■人づきあいを怖がる子どもたち
近年、小学校から高校に共通する問題の一つに、集団の中に身を置くことに不安を抱く子どもたちの増加があります。
「他人が怖い」「どう接していいかわからない」と言って教室に入ることを恐れたり、人とかかわることを避けたりするのです。
元来、人は集団を形成して生きていく存在です。他の動物と比べると、単独ではとても弱い存在です。だからこそ、不特定多数の人たちと手を取りあって社会を作り、身を守ったり、何かを開発したりすることで発展してきたのです。
いまも、社会はその系譜の上にあるので、成人になれば社会の一員として活動しなければなりません。学校で子どもたちが行なっているのは、そのための訓練です。
学校には、クラス、班、部活動、委員会などを軸としたさまざまなグループがあります。子どもたちはそれらに属しながら、〈ことばの力〉を磨き、他人と仲良くしたり、協力して何かを成し遂げたりする経験を積んでいくのです。
年齢相応の〈ことばの力〉を有する子は、他の人たちとの信頼関係を構築し、グループの中に自身の居場所を確保し、他人と手を取りあって課題に挑戦したり、困難を乗り越えたりしていけます。
■「あの子は自分と絶対合うわけない」
ところが、学校の先生によれば、近年は言葉を適切に使用できないことで、集団の中に溶け込むことができず、一方的にそこから離脱する子が増加しているといいます。
東京都の小学校に勤める男性教員は次のように話します。
他人と接することに苦手意識を抱く子どもは年々多くなっていますね。小学校に上がってきた段階で、どうすれば他の子たちとうまくかかわっていけるのかということがわかっていないのです。
人はそれぞれ価値観も経験も考え方も違うので、話しあうことによって違いを認めてわかりあうところからでしか始まらないじゃないですか。でも、相手と口をきく前から、「あの子はこういう人間だから自分と絶対に合うわけがない」と想像だけで決めつけて、はじめからかかわろうとしない子が一定数いるんです。
あるいは、他人との間に誤解が生まれたら、ちゃんと話しあわなければそれを解くことはできませんよね。自分についてどう思っているのか、その理由は何かと確かめなければならない。でも、そういうことをせず、一足飛びに「私は嫌われた。もう居場所がない」と思い込んで、学校に来なくなる。
どちらの子にも共通するのは、人づきあいの基本である他者と言葉を介して理解しあうということを最初から放棄してしまっている、あるいはそれをする力が極めて弱いということです。本来は幼い頃から他人と公園で遊んだり、一緒に何かに挑戦したりしながら、そういう力をつけていかなければならないのに、機会が乏しいゆえに、他人とどうかかわっていいのかわからないのです。
■遊びの約束も「先生、代わりに言って」
こういう子どもたちの大半は、幼い頃から自分の力でコミュニケーションを取らず、まわりの大人に代わりにやってもらう傾向にあるといいます。
小学校に進学した後も、こういう子は同じことをします。中には、友達と遊ぶ約束をすることですら「先生代わりに言って」と頼る。
保育園や幼稚園と違って、小学校の先生にはそうしたことまで代行する時間の余裕はありませんし、親がいちいち出しゃばればまわりの子から煙たがられます。
ゆえに、彼らは小学校の早い段階から人づきあいに苦手意識や恐怖心を抱くようになります。それが先述のような、人とかかわることをはじめから諦めてしまったり、勝手な思い込みを膨らましてしまったりする行為につながるのだそうです。
■「ダル」「ヤバ」ですべてを済ませる
同じ先生によれば、これ以外にも、乱雑な言葉しか使わないため、相手を理解できていなかったり、誤解を生じさせたりする子が増えているとのことです。
もう一つ目立つのは、子ども本人はコミュニケーションに苦手意識がなくても、雑な言葉でしかやり取りしていないために、相手とわかりあうことができていないというケースです。
こういう子の特徴は、「Aって家でヤバいらしいよ」とか「Bってクラブで無双してるんだって」という雑な表現をすることです。そこに深い思考がないので、教員に何がヤバいのか、何を無双しているのかと聞かれても、ちゃんと答えられない。つまり、相手のことを理解していないのです。
また、乱暴な言葉はまわりに余計な威圧感を与えます。
これではまわりがその子と仲良くやっていきたいと思ってもできません。雑な言葉ばかりを使うことで、自分自身で他人を遠ざけてしまっているんです。
相手の人間性や感情をきちんと理解していなければ、なんでもないところで誤解が生まれてしまいます。
たとえば、C君がD君の性格や考えをよく知らないままつきあっていれば、D君がよかれと思ってした注意を「悪口を言われた」と間違って受け取るかもしれません。あるいは、EさんがFさんと一面的なつきあいしかしていなければ、これまで知らなかった別の側面を見たときに、「Fさんに裏切られた」と感じるでしょう。
言葉でしっかりとした絆を作り上げていなければ、両者の関係が壊れるのもあっという間なのです。これが彼らにとっての生きづらさになっていくことは容易に想像がつくと思います。
■中学で不登校になってしまう子の共通項
神奈川県の中学校に勤める男性教員によれば、人間関係がより複雑になる中学では、こういう子たちは不登校や別室登校になる傾向があると言います。
先生の言葉です。
いまの中学では、クラスに数人は教室に入ることに不安を感じて別室登校をする子がいます。学校には来られるけど、クラスメイトの中にいるのが苦手なので、別の教室で自習をしたり、校長室で給食だけを食べて帰ったりする。
こういう子たちの多くは、中学卒業後は、通信制高校へ進学します。授業はすべてオンラインなので、人と接しなくていいので楽なのです。ただ、不安なのは彼らが社会に出た後です。一時しのぎで通信制へ行ったとしても、実社会に出たときに対応できるかどうかは別の話ですから。
通信制高校の人気は増加の一途をたどっていて、現在は高校生の10人に1人が通信制高校に通っています。全員が全員、ことばの力の問題を抱えているわけではないにせよ、先生方の話によれば一定数いることは間違いないようです。
■高校生になると恋愛絡みのトラブルに
言葉をうまく使えないことから起こるトラブルは、高校生の間でも頻発しているそうです。
テストの点数が悪いだけで、無思慮にSNSで「死にたい」などと書き込んでネットパトロールで見つかって騒ぎに発展するとか、教員からある行動を注意されて説明を求められただけで「メンタル終わった」と言って学校に来なくなるといったことです。
さらに深刻な事態に陥ることもあります。
男女間できちんとコミュニケーションを取っていないので、一方が勝手につきあっていると思い込んでストーキングをして警察沙汰になるとか、家で少し嫌なことがあったときに女生徒が「助けてくれる人募集」と投稿して返事が来た人の家に行って性的被害に遭うなどです。
人間関係は年齢が上がるにつれてこじれやすくなりますし、問題も大きくなりがちです。
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石井 光太(いしい・こうた)
ノンフィクション作家
1977年東京生まれ。作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。著書に『物乞う仏陀』(文春文庫)、『神の棄てた裸体 イスラームの夜を歩く』『遺体 震災、津波の果てに』(いずれも新潮文庫)など多数。2021年『こどもホスピスの奇跡』(新潮社)で新潮ドキュメント賞を受賞。
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(ノンフィクション作家 石井 光太)

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