い得”な状態で放置されてしまっているという問題があります。
実際に、中国政府と提携して日本の企業調査をしている会社が日本にありますが、そこの人に聞いたら「毎日のように中国側から買収絡みの問い合わせがある」と言うんですね。そこで名前が挙がったのが、日本人だったら誰もが知っているテレビCMで有名な大手製薬会社だったので驚いたのですが、もっと驚いたのは「中国人からすると全然、大企業じゃないです。むしろ安い」という認識だそうです。
円安という背景もあるにせよ、海外のファンドによって、日本企業の技術力ごとゴソッと買われてしまう可能性はあるのかなと実感しました。

【阿部】日本の経営者が自社の株価とか企業価値に対してあまりに無関心だと、そういうリスクが現実のものになってしまいますよね。
むしろ海外の投資家のほうが、日本企業の価値に注目してますよね。実際、僕のところにも海外の投資家が来て、日本株について意見を求められる機会が増えています。そのたびに僕は、株式市場においてPBR(株価純資産倍率)が1倍を切っている銘柄が何割くらいあるか、それを時間を追って日米で比較したチャート(「日米のPBR1倍割れ銘柄の比率」)を見せるんです。
PBRとは、株価を1株当たりの純資産で割った指標ですから、これが1倍を切るということは、すぐに会社を解散して資産を山分けしたほうが、株主が手にする金額は多いということになります。つまりその会社のビジネスが生む価値は実質ゼロ、もしくはマイナスと市場から評価されている状態です。
■今の日本は「80年代のアメリカ」?
【藤吉】実態はともかく、株価としては割安であるということですね。
【阿部】ではPBR1倍割れの企業が今、日本にどれくらいあるかといえば、2024年でだいたい30%ぐらいです。リーマンショックの直後はこれが70%近かったので、そのころに比べるとだいぶ低くなってはいるけど、2024年のアメリカは10%を切っていますので、いかに日本株が割安で放置されてきたかがわかります。
面白いのは、そのアメリカでも1980年代前半ごろは、インフレと不景気が重なるスタグフレーションの影響で、雑誌で「株式の死」という特集が組まれるほど株価は低迷し、PBR1倍割れの企業が5割を超えていたんです。そこから景気回復と個人マネーの流入で株高へと向かっていくわけですが、PBR1倍割れのときに割安だった米国株を買った人はみんな儲かった。
ウォーレン・バフェットもそのひとりです。
今、僕のところに来る外国人投資家は、そのことを知っているから、「歴史は韻を踏む」という言葉通り、今の日本に「80年代のアメリカ」を見ているのではないでしょうか。

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阿部 修平(あべ・しゅうへい)

投資家

1954年札幌生まれ、1978年上智大学経済学部卒業、1980年にバブソンカレッジでMBA取得。帰国後、株式会社野村総合研究所入社。企業調査アナリストとして日本株の個別企業調査業務に従事。その後、1982年4月にノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル(ニューヨーク)に出向し、米国機関投資家向けの日本株のセールス業務に従事。1985年、アベ・キャピタル・リサーチを設立(ニューヨーク)。クウォンタムファンド等欧米資金による日本株の投資運用・助言業務を行うとともに、欧米の個人資産家の資産運用を行う。1989年に帰国後、スパークス投資顧問(現スパークス・グループ株式会社)を設立、代表取締役社長に就任(現任)。2005年ハーバード大学ビジネススクールでAMP修了。2012年6月より株式会社国際協力銀行(JBIC)リスク・アドバイザリー委員会委員を務める。

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藤吉 雅春(ふじよし・まさはる)

Forbes JAPAN編集長

1968年佐賀県生まれ。2019年3月より『Forbes JAPAN』編集長。
著書『福井モデル 未来は地方から始まる』(文藝春秋)は2015年、新潮ドキュメント賞最終候補作になった。2016年には韓国語版が発売され、韓国オーマイニュースの書評委員が選ぶ「2016年の本」で1位に。2017年、韓国出版文化振興院が大学生に推薦する20冊に選ばれた。他に『ビジネス大変身! ポスト資本主義11社の決断』(文藝春秋)や『未来を「編集」する シンクタンクAPIの実験』(実業之日本社)などがある。

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(投資家 阿部 修平、Forbes JAPAN編集長 藤吉 雅春)
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