自己紹介では何を話すのが正解なのか。企業の組織開発を支援する経営者の安斎勇樹氏は「単に所属や役割といった履歴書的なスペックを開示するだけではもったいない。
興味や価値観など、深い部分を話せるように、定期的にアップデートしておくのがいい」という――。
※本稿は、安斎勇樹『静かな時間の使い方 自分の解像度を上げる「独りの思索」の全技法』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■定期的に「自己紹介」をアップデートする
職場に新しい人が入ってきたとき、異動して新しい部署の人に挨拶するとき、社外の交流会や懇親会、子どもの保護者会や地域の集まり……。そんなとき、「自己紹介をお願いします」と言われたら、あなたはどんなことを話すでしょうか?
多くの人は、この「自己紹介」という儀式が苦手だと思います。かくいう私もそうです。
なるべく短い時間で、会社名や部署名、担当している業務、名刺に書かれている肩書きなど、最低限の情報でやりすごす。少し長めに話さないといけない場面であれば、前職の勤務先や職種、大学で専攻していた分野といった経歴をプラスして話す人もいるでしょう。
いずれにしても、「所属」と「役割」など、履歴書に書かれているスペックを開示して終えるのがふつうです。
しかしここで提案したいのは、自分の「自己紹介」の内容について、真剣に考えてみるという習慣です。実際にリフレクション(内省)が上手な人は、「自分についてなんて説明するとしっくりくるか」を定期的に見つめ直し、アップデートしています。
もちろん、これは自己紹介の気まずい儀式を克服しましょうという話ではありません。
たとえばですが、あなたがかつて卒業した母校の「特別授業」にゲストで呼ばれたとして、30分くらいかけて生徒に「自分は何者か」について話すとしたら、何を伝えるか? を考えるようなイメージです。

■「いまの自分はどんな人間なのか?」
なぜ、自己紹介についてリフレクションする必要があるのでしょうか? 
リフレクションの習慣を続けていると、だんだん他人ではなく、自分自身に目が向くようになっていきます。できごとそのものではなく、自分にとっての意味づけを問い直す。誰かの言動ではなく、自分のモヤモヤを掘り下げてみる。
他者の評価ではなく、自分の中に生まれた小さな学びに注目する。ソーシャルノイズの言いなりになるのではなく、自分の興味の飽きに敏感になる。
こうした静かな時間を積み重ねていくと、まわりからどう見られているかが気にならなくなってきます。自分はどんなことに関心があって、どんな価値観を持った人間なのかに関心が向いて、自分の解像度が上がってくるのです。
■名刺にある情報以外の自分を語る
とはいえ、人は社会的な生き物です。家庭、学校、地域、職場など、さまざまな共同体に所属しなければ生きていくことができません。
大事なことは、そこで「何を背負わされているか」ではなくて「どのような自分として関わりたいか」を自分の意思で決めているかどうかです。
新しく出会った人に対して、あるいは久しぶりに会う人に対して、自分をどう説明するのか。
静かな時間の中で見つめ直し、アップデートしていくことは、自分を外側(会社・役職など)からではなく、内側(価値観・関心など)から位置づけ直すための、とてもよいエクササイズになります。

ここをサボってしまうと、「自分はこの会社の、この部署で、この役割をしている人間です」といった、他人から与えられた役割だけでしか自分を語れなくなってしまいます。それはあなたそのものではなく、あなたの名刺に書かれた情報です。
■ 自分の興味関心や専門性も添える
ここで少し、私自身の話をさせてください。私は20代の頃、まわりの同年代が次々と就職していくなかで、大学院に残って研究を続けていました。
みんなは給料をもらい、出世の階段を上り始めている。一方、私は学費を払いながら、学生証を持ち続けている。引け目を感じてもおかしくない環境でした。
それでも私は、「大学院でワークショップの研究をしています」という自己紹介にこだわっていました。ワークショップを研究し、その専門家であることは、自分にとってのプライドであり、アイデンティティだったからです。
他人からどう見えるかより、「自分はこういう人間として社会にいたい」という意思表明として、この自己紹介を選んでいたのだと思います。
その後、32歳でMIMIGURIという会社を起業し、ベンチャー企業の経営者になりました。しかし心の中では、「経営者です」「MIMIGURIの社長です」と名乗ることに、強い違和感がありました。

そこでしばらくの間、このように自己紹介していました。「会社を経営しながら研究しています」「研究者であり、経営者でもあります」
さらに、「経営と研究を往復しながら、集団の創造性や問いのデザインを探究しています」といった具合に、自分の興味関心や専門性も添えるようにしていました。
■半年に一度「アイデンティティ」を微調整
そして40代に入り、また自己紹介が変わってきました。いまの私にとって、「研究者です」「経営者です」という自己紹介は、自分のすべてではないという感覚が強くなってきました。
それよりも、「こういう本を書いてきた作家です」と、作品ベースの自己紹介をすることが増えています。
時間が許す場面では、作品の背景にある価値観――何にこだわっているのか、何はやりたくないのかといったポリシーも、セットで説明するようにしています。
こうして振り返ると、私の自己紹介は、何度もアップデートされてきました。半年に一度は微調整をしていて、これも立派なリフレクションの一部だと思っています。
■自己紹介には「4つのレイヤー」がある
どのように「自己紹介」をアップデートすればよいか、もう少し構造的に整理してみましょう。自己紹介には、大きく分けて①経歴、②強み、③興味、④価値観の4つのレイヤー(層)があります。①は表層的な情報で、④に向けて深層に進んでいきます。
① 経歴

所属(会社名・部署名)、役割、肩書き、職歴や学歴などのスペックのことです。
履歴書や名刺に載っている情報がここにあたります。多くの人が、自己紹介をしてください、と言われたときにまず語るのは、このレイヤーです。
② 強み

もうひとつ深いレイヤーに行くと、そうした役割を支えている能力、スキル、得意分野、専門性があります。「マーケティングが得意です」「ずっと人事をやってきました」など、経歴とともに語られがちなレイヤーです。ここまで含めて自己紹介している人も、一定数いると思います。
■あなたの「譲れないポリシー」は何か
③ 興味

さらにその下には、興味のレイヤーがあります。何に関心があるのか、何が好きなのか、何を面白いと思っているのか、というレイヤーです。その人の人となりが、よく表れる部分です。
それが得意かどうかは別として、「最近、生成AIに興味があります」「この本がすごく面白くて、深掘りしています」など、いま自分がどんなテーマを追いかけているのか。私はこれを「探究テーマ」と呼んでいます。
④ 価値観

そして、いちばん根っこにあるのが、人生の中で形成されてきた価値観や信念です。親からの影響、育ってきた環境、経験を通して形づくられた信念、譲れないポリシーといったものです。
ここまで自己紹介に含める人は、おそらく多くないでしょう。
こう見てみると、自己紹介が経歴、せいぜい強みぐらいにとどまっているのは、ある意味では当たり前のように思えます。ただ、それだけだともったいないな、と私は考えています。
■主体的に生きるための大切な習慣
もちろん、すべてのレイヤーをどんな場面でも必ず伝えなければいけない、というわけではありません。大事なのは、語るかどうかは別として、こうしたレイヤーで自分をとらえ直しているかどうかです。
そのうえで、どのレイヤーの情報をみんなに知ってもらいたいのかを考える。職場や社会の人間関係の中で、どういうふうに自分を位置づけたいのかを考える。これが、自己紹介をアップデートすることの、もう一歩踏み込んだ意味です。
人生100年時代、ひとつの会社、ひとつの肩書きだけで完走できる人は、むしろ少数でしょう。職場、家庭、友人関係、オンラインコミュニティ……。いろんな顔を持ちながら生きることが、当たり前になっていきます。
だからこそ、自分をどのように紹介するのか、少しこだわってみる。
これはソーシャルノイズから健全な距離を取りながら、主体的に生きていくための大切な習慣だと私は考えています。

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安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)

MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』『問いのデザイン』『新 問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。

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(MIMIGURI 代表取締役Co-CEO 安斎 勇樹)
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