■クレーム以上、トラブル未満が発生したら
結論から言いましょう。
トラブルは、出来事自体では大きくならない。
情報の流れ方で、大きくなる。それが世の中です。
世の中の人間関係は、「正しかった人」が勝つゲームではありません。「情報を最後までコントロールできた人」が、傷を最小限に抑えられるゲームです。こんなふうに言うと、「被害を受けた側が我慢しろと言うのか」と反発する人がいるかもしれません。でも、そうではありません。
言いたいことは、もっと単純です。
問題が起きた瞬間、人は出来事そのものよりも、「誰に話すか」という第二段階で、その後の人生を大きく変えてしまうということです。
実は、多くの事件はトラブルではありません。
一方が、傷ついた。もう一方は、悪意がなかったと言う。どちらにも、それぞれの言い分がある。この「クレーム以上、トラブル未満」の領域こそが、人間関係がいちばん難しくなる場所です。
例えば昔の職場なら、こういう出来事は現場で終わりました。上司が呼び出し、「今回はここまでにしよう」と言う。双方が納得したかどうかは別として、とりあえず仕事は続く。それで社会は回っていました。
ところが、今は違います。
■情報は一度外に出ると「物語」になる
会社や組織という閉じた空間より、インターネットという開いた空間のほうが断然強くなりました。
一度外へ出た情報は、誰のものでもなくなります。最初に話した人のものでもない。書いた記者のものでもない。読んだ人たちが、それぞれ勝手に「物語」を作り始めます。
すると本来は、当事者2人だけの出来事だったはずなのに、数万人、数十万人が“陪審員”になります。
ここで起きるのが、「事実」と「物語」の逆転です。
人は事実だけでは判断しません。
「この人は昔からこういう人だったに違いない」
「きっと今回も同じことをしたんだろう」
「いや、逆に陥れられたんじゃないか」
れっきとした証拠がなくても、頭の中でストーリーが完成してしまいます。
なぜなら人間の脳は空白を嫌うから、分からない部分を「想像」で埋めてしまう。だからネットでは、「知らない」が一番少ない答えになります。
みんな、何かを知っていることになってしまう。
■相談相手を間違えると解決不可能になる
でも、本当は、誰も実際に起きたことを知りません。
さらに厄介なのは、「相談」と「告発」が同じものではないことです。相談とは、解決するために話すことです。告発とは、知らせるために話すことです。似ているようで、じつは目的がまったく違う。理屈臭く言えば、相談は未来を変えようとしますが、告発は過去を確定させようとする。
だから、相談相手を間違えると、解決できたかもしれない問題までもが、解決不可能になります。
これは会社だけではありません。学校でも家庭でも同じです。友人同士でも同じこと。
例えば、あなたが仕事の現場で傷つくことを誰かに言われたとします。まず、本人と話す。
この順番には意味があります。「事態を改善できる人」から順に知らせる仕組みになっているからです。逆に、一番最後のカードから切ると、もう後戻りはできません。SNSに書いた瞬間、その問題は本人たちの手元を離れます。
「じゃあSNSに書くな、と言うのか」と反発があるでしょう。そうではありません。組織が何もしない。相談窓口も機能しない。証拠も握り潰される――そういう状況では、外へ向かって声を上げるしかない場合もあります。
■トラブルで“稼ぐ”人も現れる
ただ、その瞬間に、問題は「解決」から「社会問題」へとがらりと姿が変わります。
社会問題になれば、多くの人は助けてくれます。でも、その代わりに、あなた自身も物語の登場人物になります。その覚悟は必要です。損得勘定のうえに社会は成り立っていますから、トラブルで“稼ぐ”人が現れるのも、自然ななりゆきです。
そうなる前に、できることがある。
前述したように、「誰に相談するか」を間違えないことです。そしてもしも、あなたが相談された立場であれば、慎重にするべきなのは、最初の返答です。
返事には、大きく3つあるでしょう。
1つ目は、「大変だったね。まず、何があったのか順番に話してください」。感情を受け止めながら、事実を急がない返事です。
2つ目は、「今、どうしたい? 相手に伝えたいのか、それとも私に聞いてほしいだけですか」。相談なのか、解決なのか、あるいは気持ちを整理したいだけなのか。目的を確認する返事です。
3つ目は、「この話は、あなたと私だけで考える話? それとも誰かに入ってもらったほうがいいですか」。問題を大きくするのではなく、適切な場所へ運ぶための返事です。
この3つに共通しているのは、「誰が悪いか」を決めていないことです。
■正論に勝るトラブル未満への5文字
人は、自分が裁かれることよりも、自分の話を途中で結論づけられることに強く反発します。だから最初の役割は、裁判官になることではありません。交通整理をすることです。
感情を整理し、事実を整理し、情報を整理する。その順番を間違えなければ、多くの事件はトラブルにならずに済みます。クレーム以上、トラブル未満。その曖昧な場所で正論より先に必要なのは、たった1つの質問かもしれません。
「どうしたい?」――この5文字が、現状をクリアにして、トラブル未満で事を収めることもあるのです。
最後にもう一度、くり返します。
相談するなら、相手を選べ。
相談されるなら、相手を確かめろ。
「それで、自分は何したい?」「それで、あなたは何したい?」
これをはっきりさせることで、トラブルの収束不可能性を防げるのです。
人間関係は、正しさだけでは続きません。だからこそ、感情だけでも、法律だけでも足りない。必要なのは、「情報は一度外へ出たら戻らない」という現実をじゅうぶん理解して、「この情報を、今、誰に伝えるべきか」を一度だけ立ち止まって考えることでしょう。
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ひろゆき(ひろゆき)
2ちゃんねる創設者
東京都北区赤羽出身。1999年、インターネットの匿名掲示板「2 ちゃんねる」を開設。2015年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。YouTubeチャンネルの登録者数は155万人。著書に『ひろゆき流 ずるい問題解決の技術』(プレジデント社)、『なまけもの時間術』(学研プラス)などがある。
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(2ちゃんねる創設者 ひろゆき)

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